【I Love NY】月刊紐育音楽通信 February

(ここではSTEPのNYスタッフから届く、現地の最新音楽情報の一部をご紹介しています!)

 7年ぶりに日本に帰りましたが、何度電車やバスを乗り間違え、駅で迷って迷子になった(?)ことか…。ニューヨークの変わりようも凄いですが、東京の特に交通システムや手段の変わりようには本当に驚きました。
 今回帰国して一番驚き、その便利さに感激したのは、やはりSuicaであったと言えます。Suicaというのは「Super Urban Intelligent Card」という何とも日本的な日本風英語の略だそうですが、これは正に嘘偽りのない呼び名であると今回実感しました。
ニューヨークなどは、やっとメトロカードが一般的になって浸透した程度ですから、ハイテクさでは日本の足下にも及びません。地下鉄やバスはまだマシですが、驚くほどアナログで前時代的なのは電車(列車)です。
大体、今の世の中で、しかも大都会で、始発駅における列車の出発ホームが出発5分前ほどにならないとわからない、なんてシステムはどこにあるのでしょうか。乗られたことのある方はよくご存じでしょうが、ニューヨークの二つの玄関口であるグランド・セントラル駅やペンシルヴァニア駅の列車乗り場では、今も毎日大勢の乗客が掲示板の前に集まり、自分の乗る列車はどこのホームに到着・出発するかをジッと注視しています。そして、いざホームの番号が掲示板に表示されると、みんなは我先にとホームに向かって殺到し、ラッシュ時などはホームに降りる階段付近は大混雑・大渋滞となるわけです。


しかも、列車に乗れば車掌がいて、乗客一人一人の切符をチェックするというのも笑えます。私は高校生の頃、郊外のホームステイ先から列車に乗り、よくマンハッタンを行き来しましたが、この車掌に見つからないように、列車内の場所を移動したりしてキセルをしたものですが、この車掌が中々侮れず、一人一人の乗客の動きを実によくチェックしているのです(笑)。お陰で私は何度も途中下車を余儀なくされたり、車掌に怒られたりしたものですが(笑)、こうした車掌達が今でもいるということには驚愕せざるを得ません。
時々、日本から来られる人が「ニューヨークの列車は風情があっていいですね」と言ってくださるのですが、毎日通勤する身としては風情よりも“スーパー・アーバン・インテリジェント”の方が100倍嬉しいと言えます(笑)。

トピック:グラミー賞は現代の音楽シーンを現しているか?

相変わらずマスコミやメジャーな音楽業界はグラミー賞だと騒いでいますが、今更グラミーに何の権威や価値があるのか、という声はもう大分前から聞こえています。
ある意味では、グラミー賞には単なる“権威”しかなく、その価値や影響力は無い、という声もよく聞かれます。ただし、ある意味で影響力はまだ絶大であるとは言えます。
つまり、グラミーにノミネートされ、受賞すれば、アーティストのギャラは跳ね上がるのです(笑)。心あるアーティストとリスナーによって形成されるピュアな音楽の現場とは裏腹に、音楽業界はこのグラミー賞という“亡霊”または“権威的な偶像”に今も支配されているわけです。

個人的な話ではありますが、これもグラミー賞の“権威”を語る面白い話だと思うのでご紹介したいと思います。それはもう15年以上前に、私がアメリカで永住権を取った時の話です。当時、私の弁護士は、私のアメリカでの音楽ビジネス歴を評価はしてくれましたが、それでも永住権獲得、つまり移民局の審査・認可の上では“決定打”が必要だと言いました。この“決定打”というのは、簡単に言えば“お墨付き”、具体的には有名人からの推薦レターというわけです。つまり、自分の活動・経歴が例え立派だとしても、有名な人間の“お墨付き”が無ければ審査のテーブルにも乗らない、というわけです。
 一番強いのは国や州や自治体の議員達ですが、さすがに私には政治家の知り合いはいません。であれば、と私の弁護士がアドバイスしてくれたのが、音楽業界の大会社の重役達からの推薦レターと、グラミー賞受賞者達からの推薦レターでした。幸い、私にはどちらにも友人・知人がいましたので(そのほとんどが既に故人となってしまいましたが)、それらの入手は割と簡単なことでした。
 弁護士の予想を上回り、グラミー賞受賞者者達からの推薦レターを添えた私の申請は、何とわずか数週間で認可されてしまいました。私の弁護士もさすがに驚いたようで、移民局の担当者に何がこんなに素早い承認の大きな理由だったのか、と尋ねたところ、「これだけグラミー賞受賞者の推薦レターがあれば、後は何もいらない」と言われたそうです。
 これは結果的には嬉しいものの、酷い話であると思います。何しろ私がいかにこの国で頑張って仕事をしてきて、それなりの実績を残したかとかいうことを説明して資料を用意しても、それらにはほとんど目を通さず、単に有名人のお墨付きだけで判断するわけですから、そんなことで簡単に永住権を与えていいのか!ってことになると思います(笑)。
 
 まあ、それがこの国の一つの現実なわけですが、グラミー賞を取ればアーティストはもちろん、そのアーティストを抱えるレコード会社やマネージメント・プロダクションも儲かるわけです。

ついでながら、グラミー賞についてもう少しご説明をしておきましょう。この賞は原則的には曲やアルバムの売り上げやチャートの順位、人気度などとは関係ないとされています。つまり、ファン投票や、マーケットや業界の実績に照らし合わせたものではなく、あくまでもグラミー賞を主催・運営するナショナル・アカデミー・オブ・レコーディング・アーツ・アンド・サイエンス (NARAS) という組織の会員達が選ぶ賞であるわけです。
 一般的には、音楽関連メディアなどのマスコミ関係の人間はこのNARASの会員にはなれません。“ミュージシャン、プロデューサー、レコーディング・エンジニア、ミキサー、その他技術者や、音楽と音楽マーケットの質と文化的土壌の向上に寄与するレコーディング・プロフェッショナル”というのが会員の条件となります。言ってみれば音楽業界のプロ組織による選択・表彰であるわけですから、本来は非常に価値のあるものであると言えるわけですが、発足から既に58年も経つと、派閥やらしがらみやら癒着やらが当然のごとく出てきます。

そういったダークな部分を無視したとしても、このグラミー賞にノミネートされるためには、アーティストやレコード会社は自分達の録音物をNARASに提出しなければなりません。
 大手のレコード会社はお決まりのごとく、新しい作品を常にNARASに送りつけていますが、インディーズ系はそうはいきません。
 また、そうやって集まった作品を、NARASの会員であるレコード業界のエキスパート達が約200人くらい集まって、いわゆる世間に“グラミー賞ノミネート”の“価値のある作品かどうか”を選び出すことになっています。
 ここが実は大きなポイントでもあるのです。つまり“ノミネートの価値があるかどうか”の選定・判断基準はどこにあるのか、また具体的にはそのエキスパート達はどうやって選ばれるのか、ということになるわけです。
 これも個人的な話ですが、以前、私も自分がプロデュースした作品をNARASに送ってグラミー賞のノミネートを目指してみようとしたことがありました。しかし、この時も“グラミー賞ノミネート”を選ぶエキスパート達とのコネクションが無ければ無駄であるということになり、共同プロデュースをした人間がそのエキスパート達の何人かを知っているということで、話をしてもらったことがあります(結果的には残念ながらノミネートとはなりませんでしたが)。
 つまり、アーティストやレコード会社とNARASとのコネクションや力関係がノミネーションに影響を与えてくることになるわけです。よく“無冠の帝王”などと言われて、何度もノミネートされるのに受賞できないアーティストとかがいますが、それだけでなく、ノミネートもされない大物や有名アーティストというのも、実はたくさん存在するわけです(これについては、また別の機会に取り上げたいと思います)。

 もう一つ、実は私自身はこれこそ問題であると思っている部分なのですが、前述の“エキスパート”とやらによって“ノミネートの価値あり”と判断された作品は、リストとしてNARASの会員達に配られます。そして、NARASの会員達はそのリストの中から投票して、最終的でオフィシャルな5つのノミネートを選び出すわけです。賞のカテゴリーによっては、この5つのノミネートを選考するための委員会を設けている部門もありますが、とにかくオフィシャルな5つのノミネートを選ぶための候補が実際の“録音物”ではなく“リスト”であるというのも、よく問題視される部分であると言えます。
 例えばアカデミー賞では、ノミネート作品のスクリーニングというのが行われますが、グラミー賞ではそういったものはなく、作品も送られず、単にNARASの会員がそれぞれの思いや印象、記憶、評価などから選び出すことになるわけです。もっとはっきり言ってしまえば、リストにある曲やアーティストを世間の評価だけで、実際には自分自身でしっかりと聴いていないままで投票してしまうことも充分起こり得るわけです。特に、4大アワードと言われる「年間最優秀レコード賞」、「年間最優秀アルバム賞」、「年間最優秀曲賞」、「最優秀新人賞」は、NARASの会員全員が投票することになっています。果たして、NARASの会員達は全員、ノミネートされた作品全てをきちんと聴いていると断言できるのでしょうか。

 こうした疑惑的な話を持ち出さずとも、グラミー賞は今の音楽リスニングの流れからは、どんどんと離れていっていると言えます。2014年はストリーミング大躍進の年であったと言われています。アーティストやレコード会社が何と言おうと、ストリーミングというメディアはどんどんと勢いを増してきており、スポティファイ、パンドラ、ラストFM、Rdioなどを初めとするストリーミング・サイトの勢いを止めることはもはや不可能であると言われています。
 音楽というものはリスナーによって支えられています。ですから、アーティストやレコード会社がいくらストリーミング・サイトに異議を唱え、訴訟を起こして賠償金を請求または獲得したとしても、リスナーがストリーミングを選べば、その流れはもう止めることはできないわけです。

 スポティファイによれば、彼等のワールドワイドなユーザーの中で、2014年最も多くストリーミングされたアーティストはエド・シーランであり、最も多くストリーミングされた曲はファレル・ウィリアムスの「ハッピー」であり、最も多くストリーミングされたグループはコールドプレイであり、最も多くストリーミングされた女性アーティストはケイティ・ペリーであるそうです。
 というわけで、スポティファイによる“ストリーミング界のグラミー賞”を以下にご紹介しましょう。

<ワールドワイド最多ストリーミング・ソング>
1. Happy – Pharrell Williams
2. Rather Be (feat. Jess Glynne) – Clean Bandit 3. Summer – Calvin
Harris 4. Dark Horse – Katy Perry 5. All of Me – John Legend

<ワールドワイド最多ストリーミング・アーティスト>
1. Ed Sheeran
2. Eminem
3. Coldplay
4. Calvin Harris
5. Katy Perry

<ワールドワイド最多ストリーミング・アルバム>
1. x – Ed Sheeran
2. In The Lonely Hour – Sam Smith
3. The New Classic – Iggy Azalea
4. G I R L – Pharrell Williams
5. My Everything – Ariana Grande

<ワールドワイド最多ストリーミング・女性アーティスト>
1. Katy Perry
2. Ariana Grande
3. Lana Del Rey
4. Beyoncé
5. Lorde

<ワールドワイド最多ストリーミング・男性アーティスト>
1. Ed Sheeran
2. Eminem
3. Calvin Harris
4. Avicii
5. David Guetta

<ワールドワイド最多ストリーミング・グループ>
1. Coldplay
2. Imagine Dragons
3. Maroon 5
4. OneRepublic
5. One Direction

<全米最多ストリーミング・アーティスト>
1. Eminem
2. Drake
3. Kanye West
4. Lana del Rey
5. Ariana Grande

<全米最多ストリーミング・ソング>
1. Fancy – Iggy Azalea
2. Dark Horse – Katy Perry
3. Happy – From “Despicable Me 2″ – Pharrell Williams 4. Problem –
Ariana Grande 5. All of Me – John Legend

<全米最多ストリーミング・アルバム>
1. x – Ed Sheeran
2. The New Classic – Iggy Azalea
3. In The Lonely Hour – Sam Smith
4. Native – OneRepublic
5. My Everything – Ariana Grande

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