【I Love NY】「アメリカの音楽ビジネスは死んだか?」

(ここではSTEPのNYスタッフから届く、現地の最新音楽情報の一部をご紹介しています!)

ネガティヴな面をフォーカスすれば、この言葉は間違いのない事実であると言えます。
90年代後半に、アメリカでは音楽史上初めてレコード/CDのセールスが前年比を下回り、
その後も下降線が上向くことはありません。
大手レコード会社は次々と予算と人員の削減を行って合併を繰り返し、
有能な現場のスタッフ達は次々とインディペンデントな活動を始めていき、残ったのは
人も音楽もすぐに賞味期限が訪れる限定期間販売商品としか考えず、音楽の中身は二の次で企業の利益のみを考えるビジネスマンばかりとなっています。

CDが何故売れないのか……「それはインターネットによるデータ配信のせいである」
ということが、まことしやかに言われてきました。
しかし、アメリカの音楽ビジネスの問題はそういった単にメディアの面だけではありません。問題はハードよりもソフトにある。
つまり、アーティストとその周囲の人間達の意識や認識、能力や情熱の欠如にあるということを多くの人達が気付き問題にし始めています。

「マライアこけたら皆こけた」と言われるほど、大物アーティストへの依存過多は間違いなく、新しい才能の発掘・育成、言い換えれば投資するということを怠ってきたレコード会社の無能・怠慢ぶりを表しているとも言えるでしょう。

昔のレコード会社のようにカリスマ的な独裁者がいるのではなく、誰が仕切っているのか、誰に決裁権があるのかも分からず、膨れあがったシステム(実はシステム呼べるようなオーガナイズされたものでは全くないのですが)に周囲やアーティスト本人までが動かされ、振り回されているような事態と言えます。

ポップスやヒップホップ以外のジャズ、クラシックなどの部門は次々と縮小され、ロックも一部のスター達を除いてクラシック・ロックと呼ばれる昔のロックの再発・再結成ばかりが注目され、実際にかなりの収益にもなっています。これはCD産業だけでなく興業においても顕著で、大ホールを埋め尽くすのは、中高年を対象とした懐メロものや再結成もの(例えばクリームの再結成であるとか、エリック・クラプトン&スティーヴ・ウィンウッドのブラインド・フェイス再結成であるとか)ばかりお金を持っている中高年層を対象にしたビジネスが音楽業界の中でも賑わっていると言えるわけです。

ジャンルを問わず、以前はアメリカ国内ツアーというのはミュージシャン達にとって重要な収入源でしたが、今やアメリカではロックでもジャズでも国内ツアーを行うというのは大変困難な状況にあります。そのため、アメリカのミュージシャン達は皆、ヨーロッパや日本へと演奏やツアーの拠点を移していきました。

もう一つの大きな問題は、アメリカは自国のアーティスト達を大切にしていないと自国のアーティスト達の不満が方々で噴出していることです。

プロモーターやホール側にとってはお金が入れば良いわけですから、誰が公演を行って誰が見に来ようと関係ありませんし、プロモーターやホールの無能・怠慢ぶりが顕著に現れています。もちろん彼等は興業を行う以上、客を集めて収入を得なければなりませんが、発想が「どうしたら客を集められるか」ではなく「どうしたら労せずして客を集められるか」
となってしまっているわけです。

コンサート・チケットの価格の高騰ももう一つ大きな問題です。
日米間では金銭価格が違うので安易な比較はできませんし、日本とは比較にならないほど貧富の差が激しいアメリカですので一言で言い切ることは決してできませんが、したがって前述のように、中高年層狙いのコンサートがリスクも少なく収益も見込めるということになるわけです。

これらは現在のアメリカの音楽ビジネスに見られる問題の一部でしかなく、まだまだ様々な問題が存在しています。
今回は敢えてネガティヴな面ばかりを強調してきましたが、それを打破しようという動きは方々で既に起こっています。
今後はそういったポジティヴな動きに関してもご紹介していきたいと思います。

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