【I Love NY】“エイジアン・インベージョン”は起こるのか?(L’Arc〜en〜Ciel、米倉涼子、ヒージュン・ハン、それぞれのアメリカ・デビュー)

(ここではSTEPのNYスタッフから届く、現地の最新音楽情報の一部をご紹介しています!)

日本でもL’Arc〜en〜Ciel(以下、ラルク)のニューヨーク公演のニュースは大きく報道されたのではないでしょうか。

まず最初にお断りしておきたいのは、私自身はこのラルクというバンドに関しては、日本での熱狂的な人気ぶりや華々しい過去などについて、リアルタイムではほとんど知らなかったということです。

私がラルクを知ったきっかけは、アメリカにおけるほとんどのラルク・ファンと同様、アニメ専門のケーブルTV局「カートゥーン・ネットワーク」で放映された「フルメタル・アルケミスト(原題は「鋼の錬金術師」)」のオープンニング主題歌でした。
これが一般的にはラルクの本格的な“アメリカ・デビュー”と言われています。「フルメタル・アルケミスト」のオンエアが始まったのは2004年11月のことでしたが、その約3年ほど前から始まっていた、同局の大人向け深夜番組枠(ニューヨークなどアメリカ東部では夜9時から朝6時まで)「アダルト・スウィム(Adult Swim)」という番組枠の中に同番組は登場したのです。


同番組枠は、基本的に“14歳以上指定”の番組をオンエアしていますが、必ずしもその範疇でなくても、様々な日本のアニメがトライアル的に、またアニメ・オタク向けに放映されてきました。
例えば、「名探偵コナン(Case Closed)」、「デス・ノート」、「犬夜叉」、「ルパン三世」、「機動戦士ガンダム」、「新世紀エヴァンゲリオン」、「交響詩篇エウレカセブン」、「攻殻機動隊」、「カウボーイビバップ」、「結界師」、「サムライ・チャンプルー」、「クレヨンしんちゃん」、「OH! スーパーミルクチャン」、「幽遊白書」、「天地無用!」、「トライガン」、「アレクサンダー戦記(Reign: The Conqueror)」、「トリニティ・ブラッド」、「コードギアス」、「ドラゴンボールZ」、「鉄人28号(Gigantor)」、「人造人間キカイダー」、「鉄腕アトム(Astro Boy)」などなど、実に様々なアニメがアメリカに輸出されていきました。

こうした中で「フルメタル・アルケミスト」は非常に人気の高いアニメの一つで、現在も放映は続いていますし、その続編も「フルメタル・アルケミスト:ブラザーフッド」として放映中です。
この「フルメタル・アルケミスト」がアメリカで人気を得た理由の一つは、西洋の“錬金術”をテーマに、舞台も19世紀のヨーロッパという、アメリカ人には馴染みやすい内容であったことと言われています。加えて、硬派・硬質なファンタジー・ストーリーと、“人体錬成”と呼ばれる生体を扱う錬金術というタブーを取り扱ったことなどが、いわゆるその手のテーマが好きなメタル・ファンやゴス・ファンの支持を得ることになり、彼等の多くがラルクの音楽にも興味を持っていったといういきさつがあります。
ですから、アメリカではラルクはいわゆる“ビジュアル系”好きのファンだけでなく、多くのメタル/ゴス・ファン達からも支持を得ていると言えますし、「フルメタル・アルケミスト」の影響で全国的に見ても決して見逃せない数のファンがいることは間違いないようです。

それにしても今回のニューヨーク公演は、なんとマジソン・スクエア・ガーデン。
これはかなり大きなチャレンジに出たということは間違いありません。
なんでも、当初は同じ敷地内にある約5千人収容のシアターの方で行われる予定であったそうですが、最終的には約2万人収容の“本館”であるアリーナで行われることになったそうです。

もちろんこれは、日本人の単独公演としては史上初の快挙です。
結局チケットはかなり余り、最後はタダ券がばらまかれたそうですし、観客もアリーナと1階席は完全に満席でしたが、2階席以上は半分ほどの入りに終わりました。それでもこれは日本の音楽シーンにとっては一つの“事件”であると言えますし、今後の同バンドを含めた日本人アーティストのアメリカ展開において、様々な可能性を生み出し得る大きなステップまたは試金石となったことは間違いないと言えるのではないでしょうか。

もう一つ、私には、客層が日本人ばかりでなく、アメリカ人客が思いの外多かったことも印象的であり、明るい材料であったと思います(何故かブラジルの国旗を振るブラジル人ファンもいました)。
これまで、数多くの日本人アーティストがカーネギー・ホールやアポロ・シアターなど、ニューヨークの名ホールで公演を行ってきていますが、今やそうしたホールは独自のプログラム企画よりも貸しホールとしての機会・機能の方が益々増してきているという状況の中においても、マジソンというメガ・ホールでの公演はあまりに格が違いますし、そのインパクトや話題性・影響力といった点においても、充分に評価できる出来事であると思います。

そうした中で先日、米倉涼子が、ニューヨークのブロードウェイで上演中のミュージカル「シカゴ」に、主役のロキシー・ハート役として出演することが決定したとのニュースが飛び込んできました。
同ミュージカルは96年の初演以来6000回を超え、「オペラ座の怪人」、「キャッツ」、「レ。ミゼラブル」に続いて史上4位のロングラン記録を更新中ですし、チケット販売数による人気度でも現在「オペラ座の怪人」、「マンマ・ミーア」、「ライオン・キング」に続いて4位という名作中の名作です。
このようなロングランの大人気ミュージカルに、僅か一週間(予定は7月)とはいえ、日本人が主演するというのは快挙を通り越して、これも“事件”と言えます(しかも、アジア人の役ではなく、アメリカ人の役ですし)。

この件に関してもラルク同様、ネガティヴな情報や意見はいろいろとあるようですが、その真偽の程がどうであっても彼女は間違いなくミュージカルの世界の最高の舞台に立つわけですし、私はそれをポジティヴにとらえて応援し、今後の推移を見ていきたいと思っています。

先月のグラミー賞結果に対する業界人達の意見の一つでも紹介しましたが、もうメイン・ストリーム的なものに関しては出るものは出尽くして、後は再生・再来を繰り返すだけ、などとも言われるアメリカ音楽シーンの現状の中で、日本人を含めたアジア系の進出は今後充分に起こりえる、というのは最もな意見であると思います。
事実、現在オンエア中の「アメリカン・アイドル」のシリーズ11では、アメリカ生まれではなく、韓国出身で十代で家族と共にニューヨークの韓国人街に移り住んだ22歳のヒージュン・ハンという青年が、韓国系アメリカ人としては初のファイナリストとなりました。残念ながら彼はトップ9の段階で落選となり、アジア系初の“アメリカン・アイドル”は実現せずでしたが、その素晴らしいトーンと美しいビブラートは、審査員であるジェニファー・ロペスの涙をも誘いました。私も彼の同番組最後のパフォーマンスとなったリオン・ラッセルの「ソング・フォ・ユー」(正確にはダニー・ハサウェイのバージョンを元にしていますが)を観て、鳥肌が立って涙が出そうになりました。
彼のアイドルはマイケル・マクドナルドとジェイムズ・イングラムとボビー・コールドウェ
ルだそうですが、ちょっとダニー・ハサウェイを思わせる深いトーンも魅力で、今回は残念な結果ではあっても、今後にも期待が高まるだけでなく、アジア系の“アメリカン・アイドル”が続々と出てくるのは間違いないと思われます。

ニューヨークは今年のNFLスーパー・ボウルでジャイアンツが優勝して大いに盛り上がりましたが、それに続いて話題なのが、ここしばらく弱小チームとして人気も落ち込んでしまったNBAのニックスの快進撃です。

もはやニックスなんかを応援するのはスパイク・リーしかいない(毎試合最前列でニックスを応援するリーの姿は名物になっています)、などと冗談が言われていましたが、今やバスケ・ファンでなくてもニックスの快進撃を話題にするような状態になっています。その原動力となっているのが、初の台湾系アメリカ人NBA選手(ポジションはポイント・ガード)、ジェレミー・リンです。

ハーバード大卒で、NBAにはドラフトではなくサマーリーグから昇格したという叩き上げの選手。しかもNBAに上がったものの、解雇の連続で、今のニックスも契約早々下部リーグに落とされましたが、そこで踏ん張り、ニックスに復帰したところで大ブレイク。その後の大活躍は日本でも紹介されていると思います。

台湾と言えば、日本でも話題だと思われるシンガーのリー・ユンチュンが一昨年にアメリカのオーディション番組「American’s Got Talent」にゲスト出演して話題にもなりました。

これまでアジア系は表舞台に出ることのなかった世界で、次々とアジアの才能が花を開かせ、話題になってきているのは本当に嬉しい限りです。
こうした動きは私の身の回りにおいても影響を及ぼしていて、私がチャーチ・ミュージシャンとして活動する黒人ゴスペル教会では、「サムはうちの教会のジェレミー・リンだね!」などと冷やかされたりもします。
正直言って、このアメリカという国でアジア人の地位というのはまだまだ極めて低いと言わざるを得ません。
表面には出なくても様々な差別もまだまだ存在します。
それに打ち勝つためにも、正面切って主張・抗議するのではなく、音楽やスポーツというレベルで人々の意識を少しずつ変革していくというのは大変素晴らしいことであると実感します。

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