【I Love NY】ブロードウェイの名作が続々とリバイバル
(ここではSTEPのNYスタッフから届く、現地の最新音楽情報の一部をご紹介しています!)
不況のあおりで客足が弱まっていると言われるニューヨークのブロードウェイ。
しかし、今年は強力なリバイバル作品が公開されることで大きな話題を集めています。
まずは映画でもおなじみの「ウェスト・サイド・ストーリー」。
50年代のニューヨークはウェスト・サイド(正確にはミッドタウン・ウェストとアッパーウェストの境周辺で、現在はリンカーン・センターのあるエリアから西側)が舞台で、初演の57年からニューヨーク・フィルハーモニックの音楽監督となったレナード・バーンスタインが作曲、ニューヨーク出身で後にニューヨーク・シティ・バレエのバレエ・マスターとなったジェローム・ロビンスが演出・振り付け。近年はロンドン発でニューヨークに輸入されるミュージカルが多い中、これは紛れもなくニューヨークずくめの”メイド・イン・ニューヨーク”ミュージカルです(ちなみにバースタインはニューヨーク出身と思われていますが、実はマサチューセッツ州の出身です)。その後、映画に受け継がれるような形でブロードウェイでのショーは61年に終わりましたが、80年に再びリバイバル公演を行っています。今回はそれから28年を経てのブロードウェイ・リバイバルとなるわけです。
もう一つのリバイバル作品は、68年ブロードウェイで初演(実際にはその前年である67年にオフ・ブロードウェイで初演)されたロック・オペラの先駆と言われる「ヘアー」です。
今となってはご存じな方も多いと思いますが、この「ヘアー」は翌69年に早々日本でも初演され、元タイガースのトッポこと加橋かつみが主役を務めました。
「ヘアー」は、ロック・オペラの先駆であると共に、ヒッピー・カルチャーを描いたミュージカルでもあります。ストーリーには反戦(当時はベトナム戦争)、ドラッグ、フリー・セックス、インド思想などが巧みに盛り込まれ、タイトルからもわかるように、長髪がそれらのシンボルともされていました。
劇中では全裸で踊るシーンなどがあったことも衝撃的でした。音楽も当時としては斬新で、白人シンガーの楽曲を歌う黒人コーラス・グループ、フィフス・ディメンションが「アクエリアス」や「レット・ザ・サンシャイン・イン」といった名曲を大ヒットさせました。
「ヘアー」は72年までブロードウェイで公演され、その後79年にはミロス・フォアマンの監督で映画化もされました。よって今回はなんと37年ぶりのブロードウェイでのリバイバルとなるわけです(ただし、昨年はセントラル・パークでリバイバル公演が行われました)。
リバイバルというのは時としてネガティヴに捉えられたりもします。実際に優れた書き下ろしの新作がない時はよくリバイバルが出てくるものですが、「ウェスト・サイド」と「ヘアー」の場合は、アメリカン・ミュージカルの復権という側面や、時代が一回りして戻ってきているという背景もあるようです。正直言って80年代や90年代においては、「ウェスト・サイド」や「ヘアー」のようなオールド・スタイルのミュージカルは古臭いクラシックとされていました。両者共、混沌とした激動の時代の中から出てきた作品ですから、平穏で豊かな時代には受け入れられにくく、リアリティもなかったと言えるわけです。しかし、今のアメリカは世界大恐慌が起きた戦前のルーズヴェルト時代と比較される世界経済危機のオバマ時代です。増え続ける失業者とホームレス、負債・倒産・救済の連続、絶えることのない宗教軋轢や新たな人種軋轢、犯罪の悪質化、終わることのない戦争などなど。様々な点で「ウェスト・サイド」と「ヘアー」の背景は現代と通じている、というのが多くの人たちの意見ですし、私も同感です。しかし、こういう時だからこそパワーやエネルギーが生まれるとも言えます。実際に両者の作品が生み出す強烈なパワーとエネルギーは、最近のブロードウェイの人気作品には見られない圧倒的なものと言えると思います。
「ウェスト・サイド」は3月19日、「ヘアー」は3月31日からスタートしたばかりです。