【I Love NY】アメリカでは評価が分かれるマイケル・ジャクソン
(ここではSTEPのNYスタッフから届く、現地の最新音楽情報の一部をご紹介しています!)
世界同時公開となったマイケル・ジャクソンの「ディス・イズ・イット」はご覧になったでしょうか?
彼の追悼メモリアル式典で涙にくれてしまった私は、今回もまたしても涙・涙…。
最後は映画が終わっても感動と悲しみでしばらく席を立つことができませんでした。
個人的な感想は山ほどありますが、マイケルの生前、コンサート映画として予定されていたこの映画(マイケルは最後までこの映画の制作・公開に反対していたようですが)が、マイケルの不慮の事故によって、彼のパーソナルな面を知ることのできる貴重なドキュメントとなったことは、マイケルには申し訳ありませんが私には大きな喜びでした。
映画は公開された週末は大盛況でしたが、すぐに観客の数は減り、私が観に行った翌週の月曜日は既にガラガラでした。「キング・オブ・ポップス」と呼ばれ、アメリカを代表する世紀のスーパースターと言われながらも、実はこれが実際の状況であるとも言えます。確かにマイケルの熱狂的ファンというのは私も含めてアメリカにはたくさんいます。しかしその一方でマイケルを忌み嫌うアメリカ人達も山ほどいるのです。
それはやはり世間を騒がした児童虐待疑惑による逮捕(裁判の結果無罪)という前歴と、事故や手術による痛み止め服用から始まったと言われる薬物常習という面が大きいと言えますし、さらにマイケルはホモセクシャルであったという噂も加わっていると思います。
少し例を挙げましょう。高校生である私の娘は大のマイケル・ファンで(今回の映画も3回観に行ったそうです)、ハイスクールではマイケル・ジャクソン・クラブ(つまりファンクラブ的な同好会)まで作ってしまい、「あんなにすごいメッセージを世界に伝えられた人は他にいない」とマイケルに心酔しているのですが、クラブを作ったことに関しては一部の生徒達から「マイケルはドラッグ・アディクトでホモセクシャルで幼児虐待の変質者なんだから、そんなクラブは作るべきではない!」などと言われ、よく非難されては喧嘩になるのだそうです。
私が演奏を行っているハーレムやブロンクスのゴスペル・チャーチでもマイケルに関してはほとんど触れられることはありません(というか話題にするのを避けている感じ)。確かにマイケルが亡くなったときはハーレムやブロンクスの黒人達の大勢が涙に暮れていましたし、今でもマイケルTシャツを着ている人達はたくさんいます。しかし、教会という世界に入ると話は全く別になりますし、私もマイケルの話は避けるようにしています。信じられないかもしれませんが、これがアメリカの保守層の現実でもあります。
マイケルの魅力は山ほどありますが、私にとってはあの人間業ではない驚異的なリズム感とダンスと共に、天使のような歌声と中性的な容姿・キャラクターがとても魅力でした。しかし、これはアメリカの一般的な感覚・指向とは全く異なる対照的なものと言えます。つまり、男性は強く逞しい“マッチョ”であることを美徳とする一般的なアメリカ人感覚からすると、マイケルは極めて特異な存在と言えます。優しすぎて線の細いマイケルは、保守的なアメリカ人にとっては到底理解されず受け入れられることのないキャラクターであるわけです。実際に、アメリカにおけるマイケル・ファンというのは性別・年齢的には圧倒的に女性やティーンが多く、人種的にはラテン系や黒人、アジア系などのマイノリティが非常に多いということです。従って白人男性の過半数以上はマイケルが好きではないというデータもあります。
そんなマイケルがこれだけのスーパースターになったということは、アメリカにおいては奇跡と言えるのかもしれません。よく言われることでもありますが、彼のことを本当に理解していたファンというのは、アメリカよりもアジアやヨーロッパの人々の方が多かったということも頷ける気がします。追悼メモリアル式典では黒人女性議員のシーラ・ジャクソン・リーがマイケルの日を制定することについて言及しましたが、その後保守系議員達の猛反対にあって話は消えてしまいました。
熱狂的なファンが大勢いると同時に、マイケルのことを忌み嫌う人間も多いマイケル。本当にアメリカにおけるマイケルの人気・評価というのは、複雑で多様で多重な様相を呈していると言えす。