【I Love NY】月刊紐育音楽通信 December 2013

(ここではSTEPのNYスタッフから届く、現地の最新音楽情報の一部をご紹介しています!)

 現在私が住んでいるのは、ニューヨークのマンハッタンからイースト・リヴァーを渡ってすぐのクイーンズ区ロング・アイランド・シティというエリアです。ここは元々工場・倉庫エリアで、90年代半ばくらいまではドラッグ・ディーラーや怪しげな店も多く、治安の悪いエリアでした。私が住んでる北側はまだ工場・倉庫も多く、ニューヨークでも屈指の悪名高い(犯罪の多い)低所得者住宅もあり、まだ決して治安も良いとは言えません。妻は一度アパートの入り口で拳銃を突きつけられて財布を盗まれましたし、娘は二回ほどストーカーにつけられたこともあります。こう言うと本当に危険なエリアと思われるでしょうが、郊外の安全なエリアを除けば、ニューヨークに住むということは、どこに住んでもこうした危険と背中合わせであることを覚悟する必要があります(最近、“安全になった”と言われるようになってから移ってくる人達には、この辺の危機感が希薄なので要注意です)。


 私の住む北側に対して、南側は高層コンド(日本で言うところの“マンション”)が次々と建ち並び、家賃もマンハッタンの高級住宅地よりも高いところが多く、今や“ホット”で“トレンディ”なエリアと言われているのですが、ここも周囲はまだまだ閑散としているので油断は禁物です。そうした中で10月の頭に、このエリアに新設された特殊教育の学校の生徒が誘拐されるという事件が起きました。誘拐されたのはアヴォンテ君という14歳の男の子で、会話もできない重度の自閉症の子です。アメリカというのは“弱者”に対するいじめや犯罪などには極めて敏感な国ですし、私の住むアパート周辺も含め、ビラ配り・張り紙と警察やボランティアによる捜査でしばらくは大騒ぎでした。しかし、失踪から7週間以上経った今もまだ彼の行方はわかりません。さらに先日、近所でまた自閉症の子が誘拐されるという事件が起きました。これらの事件を始め、最近ニューヨークでは“弱者”をターゲットにした様々な事件が後を絶ちません。
“株価の上昇”や“景気の回復”がまことしやかに報道され、ホリディ・シーズンを迎えて浮かれ気分が高まる中、社会の“病み(闇)”は明らかに進んでいることを感じます。

トピック:iTunes対Google Music戦争の行方は?

 私自身は1990年にマッキントッシュ・クラシックを手に入れて依頼のMac派です。ご記憶の方もいらっしゃると思いますが、それまでのマッキントッシュ・コンピュータは、初代の128K以降、大体2500ドル程(SEはもっと高かったですね)だったのが、クラシックは初めて1000ドルを切った画期的なモデルでした。今思うと、もうお笑いレベルの機能でしかありませんでしたが、それでも当時は全てが斬新でしたし、そのコンパクトで可愛いデザインは今でも充分魅力的であると思います。

 私のMac歴はそこから始まり、今も続いているわけですが、だからといって私は“Mac信者”ではありません。仕事上で必要な場合はPCも使いますし、PCの操作は別に苦にもなりませんし、特に文句もありません。どちらも異なる性格の優れたマシーンであると思いますし、どちらかに限定する必要など無いというのが私の考え方です。

 ですが、世の中には(特に私の周りにはかなりの数の)“Mac信者”という人達がいます。以前はMSのソフトを使うことさえ嫌悪した人達もいましたし、私が仕事でPCを使っていると差別的な態度まで示す人もいました(笑)。
 確かに音楽を始めとするアート系分野では常にMacが圧倒的でしたし、アート系でPCと言うのは、ある種邪道のように思う人も多かったようです。“Mac信者”にはある種の“優越感”や“エリート意識”のようなものを持った人達もいますが、それは、世間一般においてはPCが極めて優位に立ち、Mac派は肩身の狭い思いをして変人・偏屈扱い(?)されてきたとことへの“反発”や“マイノリティ意識”の反動もあったように思います。

 それがiPod、iTunes、iPhone、iPadなどの登場で、Macは別の分野から瞬く間に守勢から攻勢に転じたことは、皆さんよくご存じのことであると思います。
 Mac対PCという構図は、今でも残っていると思いますが、最近の動向・状況をみていると、今もPC優勢の一般ビジネス業界でも、逆に昔からMac優勢のアート分野でも、両者は“戦争状態”から“共存または棲み分け状態”に移行してきているという感を強くします。特にそれは、2006年から登場したIntel Macの存在によって決定的になった、というか、従来の“戦争”には一つの終止符が打たれたとも言えるかと思います。

 そうした中で、新たな“戦争状態”に突入するのでは?と言われているのが、音楽分野におけるMacとGoogleです。
 ご存じのように、現在デジタル音楽配信サービスに関しては、MacつまりiTunesの独壇場であると言えます。iTunesは2001年のリリース後、モバイル・デバイスのiPodの登場によって一般的に認知され、2003年にはiTunes Music Storeの配信がスタートし、同年にはWindows対応も実現して大きく飛躍しました。バージョンは現在の11まで次々とアップグレードされ、正に“敵無し”の状態であると言われてきました。
 
 これに勇敢にも(無謀にも、と言う人もいますが)宣戦布告してきたのが、Googleです。Googleは検索エンジン・サービスを母体として1998年に設立された新しい会社であり、Macのアップル社とは背景やポリシー、フィロソフィーも全く異なります。
 しかし、2001年以降、合併・買収・パートナーシップを次々と進めていき(最も一般的に知られているのは、2006年のYouTube買収ですが、特に2010年以後は既に20を超える買収を行っています!)、GメールやSNSなど、ソフトやアプリの開発などを通して、飛躍的に発展していきました(ちなみに、2003年にはアップルともサーチ・エンジンで提携関係を結んでいます)。

 私も、今やGoogle無くしては仕事にも支障をきたすというほど、Googleの存在は大きなものとなってきましたし(特にGメールとGoogleマップの存在はあまりにも絶大ですね)、私の周りの特に若い人達を見ていると、アプリ操作の簡易性・便宜性もあって、前述の“Mac信者”に代わる“Google信者”という人種も増えてきていることは間違いないようです。

 “Google信者”が増えてきた背景には、そうしたアプリの操作面だけでなく、スマートフォンの多様化が更に大きな影響を与えたと言われています。アメリカにおけるスマホは、かつてのBlackberryとiPhoneの2大デバイスの競争からiPhoneが圧倒的優位を占め、その後、2010年末頃から始まったサムソンやLGといった韓国系企業の進出によって、競争が複雑化してきました。

 それ以前からGoogleは、スマホ対応のプラットフォームであるモバイルOSのAndroidの開発に力を注いできました。Androidも元はと言えば独立した企業でしたが、これも2005年にGoogleが買収しています。
 このAndroidは、当初(2009年)は米最大大手電話会社のVerizonがモトローラのスマホDroidに搭載して発売したのですが、当時はiPhoneの大飛躍で今一つ奮わずでしたが、2010年末以降、Googleが前述の韓国系企業によるGalaxyやNexusといったスマホに次々とAndroidを搭載して販売を始めていったことから、急激な伸びを見せています。

 例えばアメリカにおけるAndroid搭載スマホとiOS搭載スマホ(つまりiPhone)の市場シェア率の比較を見れば、それは明らかです。Android搭載の韓国系スマホが発売され始める2010年末までは、iOSはAndroidの倍以上のシェアを誇っていました。その後iPhoneも伸びてはいきましたが、現在はAndroidがiOSの3倍以上のシェアを誇って逆転し、アメリカでのシェアはトップになっているのです。

 ニューヨークにいて、最近特にそのことを肌で感じるのは、地下鉄内でのスマホ状況です。以前はiPhone強盗が流行るほどiPhoneが多く見られました。ところが最近は、iPhoneよりも一回り以上大きなAndroid搭載スマホ(主にGalaxyやNexus)が圧倒的に目立ってきました。
 ニューヨークの地下鉄は場所によってWiFi可能なところも増えてきましたが、電車の走行中はほとんど使用不可です。それでも、ほとんどと言っても良いくらい、多くの人達がスマホを片手に操作しているのですが、捜査している中身のほとんどはゲームであり音楽であり映像(映画やテレビ番組など)であったりするのです。

 この内、ゲームと映像に関しては、Androidを搭載した韓国製スマホは、大きな画面とアプリ操作の簡易性・便宜性という圧倒的なアドバンテージを持っています。Macによほどのこだわりや愛着を持つ人でなければ、こうしたアドバンテージを手に入れたいと思うのは当然であると思います。そして、残る音楽の部分に関しても、これまでのようにAndroidであってもiTunesで管理する必要がなくなり、Google独自の音楽提供サービスが可能になれば…。これはもう完全にiTunesの時代は終わってGoogleの天下となる日も夢ではないのかもしれません。

 ところが、ことはそれほど簡単ではないようです。

 Googleの音楽提供&管理サービスであるGoogle Musicというのは、約半年のベータ期間を経て、2011年の11月にスタートしました。これはGoogleお得意のクラウド(cloud)ベースのサービスで、無料のクラウドによるストレージとストリーミング、それに加えて、楽曲フル・バージョンとアルバム全曲の無料サンプル視聴というインパクトのあるものでした。

 アップルはその少し前から、やはりクラウド・サービス(iTunes in the Cloud)を立ち上げましたが、こちらは有料であることからユーザーからの不満も多く、売り上げはそれほど伸びていないようです。
 これに対してGoogleは“無料作戦”でiTunesの牙城を切り崩しに掛かりましたが、幸先はそれほど好調ではありませんでした。

 Google Musicはその他にもYouTubeの音楽動画やサーチ・エンジンとのリンクというアドバンテージがあったり、肝腎の楽曲使用に関しても、ワーナーを除く4大大手レコード会社(ソニー、ユニバーサル、EMI)を始め、主要なレーベルと契約を交わしたにも関わらず、iTunesのシェアを獲得するには至っていません。

 iTunes自体も、ここ数年はかつてのような勢いや楽観的な話は影を潜めていました。ダウンロード数は依然として断トツの数を誇ってはいますが、iTunes自体が巨大ソフトとなってコンピュータのパフォーマンスを圧迫するようになってきたことも確かです。その解決作としてのクラウドも有料ということで足踏み状態になっているわけです。

 それでもGoogleがiTunesを切り崩せない理由は、それぞれ対象となるユーザーやマーケットが異なるという意見があります。かつてのMac対PCとは違い、ソフトやコンテンツ、それらのプラットフォームやインフラ、そして購買層やターゲットまでもが複雑に絡み合い、入り交じったりもしているので、ユーザーにとって二者択一は非常に難しく、それよりもそれぞれの良いところを利用するという“賢い選択”をしているため、とも言われています。

 また、Mac対PCの時代のようなコンピュータ産業黄金期の真っ直中とは違い、現在のデジタル音楽産業は、それ自体が発展・興隆期を過ぎてしまっているというところも大きいと言われます。
 実際にデジタル楽曲販売の売り上げは、ここにきて上昇気流に陰りが見えているようです。これは世間や業界が余りに楽観的すぎたとも言えますが、これまでデジタル音楽の販売上昇率は毎年数倍ずつ上がっていき、2〜3年後には二桁成長にまで達するとも言われていたのですが、それは既に過去の夢という状況になってきています。

 Google Musicには時間が掛かりすぎた、という人も多くいます。確かにGoogleのここ3年ほどの“買収ラッシュ”から考えれば、リリースはもっと早くても当然と思われましたが、一説によると、これまでGoogleが引き起こしてきた数々のプライバシーや権利の侵害という問題ゆえに、大手レコード会社との交渉・契約はかなり難航していたとも言われています。

 背景や理由はいろいろと言われていますが、とにもかくにもスタートして約2年が経ったGoogle Musicの販売売り上げは、大方の予想を下回り、早くも苦戦を強いられていると言われています。

 Googleのヘッドクォーターは、「グーグルプレックス」と呼ばれ、カリフォルニアはサンタ・クラーラのマウンテン・ビューにありますが、2010年に歴史ある元ニューヨーク港湾局のビルを買い取って「Googleビル」としてからは、そちらの方は同社最大のビルとしてGoogleの新しい顔にもなってきました。
 そこはマンハッタンのチェルシー地区の南、ミート・パッキング・ディストリクト(MPD)と呼ばれるマンハッタンで一番人気のエリアであるわけですが、1ブロック南の通りの反対側にはアップル・ストアがあって、アップルを見下ろすような威圧感も醸し出しています。

 そうした中、今、ニューヨークでは地下鉄やバスなどの公共機関を始め、膨大な数のGoogle Musicの広告が街を占拠しているとも言えます(現在の正式名称は、Google Play Music)。
 アップルに対して本格的な宣戦布告を掲げたGoogleは、今回起死回生の大広告作戦に出た、とも言えるのではないでしょうか。それはGoogle Play Music対iTunesというデジタル音楽業界での戦争だけでなく、Android対iOSというモバイル・デバイス(スマホ)戦争にまで拡大していると言えます。

 勝者はどちらか。生き残るのはどちらか。当事者達には申し訳ありませんが、私はどちらが勝っても構いません。なぜなら、どちらが勝とうと競争は市場を活性化し、消費者に恩恵を与えてくれると言う点では常に歓迎すべきものであるからです。
 いずれにせよ、この興味ある“戦い”に関する動向・状況については、また機会を見
てご報告したいと思います。

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