【I Love NY】ニューヨークのCDメディア事情

(ここではSTEPのNYスタッフから届く、現地の最新音楽情報の一部をご紹介しています!)

5月末よりブロードウェイが歩行者天国となったタイムズ・スクエアは、夏休みが終わっても相変わらずの混雑ぶり。
ニューヨークは短い秋が終わると様々なホリデイ・シーズンに突入していくので、これから益々大勢の人で賑わっていくことと思います。
そんなタイムズ・スクエアですが、ブロードウェイとセブンス・アベニューが交差する45丁目と46丁目の間の店舗の入り口が真っ黒く覆われており、道行く人の中には「これは一体なんだろう?」と覗き込む人もいます。


実はここはかつてニューヨークで最大の品数と売り場面積を誇っていたヴァージン・メガ・ストアがあった場所。メインの地上階と地下1・2階から成り、開店当初は売り場や店内のカフェは常に大勢の人で賑わっていました。
このヴァージンのタイムズスクエア店が閉店したのは、なんとタイムズ・スクエアの歩行者天国ができて数日後のこと。
歩行者天国によって界隈の店舗は商売繁盛間違い無しといわれていただけに、なんとも驚きと寂しさの残る閉店でした。同店のユニオン・スクエア店の方は既に3月に閉店しており、今回のタイムズ・スクエア店閉店によって、ヴァージン・メガ・ストアは北米から完全撤退するそうです。

これでマンハッタンにはいわゆる大型CD専門ショップというものが完全に消えてしまいました。まずその先陣を切ったのはHMVです。HMVは開店当時から他のメガストアよりもマニアックな作品の品揃えが豊富であることでも人気が高かったのですが、5番街やヘラルド・スクエア(有名デパート、メイシーズの向かい側)にあった店舗が次々と消えていきました。
次にタワー・レコードのリンカーン・センター店がつぶれ、タワー・レコード自体も3年前に倒産してしまいました。そして今回のヴァージンで、文字通り大型CD専門ショップは終焉を迎えたといえます。
残念ながら、もうCDショップでCDを買う時代ではないようです。もっとはっきり言えば、もうCDというメディアを買う時代ではなくなってきているようです。

家でお気に入りのステレオ・システムでゆっくり音楽を聴くなどということもすっかりなくなりました。音楽再生機はiPod(またはそれに類するMP3プレイヤーなど)で、車の中や地下鉄、そしてストリートを歩きながら聴くことがほとんどです。実際、日本よりははるかにメカ後進国であるアメリカでも、特にニューヨークでは耳にイヤーフォンをつけて音楽を聴いている人の数は圧倒的に増 えました。地下鉄に乗ると周りのほとんどの人達がイヤーフォンを付けていると言っても過言ではありませんし、白いイヤーフォンをつけていると引ったくりにあう(白 いイヤーフォンはiPodの目印であるため、発売当初はよくiPodひったくり事件が起こりました)というようなこともなくなりました。いずれにせよ、MP3プレイヤーとコンピュータ並びにインターネットは、ミュージック・ライフのスタイルをすっかり変えてしまったと言えるでしょう。

CDというメディアに依存しているレコード会社の衰退も象徴的であると思います。大手レコード会社も買収・合併の繰り返し。マイナー やインデペンデント系アーティストだけでなく、大物アーティスト達も自分のレーベルを持ってプロダクションの主導権を握り、大手レコード会社は単なるディストリビューションとしての機能くらいしかありません。宣伝・プロモーションに関しても、レコード会社のA&Rよりもパブリシストが力を持ち、レコード会社とは別のプロモーション会社に委託するケースが増えています。CDがこれだけ売れなくなっているわけですから、アーティスト・サイドも興業(コンサートなど)やオンライン、そしてマルチ・チャンネル的な販促にフォーカスを向けており、レコード会社は益々クリエイティヴな面に限らずパワーを失ってきています。

思えば、アナログ盤(LP)からCDに移行した時に、A面B面という発想が消え、ジャケットのアート性やコンセプトなども力を失いました。そしてCDからインターネットによるダウンロードへと移行したことにより、気に入った曲だけをダウンロードし、しかも自分なりのコンピレーションを作ることができるようになったため、“アルバム”または“アルバム作品”というコンセプトすらも失われていきました。
ブロードウェイのリバイバル同様、今やCDもリイッシュー(再発)・ブーム。明らかにターゲットとしているのは中高年層であると言えます。しかし、そんな中でも常に“アルバム作品”というコンセプトを大事にし続けているアーティストは、あらゆるジャンルの中にまだまだ大勢います。
巨大なダウンロード市場は、この先どう変化していくのか。CDというメディアは完全に消え去るのか。“アルバム作品”というコンセプトも消え去るのか。それとも、時代はまた戻り、CDまたはそれに変わるメディアが主流 になる日は来るのか。インターネットの後押しもあり、アーティスト達が 益々インディペンデント化していき、かつてのようなレコード会社主導ではなく、自主的な動きが活性化していく中で、CDを始めとするメディアを含め、音楽業界の動きも益々多様化していくことは必至であると思います。

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