【I Love NY】第52回グラミー賞

(ここではSTEPのNYスタッフから届く、現地の最新音楽情報の一部をご紹介しています!)
第52回グラミー賞授賞式のオープニング・パフォーマンスに華々しく登場し、派手なパフォーマンスを見せた後、エルトン・ジョンと見事なデュオを聞かせたレディ・ガガ。今、全米で最も話題の旬なアーティストであるだけに、今回のグラミー賞はガガが総なめという予想が広がっていましたが、果たしてその結果は?

正直言って個人的には最近のグラミー賞にはあまり関心はなくなっているのですが、それでも毎年テレビ中継を最後まで観てしまうのは、グラミーならではの豪華でスペシャルなパフォーマンスが観れるためと言えるでしょう。
グラミーのパフォーマンスの魅力・特徴は、思いもよらぬ共演が実現することと、普段CDやコンサートなどでは聴かれない他人の曲(主に昔の名曲)を歌うところにあるかと思います。


例えば、昨年のグラミーで言えばスティーヴィー・ワンダーとジョナス・ブラザース。今年だと前述のガガとエルトンや、テイラー・スウィフトとスティーヴィー・ニックスの共演と選曲などはその代表であると言えます。
そしてド派手な装置・仕掛けや演出もグラミーのパフォーマンスの楽しいところ。今年はド派手・大掛かり”とはちょっと違いましたが、全裸かと見間違うようなショッキングな衣装で”空中サーカス”を演じながら歌ったピンクの度肝を抜く圧倒的なパフォーマンスがダントツでした。しかも、ずぶ濡れになった彼女の体から滴り落ちる水が客席に撒き散らされるというのもアンチ・セレブ派でもある彼女らしい演出でした(豪華に着飾ったビヨンセも“水害”を受けているはず)。
他にも、今年はボン・ジョビのグラミー初パフォーマンスという話題もありましたが、何と言ってもマイケル・ジャクソンのスペシャル・トリビュート・パフォーマンスが、ノミネートされたアーティスト達の話題を吹き飛ばすほどの盛り上がりでした。しかもそのパフォーマンスは映画史上に輝く大ヒット作品となった「アヴァター」にあやかってか(?)、なんと3D対応。そのパフォーマンスのための3Dグラス(メガネ)が、授賞式の2週間ほど前から安売り百貨店のターゲットで無料配布され、私もしっかりゲットしてきました。

前回、「アヴァター」をきっかけに映像メディア業界に吹き荒れ始めた3Dブームが、果たして音楽業界にも波及するかというテーマでお話をしましたが、早速音楽業界最高峰のアワードであるグラミーで3Dが登場となったのですから、この先の動きが益々注目されます。
もちろん今回のマイケルの3D対応パフォーマンスは、音楽業界とは言え、映像面に関してのみですが、こうした音楽映像においてソフト/ハードの両面で3Dを巻き込んだ展開が増していくのは必至であると言えるます。
また、今回の3D対応パフォーマンスは、今後の3D展開のテスト・ケースにもなっていることは間違いありませんし、専用の3Dグラスをターゲットが無料配布したということは、今後ターゲットがなんらかの形で主導的立場に立つことも予想されます。

さて、肝心のマイケルの3D対応パフォーマンスですが、歌自体はマイケルお気に入りのセリーヌ・ディオン、アッシャー、キャリー・アンダーウッド、ジェニファー・ハドソン、そしてマイケルのメンターの一人でもあったスモーキー・ロビンソンという5人の豪華出演ゆえ、文句のつけようもない素晴らしいものでしたが(それでも、昨年のマイケルのメモリアル・コンサートと言い、私はマイケル以外のシンガーによるマイケルの歌を聴くたびに、シンガーとしてのマイケルの桁外れの才能にも驚愕せずにいられません)、3D効果ということで言えば、「アヴァター」に迫るような感動を味わうことはありませんでした。

もう一つ、3Dテクノロジーの次に今回のグラミーで大フィーチャーされたメディアが、先日発表されたアップルのiPadでした。レディ・ガガとエルトン・ジョンによるオープニング・パフォーマンスの後に登場したコメディアンのステファン・コルバート(彼自身は「コメディ・アルバム」部門を受賞)が、この日最初の受賞となる「ソング・オブ・ジ・イヤー」のノミネート者紹介の時に、やおらスーツの内側からiPadを取り出し、それを使ってノミネート者を発表したのです。後方の巨大スクリーンにはiPadの映像が映し出され、それ以後のノミネート者紹介も全てこの形で行われました。

既に「これまでのアップル・テクノロジーの結晶」または「中途半端なディバイスで単なる金の無駄」と賛否両論飛び交っているiPadですが、コルバートがiPadを取り出したときの会場の笑いやどよめき、そしてコルバートがiPadをネタにジェイZにジョークを浴びせたときのジェイZの喜びぶりなどから見ても、評価はどうあれiPadが今年世界中のマーケットで話題沸騰となることは間違いないと思われます。
 
こうしたニュー・テクノロジーのお目見えと“広報・営業活動”が目立った今年のグラミーでしたが、肝心の受賞に関しては翌日のニューヨークの新聞デイリー・ニュース紙で「我々は幼稚園の中にいるのか?」と皮肉られたほど、”みんな仲良く受賞”という感じの選択でした。ぶっちぎりの独占もなければ、予想外の落選もない、とも言えましたが(とはいえ、個人的にはピンクの受賞が無かったのは残念でしたが)、あれだけ話題沸騰で、先日4日間のNY公演を大好評のうちに終わらせたガガがダンス部門2つの受賞のみというのも意外でした。
また、ビヨンセが6部門獲得という快挙を成し遂げたものの、「アルバム・オブ・ジ・イヤー」を受賞したのがテイラー・スウィフトというのは、なにやら出来レースのように見えてすっきりしないものも感じられました。

アイドルでも歌唱力が優れていなければ生き残れないアメリカの音楽界において、
テイラーはそれほど歌が上手い方とは言えません(実際に、スティーヴィー・ニックスとの共演では、かなり音程も外れていました)。
彼女がアメリカ人の大好きな”金髪の可愛い女の子”であるのは確かですが、同じ金髪のカントリー系美人女性シンガーとしてテイラーの先輩格に当たるキャリー・アンダーウッドが、大卒のインテリで、ネイティヴ・アメリカンの血を引いているなど、実は二人には大きな違いがあります。
テイラーは、子供の頃から歌が上手くて家族に支えられてデビューを実現させると
いう、一昔前のカントリー女性シンガーのお手本のような存在。しかもその風貌はちょっと古風で、“隣の女の子”的な普通の感覚を十二分に醸し出しています(実際の彼女もそういう女の子であるらしいですが)。ここしばらく、アメリカでは力強い“ビッチ・タイプ”の女性アーティストが持てはやされていましたので、フツーのか弱く可愛い女の子的なテイラーは、今の時代においてはむしろ新鮮にも見えるようです。
  
セクシーさを売り物にし過ぎるビヨンセや、ゲイ支持者のファンが圧倒的に多く、彼女自身もゲイを支持しているガガは、実は膨大な数と圧倒的な勢力を誇るアメリカの保守層からは常に批判・バッシングもされるコントラヴァーシャルな存在でもあります(特に最近のガガ批判には、アグレッシブなものも見られます)。そうした中で安全マークが付いたような“古き良きアメリカの女の子”っぽいテイラーを受賞させることで、モラルが壊れてエスカレートしていく傾向に少し歯止めをかけようとした、という説もあります。
ここまで言うと、ちょっと考えすぎにも思えますが、今回のテイラーの受賞は、昨年のMTVビデオ・ミュージック・アワードでカニエ・ウェストがテイラーの授賞式に乱入して彼女のスピーチが妨害されたことへの同情票、という説よりは、まだ納得できる部分もあるかと思います。
 
今回のテイラーのグラミー賞受賞には早速方々から批判の声も上がっていますし、私自身もテイラーのことをちょっと批判的に書きましたが、彼女に関してはシンガーとしてよりもソングライターとしての部分を評価する人も多く、“揺れる乙女心”を見事に歌に仕上げる才能が、たくさんの若者達から指示されている理由の一つであることは間違いないようです。

アワードというのは、単にこれまでの成果だけでなく、今後の期待への意味もこめられているとも言えますし、今回の受賞を誰よりも驚いていたテイラー本人が今後どれだけの活躍をしていくのか。そして大衆の志向や支持はどういった方向に向かうのか、こちらも先入観や情報に振り回されず見ていきたいと思っています。

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