【I Love NY】“タレント・ショー”が花盛りな米音楽界

(ここではSTEPのNYスタッフから届く、現地の最新音楽情報の一部をご紹介しています!)

“タレント・ショー”が花盛りな米音楽界

これまで何度かご紹介してきたアメリカ版“スター誕生”テレビ番組「アメリカン・アイドル」の人気は更に好評のようです。スティーヴン・タイラーとジェニファー・ロペスというセレブ審査員を迎えて、一般的な知名度やマスコミの注目度は益々上がり、今やアメリカのカルチャー現象の一つと言っても過言ではないくらいです。
「アメリカン・アイドル」のような番組は、アメリカでは一般的に“リアリティ・タレント・ショー”だとか、“インタラクティヴ・タレント・ショー”などとも呼ばれます
が、それ自体は別に新しい分野ではありません。こうしたオーディション形式の
“スター誕生”番組というのは過去にもいろいろとあって、良く知られているところでは
アポロ・シアターの「アマチュア・ナイト」もその一つです。エラ・フィッツジェラルドを筆頭に、ビリー・ホリデイ、ジェイムズ・ブラウン、スティーヴィー・ワンダー、マイ
ケル・ジャクソン、ルーサー・ヴァンドロス、ローリン・ヒルなど、ジャズ、R&B、ポッ
プスなどの錚々たる黒人アーティスト達が出演してきたことで有名です。


この「アマチュア・ナイト」をもっとマスな(つまり白人の)テレビ・メディアで取
り上げたとも言えるのが、80年代の初めから90年代半ばまで続いた「スター・サーチ」
と言えるでしょう。
この番組は2000年代に入ってリバイバルで再登場しましたが、なんといっても80〜90年代におけるこの番組の影響力は絶大でした。主立った名前を挙げても、ビヨンセ、クリスティーナ・アギュレラ、ジェシカ・シンプソン、ジャスティン・ティンバーブレイク、アッシャーなど、今の大物達が数多く名を連ねています。

余談ですが、こうしたタレント・ショーというのはアメリカよりもイギリスなどヨーロッパで人気が高かったと言われています。例えば「アメリカン・アイドル」の前審査員でもあったサイモン・カウウェルが審査員を務めていた「ポップ・スター」や
「Xファクター」(「アメリカン・アイドル」はこれらのただのアメリカ版焼き直しだ
という人もいます)、そしてインターナショナルな「アイドル・シリーズ」など、
イギリス発のタレント・ショーは数多くあります。

こうした従来のタレント・ショーに対して、「アメリカン・アイドル」の売りや人気の理由の一つは、審査員の存在感と豪華さ、そして“リアリティ・ショー”仕立てのドラマ性であると言われます。特に辛辣な審査員の酷評に同情し(名物審査員サイモン・カウウェルがいなくなった今のアメリカン・アイドルには辛辣さは少ないですが)、スターを目指してがんばるシンガー達に観客・視聴者が感情移入して応援すると言う図式を作り出しているところは、この番組の巧さでもあると思います。

そんな「アメリカン・アイドル」が益々注目されているところに、これまた驚きの新番組が始まりました。その名も「ザ・ボイス」。審査員にはシーロー・グリーン(ヒップホップ)とブレイク・シェルトン(カントリー)に加え、なんとクリスティーナ・アギュレラとマルーン5のアダム・レヴィンが参加するという豪華さです。
このショーには、これまでにはないいくつかの新しさ・面白さがあります。まず、オーディション参加者は最初にブラインド・オーディション(つまり聴覚のみ)によって審査されます。ここで面白いのは、計4人の審査員は他のプロフェッショナルなシンガーやミュージシャン達と“チーム”を組み、オーディション参加者の中から選んだ複数のシンガー達を“コーチ”するのです。そして次の段階では、それぞれの審査員のチームによって選ばれ、コーチされたシンガー達が同じ曲を歌ってバトルを繰り広げます。
そして最後は、勝ち残った各チーム一人のシンガー達のパフォーマンスがライヴ放映されて、最終決戦となるわけです。

私の拙文では臨場感があまりないかもしれませんが、実はこの番組は見ていてかなりの興奮と感動を覚えます。これまでのような「参加者」と「審査員」という単純な図式ではなく、「参加者」も「審査員」も「視聴者」も、みんなが一緒になって参加するような楽しさや盛り上がりがあるのです。まだ始まったばかりの新番組ですから、オーディションは第一段階ですが、この後いよいよ同じ曲を歌うバトルが始まり、最後のライヴが控えているのですから、益々興味は深まるというところです。
視聴率もかなり高いようで、なんでも今アメリカで音楽系番組としてはナンバーワ
ンの視聴率を誇る、“学園音楽ドラマ”「グリー」をも抜いたというのですから、その人気・注目度はかなりのものと言えます。

さて、こうした盛り上がりにちょっと水を差すわけではありませんが、最近の一連のタレント・ショー人気に関しては、別の角度からの味方もあります。つまりそれは、“音楽産業の衰退”と“レコード業界の怠慢”ということです。言葉を換えるなら、それは“スターの不在”と、これまで有能な人材を見出して育て、スターを生み出してきたレコード業界の仕事がブラウン管(これは最近死語になりつつありますが…苦笑)つまりテレビ業界に移された、とも言えます。
実際に「アメリカン・アイドル」は現在の米音楽界におけるスター輩出の宝庫と言っても決して過言ではありません。例えばシーズン1で優勝したのはケリー・クラークソン。
シーズン2ではルーベン・スタッダード。シーズン3はジェニファー・ハドソンを
破ったファンテイジア。シーズン4はキャリー・アンダーウッド。シーズン5はテイラー
・ヒックス。シーズン6はジョーディン・スパークス。シーズン7はデヴィッド・クッ
ク。シーズン8はクリス・アレン(破れたアダム・ランバーとの方が有名になったと言
えますが)。
現在のアメリカ音楽界における同番組の影響がいかに大きいかということを表していると思います。
またレコード・デビューの他に、優勝者・準優勝者を含む数多くの同番組オーディション参加者が、例えば「カラー・パープル」「レント」、「ターザン」、「ロック・オブ・エイジズ」、「グリース」、「ヘア」、「イン・ザ・ハイツ」、「ヘアスプレイ」といったブロードウェイのミュージカルに重要な役で出演していることも特徴的です。

確かにレコード会社が人材を見出して育て、スターを生み出す時代は終わったと言えます。そうした機動力もスタッフの人材も今のアメリカのレコード会社にはないとも言えます。特にインディーズ・ムーヴメントと大物アーティスト(とそのマネージメント)が力を増していって以降、レコード会社は単なるディストリビューターと見なされることが多くなってきました。今や有能な人材はテレビ番組のタレント・ショーからというのが大勢と言えるようです。

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