【I Love NY】映画やミュージカルに見るアメリカの音楽状況と世代の繋がり

(ここではSTEPのNYスタッフから届く、現地の最新音楽情報の一部をご紹介しています!)
日本は世界でもトップの“CM先進国”であるように思います。
つまり、CMは時代の先端・先鋭であり、そこに音楽やファッションなどの最新状況や時代感覚、そして今後の流行までもが含まれているように思います。
しかし、アメリカは全くその逆とも言えるほどに異なります。アメリカにおいてCMとはあくまでも販促・宣伝の手段であり、そのために最も効果的な手法というものが研究・模索・採用されます(ある意味で、ネガティヴ広告というのもその一例と言えます)。


日本ではCMに大スターと呼ばれる人達が出演するのも特徴的ですが、アメリカでは
そういったことは決して行われません。はっきり言ってしまえば、アメリカでは映画、テレビ、CMといった順番でヒエラルキーのようなものが存在します。
つまり、映画の大スターはテレビドラマには出演しませんし、CM出演などもあり得ません。スポーツ選手や歌手などがCM出演することはありますが、“パフォーマー(演技者)”という立場においては絶対的な上下関係があるわけです(良きに解釈すれば“分業制”とも言えますが)。

CM音楽に関しても時代の有名アーティストがその音楽を手掛けることはあり得ませ
ん。CMにはCM専門の音楽家(音楽制作者)達がいて、時代の流行を取り入れつつも、商品の販促・宣伝に則したものに仕上げていくわけです。ただし、CM音楽に関しては、アメリカでは一つの立派な地位というものを築いているように思います。CM音楽家がレコーディング・アーティストやライヴ・アーティスト、映画音楽家よりも下であるということはなく、トップクラスのCM音楽家はかなりのギャラを稼ぎますし、表には出てこないものの、音楽業界ではかなりの名声と敬意を集めているわけです。

日本だとCMを観ていれば音楽の現状や流行も見えてくるように思いますが、アメリ
カの場合は映画やミュージカルがそれに代わる役割を果たしているように思います。私がこのニュースレターでよく映画やミュージカルの話題を取り上げるのも、実はそれが理由です。
今の音楽動向を見るには、音楽そのものよりも映画やミュージカルの方がもっとマスな動きや流行が見えてくることが多いと言えるからです。
逆に言えば映画やミュージカルは、アメリカの大衆文化として今も巨大・絶大なパワーを持っているわけです(正直言って、ミュージカルは昔のようなパワーを失いつつあると言えますが…)。

例えば最近は以前よりも少なくなってはきましたが、映画のエンディング・ロール
に流れる音楽というのが流行を反映しているとも言えましたし、それに付随して制作されるサントラ盤(完全なオリジナル・サントラ盤ではなく、映画では収録されていない音楽やアーティストまでも取り込んだ“準サントラ盤”)という媒体がしばらく人気を博して流行を生み出してもいました。
ミュージカルも同じで、取り上げられる題材に時代感覚や時代のニーズというもの
が現れています。以前にも何回かご紹介しましたが、80年代ロックの懐メロ・ミュージカル「ロック・オブ・エイジズ」は、この世代層(30〜40代)の多さと懐(金)を狙ったものと言えますし、今年のトニー賞ベスト・ミュージカル賞受賞の「メンフィス」の音楽監督にボン・ジョビのデヴィッド・ブライアンが起用されたことには、ボン・ジョビというアメリカを代表するロック・バンドの人気の絶大さがわかります。
高年齢層には「ミリオン・ダラー・クァルテット」というプレスリー、ジョニー・
キャッシュ、ジェリー・リー・ルイス、カール・パーキンスという一度限りの夢の共演を題材にしたミュージカルが人気であることも、アメリカの音楽文化の一端を表していると言えますし、グリーン・デーの作品を題材にした「アメリカン・イディオット」は20〜30台の音楽カルチャーに狙いを定めたものと言えます。

また、日本人には人気は今一つのようですが、「ジャージー・ボーイズ」というロ
ングランの大人気ミュージカルがあります。これはニュージャージー出身のフォー・シーズンスというコーラス・グループのサクセス・ストーリーなのですが、いかにこのグループ、特にリーダーのフランキー・ヴァリがアメリカ人から愛されているかということの証明でもあります。実際にフランキー・ヴァリ&フォー・シーズンスの当時の人気というのは絶大であったようで、例えて言えばバックストリート・ボーイズやイン・シンクのような存在でもあったわけで、ある意味でフランキー・ヴァリはジャスティン・ティンバーブレイクのような存在でもあったと言えるようです。

そうした中、先月もご紹介したョン・レノン没後30周年&生誕70周年のタイミングに合わせるかのように、ビートルズ・トリビュート作品「レイン」がついにブロードウェイで来年の1月9日まで上演されすることになりました。
この作品はビートルズを題材にして70年代後半に上演された「ビートルマニア」を出発点にしており、その出演者達が「レイン」のオリジナル・メンバーとなりました。音楽的には、これも先月ご紹介したベーシストのウィル・リー率いるFab Fauxと同じく、ライヴ活動停止後のビートルズの曲や、ビートルズがライヴで演奏しなかった曲まで見事に再現するのが特徴ですが、「レイン」の方は更にショーとして遙かに完成されたものと言えます。こうしてビートルズが単なる懐メロ&リバイバルとしてではなく、老いも若きもが(リアルタイム世代からその子・孫の世代まで)今も楽しむ音楽として常に存在するのは、アメリカの特徴的な点と言えるかもしれません。

21世紀になっても圧倒的な人気を誇るビートルズを筆頭に、アメリカでは一昔前の
音楽が懐メロとしてではなく、“今も様々な世代が楽しむ音楽”として存在するのは実に興味深い点です。それは音楽が単なる流行ではなく、“文化”として育まれ、面々と連なってきているということが言えると思いますし、音楽が若者文化だけではなく、万人の文化として様々な形で存在する豊かな土壌があると言えます。
よって、アメリカでは音楽を語る時に“ノスタルジー”や“オールディーズ”といった呼び方はあまりしませんし、“時代”とは継続しているもの、という感覚が強いように思います。例えば、60〜70年代(最近は80年代もその範疇に入ってきています)のロックはクラシック・ロックと呼ばれ、R&Bに関しては最近のトゥデイズR&Bや“ニュー・スクール”に対して60〜70(80)年代のR&Bを“オールド・スクール”と呼んでいます。
ラジオもそれぞれ専門のステーションがありますが、“クラシック・ロック”と言えばビートルズやレッド・ゼッペリン、クイーン、エアロスミス、ボンジョビ、ブルース・スプリングスティーン、ヴァン・ヘイレンなどがトップに君臨します(これらに比べると、何故かディープ・パープルやエリック・クラプトンはアメリカでは今一つオンエア率が低いようです)。
一方の“オールド・スクール”はモータウン系が断トツで、70年代のファンク系がこれに続いているようです(これも何故かアース、ウィンド&ファイアはオンエア率が低め)。

そして興味深いのは、前述したように“クラシック・ロック”も”オールド・スクール”も、それぞれに若い世代のファンもかなり多いということです。
私事で恐縮ですが、私の娘はロック・バンドのドラマーでもあるのですが、彼女の中学・高校時代を見ていると、ロックをやろうという子供達は大抵今のロックと共に“クラシック・ロック”もしっかり聴いていますし、私のチャーチ・ミュージシャン仲間を見ても、若い連中もヒップホップだけでなく“オールド・スクール”もしっかり聴いています。これは一つには、“クラシック・ロック”も“オールド・スクール”も彼等の親の世代の音楽であり、親が自宅や車などでよく聴いているということもあります。価値観・倫理観と共に、音楽も親から子へとしっかり受け継がれているのがアメリカの特徴と言えるのではないでしょうか。

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