【I Love NY】月刊紐育音楽通信 September

このメルマガの「I Love NY」でも、度々ブルックリンのことを取り上げていますが、
先日、なんと2016年の民主党大会がブルックリンのバークレー・センターで
行われるという発表が飛び込んできました。これはかなり凄いニュースですし、
これでバークレー・センターのあるダウンタウン・ブルックリンを中心として、
再開発が益々、そして急ピッチに行われることは必至ですし、そこで、一応NY州の
上院議員出身であるヒラリーが大統領候補に正式に選出され、ジェイZや
ビヨンセなどといったブルックリンのセレブ達のバックアップも受けながら、
一層の人気獲得を目指していくことは間違いないように思います。
ブルックリナイト(ブルックリンっ子)には、勢いづいて、
再びブルックリンに名門ドジャーズが戻ってくる!とか、
果ては、ブルックリンが再び独立した行政区としてニューヨークから独立するぞ!
などと言っている人もいる始末です。


そうは言ってもマンハッタンも負けてはいません。ペンシルバニア駅の西南に位置する
ハドソン側沿いのハドソン・ヤードの開発は急ピッチに進んでいますし、
これが新たなミッドタウンを形成することは間違いありません。
また、ダウンタウンのサウス・ストリート・シーポート周辺も、北側にある
放置されたままの市場跡がとてつもない規模の再開発を待っています。
(何でもマンハッタンにビーチを作るそうです!)。
ブロンクスも、ドナルド・トランプが私産を投じて、ジャック・ニコラウスの
デザインによるニューヨーカーのために建設中であった公営ゴルフ場が、
ようやく今年の秋にはオープンの予定で、これも大きな話題となっています。
ヤンキー・スタジアムやブロンクス動物園&植物園くらいしか見所のなかった
ブロンクスが、これで大きな再開発を迎えることになるのではないかと予想されます。

最近は何かとバブリーな話題が多く、富裕層を中心に浮き足立っているような感じの
ニューヨークですが、もっと住人に優しい、住みやすい町になって欲しいと望む
一般庶民の声は、なかなか届かないようです。

トピック:名門経済誌がとらえる音楽業界の現状

日本という国はいわゆる先進国の中ではダントツに紙(紙媒体)依存度の高い
国であると思います。
ニューヨークでは、大型レコード店に続いて大型書店が消えつつありますし、
出版社・新聞社の身売り話を始め、デジタル化への移行に遅れたアメリカの出版社は
益々生き残れなくなってきています。
しかし、東京にはまだ大型レコード店も大型書店もありますし、まだ紙媒体の書籍を
読む人も多く、紙媒体の雑誌の影響力もまだまだ絶大であると感じます。
これにはいろいろな要因が考えられますが、大きな理由としては、紙媒体
(特に雑誌)に詰め込まれる情報量の多さと、国土の狭さ故の情報収集&伝達と
ディストリビューションの早さがあげられると思います。
アメリカという国は本当に国土が広いですから、情報を集めるのにも伝達するのにも
時間が掛かりますし、ディストリビューションも容易ではありません。例えば、
アメリカでは欲しい商品が無く、取り寄せる場合(バックオーダー)に
信じられないほどの時間が掛かったりもしますが、日本は信じられないほどに
スピーディーです。
また、内容的にも、アメリカの雑誌の薄さに日本人は驚きますが、
日本の雑誌の分厚さにアメリカ人は驚愕します。
こうした国土の規模の問題だけでなく、情報処理能力(というと語弊がありますので、
情報し対する満足度や期待度とでも言いましょうか)に関しても日米では大きな
違いがあると感じています。

最近のニュースで驚いたことの一つに、この6月に日本版フォーブスが発刊された
ということがあります。
フォーブスは、1917年創刊という超名門雑誌であり、世界でも有数の経済誌ですが、
今やアメリカでフォーブスと言えば、毎年発表される長者番付くらいしか
注目・認知されることはありません。ニューヨークは五番街の南端、
ワシントン・スクエアとユニオン・スクエアの中間程に位置する閑静な住宅街に
威厳のある自社ビルディングを構えるフォーブスですが、ブランドとしての知名度は
相変わらずですし、今も高い年齢層の経済界のお偉方には読まれてはいますが、
若いビジネスマン達は、ネット上でもっとスピーディーでタイムリーな情報を
得ているようです。
実際に、このフォーブスも以前から身売り話が何度も出ています。最近でも、
ドイツのメディア企業が買収するとか、中国やシンガポールの投資会社が手を出すとか、
そのブランド・イメージを再利用しようとする海外の企業ばかりで、アメリカでは
他社からのアプローチはほとんどありません。

とは言え、フォーブスのブランド・イメージはまだまだ絶大ですし、その視点や論調は、
現在の経済界のメイン・ストリームとして健在であることは確かであると思います。
今回は、先日このフォーブスで音楽業界の現状と行方に関する記事が掲載されたので、
その翻訳を以下に伝えしたいと思います。コラムニストはボビー・オウシンスキーという
音楽プロデューサー&レコーディング・エンジニアで、アメリカでは数多くの
音楽プロデュースやレコーディング・エンジニアリングの本が高い売り上げと人気を
誇っており、高く評価されている人です。

 「音楽業界(の行方)は懸念されるべきなのか?」

ビルボード・マガジンは最近、ニールセン・サウンドスキャンの2013年末現在の
音楽売り上げ数を発表した。これは、RIAA(全米レコーディング業協会)や
IFPI(国際レコード業連盟)の最新の数字を繁栄したものとは言えないかもしれないが、
それでもその内容は“遠からず”であると言えるだろう。
どこでも音楽業界のお偉方達は皆、その数値を考察し、嘆いているのは確かであろうと
思われるし、ある意味でそれは当然のこととも言える。なにしろ2013年は、
iTunesが登場して以来、デジタル・ミュージックが下降に傾いた最初の年であるのだ
から。

この業界の“危険信号”は、2013年、デジタル楽曲の売り上げが13億4千万ドルから
12億6千万ドルに落ち込んだということだ。ニールセン・サウンドスキャンは、
同年のストリーミング数をまだ発表してはいないが、ストリーミングがデジタル楽曲の
売り上げを落とす要因となったことは誰の目にも明らかだ。
事実、デジタル・ダウンロードの売り上げは、ストリーミングによる売り上げの上昇に
相殺される形で落ちていくと指摘されているし、実際にそれらのデータが明るみに出れば、
その数は明らかになるだろう。

恐らく、さらに問題なのはアルバムの売り上げであると言える。
かつては業界の稼ぎ頭と言われたアルバムというメディアは、売り上げ的には
かつて無いほどの落ち込みを見せているし、さらにその落ち込みは今年・来年と
更に悪化すると思われる。
実際に2013年のデジタル・アルバムの売り上げは、前年比僅か0.1%減
(前年度1億1770万枚から1億1760万枚に下降)であるが、アルバムというメディア
全体の売り上げは2億8940万枚にまで落ち込み、前年比8.4%減となっている。

私達は今、再びシングル楽曲の時代にいると言えるし、消費者にとって
アルバムの意味は益々無くなってきている。しかも、注目を集める期間というのは
益々短くなってきており、巷は複合的な問題に溢れ、メディア自体も多岐に渡り、
本来長い期間に渡る継続性が問われるべきマスメディアの理想的な状況というのも、
益々見られなくなってきている。
もちろん、アルバムというメディアが死に絶えることはないだろうが、
恐らくその楽曲数や収録時間は減っていくことだろう。アルバムというフォーマットの
優越性が取り戻されることは無いだろうし、ゆっくりと減少していく運命にあるし、
今や量よりも質が更に問われてきているのである。

CDの売り上げが更に落ちていると言うことは周知の事実であるが、それは一体
どの程度のものなのだろうか。昨年2013年、このキラキラと輝くプラスティックの
円盤状のメディアの売り上げは、総数1億6540万枚で14.5%の落ち込みとなっている。
もちろんこれはニールセン・サウンドスキャンの統計による数でしかないし、
実際にはCDはアーティスト達がライヴ会場やイベント、そしてオンラインで直接販売
した数は把握できないし、それらによってトータルの数は上がると思われる。

では、売り手に関してはどうなのか。結局のところ、売り手自体は同じであっても、
その市場占有率には変化が見られる。iTunesは前年比40.6%の伸びを見せている反面、
ターゲットやウォルマートといった一般大型小売店の売り上げは約27%も落ち込んで
いるが、家電ショップのベスト・バイやスケボー&スノボのトランス・ワールドでは
13.5%の落ち込み、さらに小さな規模の町のレコード&CDショップでは6.3%の落ち込み
となっている。逆に、それまでの伝統的な小売店とは異なるアマゾンやスターバックス
は唯一12.3%の伸びを見せていることが注目される。
  
ストリーミングを除くと、唯一の伸びを見せているフォーマットは、実はアナログ・
レコード(LP)のみである。アナログ・レコードは、なんと昨年32%の伸びを見せて、
一昨年の455万枚から600万枚の販売実績を残した。これは嬉しいニュースとも言えるが、
そうは言ってもこの数字は全体のアルバム売り上げの約2%にしか過ぎず、
レコード業界の大きさから考えると、その重要性は高くはない。正直言えば、
アナログ・レコードというフォーマット自体がどれだけ伸びようと、音楽ビジネスを
活性化するまでには至らないのである。

それでは、音楽業界の行方は懸念されるべきなのだろうか?
一言で言えば、それはノーである。
人は音楽で生計を立てていくことが無くなったとしても、人々はこれまでと同じように
音楽を求める。音楽は私達のDNAの中に存在するものであり、私達はどのような
フォーマットであろうと、常に音楽を消費していくのである。今確かなことの一つは、
音楽ストリーミングがリスナーの選ぶ音楽消費メソッドとなっていることと言える。
最初のデジタル音楽革命というのは、つい昨日のことのように見えるが、私達は既に
その中を生きているわけであるから、常に周りの状況に目を配っていく必要があるだろう。

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