【I Love NY】“時代のロック”(ロック・ムーヴィーに見る、一つの時代の終焉とリバイバル)

(ここではSTEPのNYスタッフから届く、現地の最新音楽情報の一部をご紹介しています!)

4月19日、元ザ・バンドのリヴォン・ヘルムが遂に癌に倒れました。

彼が癌と診断されたのは、もう15年以上前のことですから、本当に長い闘病生活であったと思います。
喉頭癌故、彼はザ・バンドでお馴染みの味のある歌を歌うことができなくなり、しばらくはドラムやマンドリンなどをプレイしていました。私が彼と知り合ったのその頃で、私がプロデュースした映像作品にゲスト出演してもらったのです。本当に気さくで飾らない、心優しい南部の人という感じで随分と仲良くしてもらいましたが、奇跡的に声が回復していくにつれて、彼の身辺と彼自身の態度は変化を来していきました。

あれほど気さくでいい人だった彼は、周囲に対する警戒心・猜疑心を強めていき、ギャラの低い仕事や無料の取材などは受けないようになっていったのです。これははっきり言って知恵袋となった彼の新マネージャーの責任であり、彼はその人間に言いように操られて言いなりになってしまったと私は理解しています。


リヴォンはザ・バンドの解散劇で痛い目にあっているため、彼の変化は理解もできます。
同バンドのロビー・ロバートソンとの確執は有名ですが、なにしろザ・バンドのCDなどの印税はロビー・ロバートソン以外には全く入らず、彼等の解散コンサートを映画にした「ラスト・ワルツ」の制作では、リヴォンは完全に蚊帳の外に追いやられてしまったのですから全く酷い話です(「ラスト・ワルツ」の解散コンサート自体が、多額の報酬を得ようとしたロビー・ロバートソンの仕組んだ陰謀であったという意見もあります)。
実際に、事あるごとにリヴォンはロビーに対する敵意をむき出しにしていました。

あんな素晴らしいバンドの中で、このような醜い確執があるというのはファンには悲しいことですし、今でも残念でなりません。

ただ、救いはその後のリヴォンは再び全盛期に迫るくらいに歌えるようになり、バンド活動も活発になり、2008年と2010年にはグラミー賞も受賞して、再び大きな注目と評価を得るようになったことです。
私自身リヴォンに関しては良い思い出と悪い思い出の両方がありますが、今はひたすら故人の冥福を祈りたいと思います。

こういったバンド内での確執は、常にいろいろなところで起こっています。

先日も元アース、ウィンド&ファイアのホーン・セクションであるフェニックス・ホーンズ
のメンバーと仕事をしたのですが、彼等もフィル・コリンズとの仕事では痛い目に会って騙されており、今もフィル・コリンズのことはボロクソに言っていました。
そもそも、ミュージシャンやアーティストはビジネスマンではありません。
基本的にビジネスの分野は彼等の専門外であり、ベジネス・サイドを仕切り、結果的に問題を起こすの要因となるのは大体の場合、彼等のマネージャーや弁護士といった連中です。

特に南部のミュージシャン屋アーティスト達や黒人ミュージシャン&アーティスト達は、長い間詐欺と搾取に会ってきました。それを守るべくレコード会社やマネージメントが勢力を伸ばしていったわけですが、動く金が大きいこともあり、結局は彼等の欲に駆られてミュージシャンやアーティストが犠牲になるという図式は今もあまり変わっていません。

この問題はまた機会を見てお話しするとして、醜い争いはあったにせよ、ザ・バンドというバンドの素晴らしさ、そして「ラスト・ワルツ」という映像作品の素晴らしさにはケチの付けようがありません。特にエリック・クラプトンの人生を変えたと言われる「ミュージック・フロム・ビッグ・ピンク」や、彼等の金字塔とも言うべき大傑作ライヴ作品「ロック・オブ・エイジズ」は、音楽史に残る偉大な作品であると思いますし、マーティン・スコセージ監督による「ラスト・ワルツ」は音楽を抜きにしても(実際にリヴォンは「ラスト・ワルツ」は最低の作品などと罵倒していましたが)、最高の映像作品とも言えるのではないでしょうか。

さて、その「ラスト・ワルツ」が久々にニューヨークにおいて限定再上映されることになりました。それも「ロック・フェスト2012」として、ロック・ムーヴィーの傑作と共に全6作品再上映されるのですから要注目です。
これは単館ロードショーではありますが、最メジャー作品のニューヨーク・プレミア・ショーの映画館として、常にレッド・カーペットが敷かれてスター達が集う、歴史あるジーグフェルド・シアターですから、位置づけとしてはニューヨークでは最高ランクになります。

今回再上映されることになった作品は、75年のザ・フー主演「トミー」、76年のレッド・ゼッペリンの「ザ・ソングス・リメイン・ザ・セイム」、84年のトーキング・ヘッズの「ストップ・メイキング・センス」(ジョナサン・デミ監督)、07年のU2の「U23D」、08年のローリング・ストーンズの「シャイン・ア・ライト」(これもマーティン・スコーセージ監督)、そして78年のザ・バンドによる「ラスト・ワルツ」です。

こうしたロックを中心とする音楽映画というのは、これまでにもたくさん登場し、話題を集めてきました。

57年のエルヴィス・プレスリーの「監獄ロック」などに始まり、ビートルズの「ア・ハード・デイズ・ナイト」、ストーンズの「ギミ・シャルター」、「ロッキー・ホラー・ショー」、セックス・ピストルズの「シド&ナンシー」、ジョン・レノンの「イマジン」、ボブ・ディランの「ドント・ルック・バック」、「ドアーズ」、プリンスの「パープル・レイン」、ロバート・ジョンソンの「クロス・ロード」など多数ありますし、ライヴ・イベントのドキュメントとしては「ウッドストック」や、「ワッツタックス(スタックス)」も忘れられません。

また、音楽やバンド、アーティストなどを題材にした映画となると、挙げていったらキリがありませんが、最近では、完全にエンターテイメント作品として仕上げたジャック・ブラックの「スクール・オブ・ロック」や、ロック・バンド(レッド・ゼッペリン)のサイド・ストーリー的な話を題材にしたケイト・ハドソン主演の「オールモスト・フェイマス」なども人気を博しました。

こうした映画作品の人気ぶりや内容の充実ぶりを見るに付け、ロックやR&B、ブルース、ジャズといったアメリカのポピュラー音楽が、以下にこの国において誇るべきカルチャーとなっているのかが感じられますし、その時代を語る重要な要素にもなっていると言えます。

以前にもご紹介しましたが、こうしたムーヴメントブロードウェイのミュージカルにも登場し、それが映画になる(またはその逆)というパターンも良く見られます。
来る6月に公開される予定の「ロック・オブ・エイジズ」(前述のザ・バンドの名作と同タイトルですが、音楽的には何の関連もありません)は、そうした作品の代表であり、最近のその手の作品の中ではダントツとも言えるのではないでしょうか。

この「ロック・オブ・エイジズ」は、80年代ロックの懐メロ・ミュージカルとも言えるもので、狙い通り、その世代層(30〜40台)から圧倒的な人気と評価を得て、特にアメリカ国内の観光客には超人気ミュージカルの一つとなっています。
それが遂に映画化されるわけですから、話題にならないわけがありません。
しかも出演者にはトム・クルーズ、キャサリン・ジタ・ジョーンズ、ラッセル・ブランドが顔を揃え、アレック・ボールドウィンやメアリーJブライジも登場するということも大きな話題です。
早速プレビュー(予告編)では、長髪でマッチョなロック・スター役のトム・クルーズの熱唱ぶりと、話題のティー・パーティの女性候補をバカにしたかのようなキャサリン・ジタ・ジョーンズの“嫌な女”役ぶりも話題になっていますが、メジャー映画故にハリウッド的カラーが強くなり過ぎて、誇張された典型的な愛憎ストーリーがミュージカル版のファンには今一つという意見もありますが、今年最も話題の音楽映画の一つとなることは間違いないでしょう。

先日はニューヨークでデュラン・デュランの再結成ライヴが行われたことに驚きましたが、30年周期と言われるように、メイン・ストリーム的に見ると、音楽もファッションも、時代はいよいよ70年代から80年代リバイバルへと移ってきているようです。

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