【I Love NY】3D映像ブームは音楽業界にも影響を与えるか?

(ここではSTEPのNYスタッフから届く、現地の最新音楽情報の一部をご紹介しています!)

映画「アヴァター」はもうご覧になりましたか?老若男女に至るまで、これほどまでに話題になっている映画というのは「スター・ウォーズ」以来かもしれません。それほどこの映画は、映画史上に残るマイルストーンの一つと言えると思います。
日本ではそれほど珍しいストーリーではないかもしれませんが、生物と自然の融合を善とし、それを破壊する人間を悪とするコンセプトやストーリー展開はアメリカでは非常に珍しい(というか超マイナー)と言えますし、それを人々が理解・感動・支持するというのは本当に素晴らしく画期的なことだとも言えます。少々大袈裟ではありますが、“アメリカは変わった”、“新しい時代の始まり”という声まで聞かれますし、少なくともブッシュの時代にはこのようなコンセプトの映画が登場することも、マスコミや観客からの高い評価や支持を受けることもなかったのですから。


さて、ご覧になった方には言うまでもなく、この映画の大きな魅力は映像における新しいテクノロジーです。実際に実写とCGなどのスペシャル・エフェクトを駆使した映像の融合は、映像新時代を築く革新的なものと言えますし、“宮崎アニメの世界を最新の映像テクノロジーを駆使した実写で再現しようとした”と言われるその映像世界は、観客を別世界に連れて行ってしまうほど圧倒的なものでした(アメリカでは今、「アヴァターの世界に行きたい」と願う現実逃避指向の若者が増え続けているそうです)。

3D映像も、これまでのものとは一線を画すものと言えます。私自身は正直言って3D映像というのは苦手で、何よりも目が疲れてしまって最後まで見続けることができないというのが悩みの種でした。しかし、今回の「アヴァター」の3D映像は“映像が客席に飛び出してくる刺激的な3D”ではなく、“観客がスクリーンの中に入り込むような目に優しい3D”で、あっと言う間に上映時間(3時間近く)が過ぎ去り、映画が終わっても目の疲れを感じなかったのは驚きでした(ただし、これには個人差があるようで、私の娘は鑑賞後、頭痛に悩まされていました)。

とにかく、この世紀の大作にアメリカの映像界は色めき立っています。
スポーツ・チャンネルのESPNは、早速3D映像のプログラムや専門チャンネルをスタートさせると発表しましたし、ゲーム・メーカーはどこも3Dのハードとソフトの開発に躍起のようです。「アメリカの不況を救うのは3Dだ」などと少々はしゃぎ過ぎの連中もいるようですが(笑)、確かに3Dが様々な形で普及していけば、家電やゲーム業界を始めとした市場が活性化していくことは間違いありませんから、これは冗談の一言では済まされないことかもしれません。

映像業界の一部としても存在する音楽業界も、3Dブームで活性化する部分も多々あると思います。新しいメディアやソフトが開発・普及していけば、音楽に関する受注も増えるでしょう。しかし、それはあくまでも二次的・副次的なものですし、音楽メディアそのものの活性化とは言えません。
そうなると、音楽メディア自体にも3Dの可能性はあるのかという話になってきますが、ご存じのように音楽にも3Dオーディオ・エフェクト(立体音響または3次元音響)というコンセプトやテクノロジーは以前からありました。例えば、コンサート・ホールや映画館などでは既にこのテクノロジーは確立していますし、中でもサラウンド方式のオーディオ・システムは、アメリカでは家庭内でもかなり普及しています。

そうした中で、日本でも以前話題になったと思いますが、ホロフォニックスというテクノロジーがかつてありました。これはアルゼンチン出身のヒューゴ・ズッカレリというエンジニアが発明・開発したもので、イギリスのカルトなインダストリアル系バンド、サイキックTVがアルバムでそのテクノロジーを採用して一部で大きな話題となりました。その後、ホロフォニックスはピンク・フロイドの『ファイナル・カット』や、マイケル・ジャクソンの『BAD』で効果音の一部として使われ、スティーヴン・スピルバーグやジョージ・ルーカスなどもこのテクノロジーを使おうとしたのですが、発案者のズッカレリはホロフォニックスの秘密を公開したくなかったために、その使用権を第三者には許可しませんでした(一説には、ホロフォニクスのテクノロジーが普及してしまうと、テクノロジーの急激な変化によって当時のテクノロジーが混乱・破綻を来してしまうことを恐れた、とも言われています)。

今回は懐かしい(?)ホロフォニックスの話もご紹介しましたが、この先、ホロフォニックスが復活するのか、それとも全く新しい3D音響テクノロジーが登場するのかはわかりません。いぜれにせよ、これまで数々の新たなテクノロジーによって市場が活性してきた音楽・音響業界が、映像業界の3Dブームを黙って見過ごすことはあり得ないと思われます。果たして、「アヴァター」で火が付いた映像新時代に続いて、音響新時代は到来するのでしょうか。新しいディケードを迎え、新しい音響テクノロジーや音楽メディアにも期待したいところです。

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