【I Love NY】月刊紐育音楽通信 June

(ここではSTEPのNYスタッフから届く、現地の最新音楽情報の一部をご紹介しています!)

最近はすっかり映画を観なくなりましたが(というか、観たい映画があまりない)、先日久々に一本観てきました。日本での公開はもうちょっと先だと聞きましたが、今年話題の娯楽特撮映画「ゴジラ」です。実は私は子供の頃からのゴジラ大ファンで、22作目の「ゴジラ対デストロイア」までは全て観ていますし、今でも1954年の初代「ゴジラ」(さすがにリアルタイムではありません!)が最高傑作であると信じており、昔限定販売されたリアルな初代ゴジラのラジコン・モデルを今でも大切に持っているという始末です(笑)。

さて、今回のハリウッド版「ゴジラ」第二弾ですが、内容はネタバレになってしまうので控えますが、大失望であったハリウッド版第一弾とは比較にならないほどの、かなりの出来でした!
渡辺謙もなかなか頑張ってましたし、私には54年のオリジナル版の主演俳優であった宝田明がカメオ出演していたのにはイスから転げ落ちそうになりました(笑)。

しかし、本作に関しては、昔「ゴジラ対へドラ」の監督を務め、今回制作総指揮を勤めた板野義光氏と、ゴジラ・シリーズの大ファンでゴジラ全作を熟知しているとい言われ、今回が監督二作目であるイギリス人映画監督のギャレス・エドワーズのゴジラに対する情熱と愛情に拍手を送りたいと思いました。
何でも、早くも2作目・3作目も予定されているということなので、本当に楽しみです。
ゴジラは再びアメリカで蘇った!そんな気分にさせてくれる娯楽映画でした。

トピック:アップルは音楽業界に変革をもたらすか?

5月のアメリカ音楽界はアップルに始まり、アップルに終わった(まだ続いていますが)と言っても過言ではないくらい、音楽業界はどこもかしこもアップルの話題ばかりでした。
皆さんもご存じのように、以前から噂されていたアップルによるビーツ(ヘッドフォンのビーツ・エレクトロニクスと音楽ストリーミング・サービスのビーツ・ミュージック)買収劇は、5月に入って現実的な話題として一気に浮上し、28日に総額30億ドル(約3060億円)での買収が正式に発表されました。これまでにも数々の買収を行ってきたアップルですが、30億ドルというのは過去最大の買収です。

さらに話題を呼んだのが、ビーツの創業者、ドクター・ドレーとジミー・アイオヴィンがアップルの役員として就任するというニュースです。この二人であれば、これまでの勢いからみて、スティーヴ・ジョブスの後釜(代表)にまでなってしまうのではないか、とも噂され、いろいろな憶測が飛び交いました。


今回のアップルの狙い、そして買収の意味に関しては、既に膨大な数のメディアが書き立てていますし、皆さんもよくご存じであると思いますので、ここで多くは語りませんが、簡単に言えば、アップルは顧客と市場が欲しかったことは間違いありません。
昨年10月の本稿でも紹介しましたが、今、アメリカにおいてはビーツのヘッドフォン「ビーツ・バイ・ドクター・ドレー」が爆発的な売り上げを記録しています。音楽好きの若者の50%以上が購入・所有しているとも言われるビーツのヘッドフォン・カスタマーを取り込むこと。これはヘッドフォンそのものよりも、顧客獲得という非常に大きな意味合いがあるわけです。
もう一つは音楽ストリーミングのマーケットです。携帯のマーケットでは、今や若者達はAndroid系中心となってきていますが、それでもiPhoneの売り上げはまだ伸びています。
しかし、iTunesに関しては、これも以前お話したスポティファイやパンドラといった有料・無料両方に対応したストリーミング・サービスの勢いにも押しやられ、iTunesのダウンロード売り上げは去年から落ちてきています。
アップルには無料ストリーミング・サービスのiTunes Radioがありますが、アップルとしては何が何でもハイクオリティの定期購買式(サブスクリプション制)有料ストリーミング・サービスのマーケットを確保したいわけです。その意味では、ビーツ・エレクトロニクスとビーツ・ミュージックは、以前から喉から手が出るほど欲しい企業であったと言えるわけです。

ドクター・ドレーとジミー・アイオヴィンは、アップルにおいてはもちろん彼等お得意のエレクトロニクス(オーディオ機器)と音楽ストリーミングの両部門に関わるわけですが、これによるアップルの躍進は疑うべくもありません。2011年にジョブスが世を去って以降、アップルの衰退振りを誰もが指摘しましたが、わずか2年半で、アップルは現代のミュージック・ビジネスにおいて最も影響力のある二人を取り込んだことで、再び黄金時代を迎えることになった!というのが大勢の意見であると言えます。

しかし、本当にそうなのでしょうか?私を含めて、こちらの音楽業界(またIT業界)には、今回の買収劇に懐疑的・批判的な意見もたくさんあることは間違いありません。
別に私は自分がビーツのヘッドフォンの音質には全く魅力を感じない(良い音であると思えない)からだとか、ジミー・アイオヴァインの指向性・方向性に賛同できないから、ネガティヴな意見を言うわけではありません(笑)。つまり、今回の買収劇は、予想通り、ボスト・ジョブス時代のアップルの最近の傾向を見事に物語る、決定打のようにも捉えられるからです。
つまりそれは、かつてのアップルのような“自社の頭脳”による“自社製品開発”と“商品そのもののプロモーション”ではなく、“他社の頭脳”による“自社製品販売”と“商品イメージやブランド・イメージのプロモーション”と言っても良いと思います。

その始まりとも言えたのが、昨年7月のことでした。アップルのCEOティム・クックは、なんとイヴ・サンローランのCEOであったポール・ドヌーヴをアップルの特別プロジェクトの副社長として引き抜いたのです。このドヌーヴは、サンローランの他にもニナ・リッチやランバンのCEOも勤めたファッション業界の敏腕経営者ですが、元はと言えば、かつてはアップルに勤めていた人でもありました。この特別プロジェクトに関してはいろいろと噂されていますが、まだ発表に至っていない腕時計ディバイスiWatchであるという予想が高いようです。
パソコンから携帯ディバイスやタブレット端末へと変化してきたハード面での次世代ディバイスは、肌に身につけるウェアラブル・ディバイスである、とその頃から言われていました。よって、いよいよアップルもそのための体制作りに入ったという見方も多く見られました。

そこへ持ってきて、わずか3ヶ月後の10月には、ティム・クックは、今度はバーバリーのCEOであったアンジェラ・アーレンツを上級副社長に起用して世間を驚かせました。たった3ヶ月ほどの間に、アップルはファッション業界のCEOを二人も引き抜いたわけです。これはジョブス時代のアップルでは到底考えられないような戦略・方向性とも言えました。しかも、このアーレンツという人は、大胆で革新的なデジタル・マーケッティングによってバーバリーを再建させた人でもあるのです。デジタル・マーケッティングとは、つまり簡単に言えばウェブサイトや、FacebookやTwitterなどのSNSを利用して購買層を開拓し、購買者を獲得していくというものです。例えば、バーバリーのトレンチコートをテーマにしたソーシャル・メディア・サイトはその代表でもありますし、これによってバーバリーのトレンチを着た写真を誰もが投稿できるようにして人気を得ました。

また、ファッション・ショーをライブ・ストリーミングして、それを見ている人がファンション・ショーでお披露目された商品をオンライン販売(Eコーマス)とリンクさせて購入できるようにしたことも画期的なアプローチでした。そしてアーレンツは、そうした手法を今度はアップルのマーケッティング&プロモーションに適用させて、iPhoneやiPadなどをPRしていくことになったのですが、彼女の得意分野は、商品そのものをPRするのではなく、商品やブランドの“イメージ”をPRすることと言えます。よって、これまでどちらかというと閉鎖的というか偏狭的であったインターネット展開やオンライン販売を、そしてアップル・ストアという小売り展開を、アーレンツはその“イメージ戦略”で変え始めました。実際に、ここ最近のアップルの広告戦略にはかなりの変化が見られてきています(もう一つ、サンローラン時代からアーレンツが力を発揮した中国展開というのがありますが、ここでは控えます)。
 
というわけで、今回は音楽から離れてファッション関連の話になってしまったと思われるかもしれませんが、実はそうではないのです。何故なら、今回のビーツ、つまりドクター・ドレーとジミー・アイオヴァインという二人も、音楽そのものを売っていくのではなく、アーティストと商品との提携によって、双方の“イメージ”の相乗効果を生み出し、結果的に商品の売り上げを伸ばす、といった手法を取っていると言えるからです。
ですから、恐らく、アーレンツのビジョンと、ドクター・ドレーとジミー・アイオヴァインのビジョンは、うまくワークして結合し、アップルの新しい時代を作っていくのであろうと思います。ですが、それはあの天才的な頭脳によって生み出され、閉鎖的・カルト的と言われても一つの王国を作り上げ、時代をリードしていったアップルとは全く異なる姿に見えます。アップルの新時代は来るでしょうが、“アップル神話”の時代は終わったと言えるのではないでしょうか。

それにしても、今年年頭の本稿でもご紹介したように、「音楽にお金を支払わない時代が来る」または、「音楽だけを売る時代は終わる」という感を益々強く持つ今日この頃です。良くも悪くも、好き嫌いは別にしても、アーレンツとドクター・ドレーとジミー・アイオヴァインの戦略・方向性は、今後の主流となっていくように感じます。

さて、そのジミー・アイオヴァインの去ったインタースコープ/ゲフィン/A&Mレコードですが、レディ・ガガ、マドンナ、マルーン5、イマジン・ドラゴン、ファイスト、エミネム、ローリング・ストーンズ、スティング、U2、ノー・ダウトなど、現代の音楽界を代表する大物達を多数抱えるこのレコード会社の後任CEO&会長に就任したのが、弱冠36歳のジョン・ジャニックです。彼はまだ大学生であった18歳の時から「フューエルド・バイ・ラーメン(ラーメンが
燃料源?)」というおかしな名前のインディー・レーベルを設立し、フォール・アウト・ボーイ、パラモア、ファン、パニック・アット・ザ・ディスコなどのバンドを見出してきました。根っからのメジャー・レコード会社のエリートではなく、予算の無い貧乏インディーでがんばってきた人なわけですが、こういう人が僅か30代半ばで、現在のアメリカにおいて売り上げナンバー・ワンのレコード会社のトップになってしまうところは、やはりこれもアメリカン・ドリームの一つと言えますし、アップルの行方と共に、今後の動向が大変注目されることは間違いないと言えるでしょう。

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