【I Love NY】1.ビートルズがiTunesにやってきた! 2.プリンスのWelcome 2 Americaツアーと彼の主張

(ここではSTEPのNYスタッフから届く、現地の最新音楽情報の一部をご紹介しています!)

1.ビートルズがiTunesにやってきた!

今ニューヨークでは、タイムズ・スクエアや、マンハッタンに入るトンネルや橋の料金所の手前などに、後期ビートルズの4人が並んだ写真の巨大広告がそびえ立っています。これはご存じiTunesの広告で、2010年の音楽ダウンロード・ビジネス最大の話題となった、ビートルズの楽曲が昨年11月17日iTunesで独占ダウンロード解禁となったことを記念するものなのです。


ご存じのように、ビートルズの楽曲というのはこれまで使用に関して様々な制約・規制がありましたし、ダウンロードに関しても同様でした。これだけ音楽ダウンロード中心の世の中になったのに“今になってようやく?”という感がありますが、それだけに今回のダウンロード解禁は、iTunesすなわちMacの米Apple Inc.がダウンロード・ビジネスに関して益々独占状態になること、そして長きに渡った米Apple Inc.と、ビートルズの権利管理会社である英Apple Corpsとの抗争が終結を向かえたと言うこともできます。

ビートルズのiTunes解禁による“効果”に関してはいろいろな意見があります。いわゆるビートルズ世代と言われるビートルズ・ファンの中心となる人達はアナログ(レコード)世代。今はその大半がCDリスナーとなっています。アナログからCDに移行した時期はビートルズのアルバムも飛ぶように売れましたし、一昨年のリマスタリングCDも売り上げ的にはかなり成功であったようです。したがって、こういったビートルズ・ファンの中心となる層でiPodを愛用している人達は既に自分のiTunesに楽曲を取り込んでいるわけで、新たなダウンロードはもはや必要ないということが言えます。
これまで一番売り上げが期待できた世代・層の売り上げが期待できないとなると、
ターゲットはどこに向くのでしょうか。それは若年層と、それほど熱心ではない一般音楽ファン層ということになるようです。「もう今の若い連中はビートルズなど聴かないのでは?」と思われるかもしれませんが、これまで何度かお話ししてきたように、アメリカではロックやポピュラー音楽も立派な文化ですし、常に世代から世代へと受け継がれていく土壌や背景があります。また、今の若年層はほとんどCDというメディアを買わなくなっていますし、お金の掛かるアルバム購入よりも、安くすむバラ売りの方を好むので、今回のビートルズiTunes解禁は絶大な効果をもたらすはずと見られているようです。

しかし、もう一つの“それほど熱心ではない一般音楽ファン層”というのが、実はもっと売り上げが期待できる“漁場”であるとも言われています。アルバムを購入するほど熱心な音楽ファンではなく、自分の好きな曲やシングル・ヒットした有名曲のみで十分という人達は山ほどいるわけですし、若年層同様、音楽にそれほどお金をかけたくないという人達もたくさんいるわけです。そういった一般層にとってバラ売りダウンロードは絶好のメディアですし、ビートルズのように“曲は知っているけど音源は持っていない”超メジャーな音楽こそ、ダウンロードの人気度も高いということになります。

いずれにせよ、iTunesの勢いはもう誰にも止められないとも言えるでしょう。今
後iTunesは単なる自社の音楽配信ビジネスだけでなく、他社・他メディア・他分野との様々な提携や、インターネット上での様々なリンクを広げて、ますますダウンロード・ビジネスを独占化・巨大化させていくことは必至と言えます。音楽の形態が、更に一層変化していく可能性も強いと言えそうです。

2.プリンスのWelcome 2 Americaツアーと彼の主張

前回予告しましたが、昨年の12月18日、プリンスの豪華ツアー「Welcome 2
America」のNY(マジソン・スクエア・ガーデン)公演を観てきました。今回のツアーにはシーラE、メイシオ・パーカー、カサンドラ・ウィルソン、レイラ・ハサウェイ、エスペランザ・スポルディングなどが参加するとのことでしたが、NY公演ではプリンスの師匠とも言うべき、元スライ&ザ・ファミリー・ストーンのメンバー/ベーシストであったラリー・グラハム率いるグラハム・セントラル・ステーションが前座を務め、プリンスのショーの中盤と最後にはシーラEが参加して大いに盛り上がりました。

ステージは2007年スーパーボウルのハーフタイム・ショー(この時の「パープル・レイン」は歴史に残る名演と言えます)と同じく、プリンスのサインをかたどったマルチ・アングル・スタイル。プリンスはこのステージ上を縦横無尽に動き回り、歌とギターはもちろんのこと、52歳とは思えないセクシーでエネルギッシュなダンスもたっぷり披露してくれました。

それにしてもプリンスのショーマンシップというのは本当に素晴らしいと改めて感
じました。前座のラリー・グラハムとメンバー達がステージを降りて客席から退場していくと、彼等をステージに戻すべく、なんとプリンス本人が自分のバンドと共にステージに登場してラリー・グラハム達と競演を繰り広げたのです。これには“前座の演奏”と受け流していたような聴衆達も驚き大興奮でした。ですから、通常はテンションが一旦下がってしまうオープニングとメイン・アクトの休憩時間も興奮は冷めやらず。尊敬するラリー・グラハムのことをしっかりとサポートして持ち上げつつ、聴衆のテンションを上げたまま自分のメイン・ステージに持っていくという準備周到?なところも、さすがプリンスと言えます。
さらにショーの終わりではベース・プレイも披露し、シーラEもドラムをプレイして白熱の共演。
アンコールではプリンスの友人セレブ達をステージに上げて大合唱。ウーピー・ゴールドバーグ、ジェイミー・フォックス、スパイク・リー、ナオミ・キャンベル、アリシア・キーズといった面々の姿が見えましたが、終止カリスマ的な存在感をアピールしつつも、こうしたカジュアルでパーティ的な一体感を生み出すところも素晴らしいと言えます。

さて、トピック1の話題の続きにもなりますが、このプリンスはデジタル・ダウンロードというテクノロジーに真っ向から反対している数少ないアーティストでもあります。実際に、07年の「Planet Earth」と同様、昨年ヨーロッパの新聞のオマケとして無料添付という形で発売された「20Ten」では、ダウンロード配信は一切しないという方針が取られました。プリンスは販売元の一つとなったイギリスの新聞によるインタビューで、「インターネットは完全に終わった。なぜ自分の新しい音楽をiTunesや他の配信サイトに渡さなければならないのか理解できない。彼らは前払いもしないのに、楽曲の販売権が手に入らないと怒り出す」、「インターネットはMTVのようだ。かつてはヒップな時代もあったが、あっという間に時代遅れになった。 とにかくコンピューターやデジタル・ガジェットといったものもダメだ」、「それらは人の頭の中を数字でいっぱいにするだけで、いいことなんて何もない」 とまで言い切っています。

プリンスはダウンロードやインターネット、コンピュータというテクノロジーに抵
抗するだけでなく、ファンサイトでの写真の使用を禁止したり、YouTubeでの自分の映像の削除にも熱心です。また、自分自身の公式サイトまで閉鎖してしまうほど、ネット上での自分自身の音源や肖像権に神経質で、常にアーティストの権利とリスナーとの健全な関係、そしてフェアな音楽ビジネスを主張する数少ない大物アーティストの一人と言えます。

思えばプリンスは以前から既存のミュージック・ビジネス(端的に言えばワーナー
社)に翻弄され、そして闘ってきたアーティストとも言えます。ワーナーとの破格の契約によってデビューし、「パープル・レイン」である種の頂点に達したプリンスでしたが、「ブラック・アルバム」を発売直前でボツにした頃からワーナーとの関係がギクシャクし始め、アメリカでのセールスも落ち始めます。その後、プリンスはワーナーと更に破格の再契約をして副社長のポジションにもつきますが、これによって彼は更に苦況に立たされることになるわけです。ワーナーによる予想以上のコントロールに苦しみ、遂に「プリンス」という名を葬り去ってロゴ・マークによる平行活動を展開し始め、ワーナーに宣戦布告をすることになります。プリンスの活動は更に精力的になりましたが、ワーナーからの圧力・制約はさらに強まり、プリンスは一時頬に「SLAVE」とペイントして(ワーナーに)抵抗していました。
その後一時的に他の大手EMIとの契約もありましたが、ワーナーとの契約が切れた段階で名前を再びプリンスに戻し、以降はインターネットを始め、様々なダイレクトな音楽供給手段を模索し、時には大手のディストリビューションを利用するなどして、制約のない活動を展開しています。

先に紹介したプリンスのインターネット批判は、結果として多くのファンやアーティスト達からも批判されることになりましたが、そもそもプリンスはインターネット販売を実現した大物アーティストの急先鋒でもあったわけです。ただ、プリンスは常に現状に横たわる問題を敏感に察知し、先賢の目を持ってビジネス戦略を柔軟に対応・変化させていくので、周囲がそれについて行けないとも言えます(さらには、彼独特の過激で意味深または意味不明な言葉遣いというのもあります)。

ここ数年はアルバムをコンサート・チケットや新聞のおまけとして無料配布したり
して、レコード業界の常識を覆す手法を取っているプリンス。
あらゆる音楽業界から叩かれ、煙たく思われている彼ですが、彼の勇気ある行動のバックグラウンドにあるものは常に、アーティストの権利保護と、大手企業を始めとする第三者による中間マージンや搾取を許さないダイレクトな販売経路です。“音楽業界のドンキ・ホーテ”ことプリンスが今後どのような手段をもって
“アーティストの自由・音楽の自由”を実現させていくのか、私自身は彼を応援しながらしっかりと見守っていきたいと思っています。

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