【I Love NY】月刊紐育音楽通信 December 2012

(ここではSTEPのNYスタッフから届く、現地の最新音楽情報の一部をご紹介しています!)

 俗にニューヨークに無いものと言えば、地震とハリケーン(台風)とトルネード(竜巻)と良く言われていましたし、確かにその通りでもありました。しかし、それも地球温暖化に伴う気候の変化と共に、過去の話になりつつあります。
 昨年の地震(微〜弱震ではありましたが)と昨年と去年のトルネード(非常に限定された区域のみではありましたが)は、ニューヨーカーを大いに驚愕させましたが、今回のハリケーンは、ニューヨークという街が出来て以来、最大・最悪の被害をもたらしたことでも、歴史に残る大惨事であったと言えます。今回は場所によって被害の規模がかなり異なりましたので、ニューヨーカーの中でも被害の凄まじさを認識していない人が大勢いますが、マンハッタンの南に位置するスタテン・アイランド、ジョンFケネディ空港の南側にあるロッカウェイ地区、ニュージャージーの夏のビーチ・リゾート地であるジャージー・ショアなどは壊滅的な被害を受け、町が無くなってしまったり、火事も加わって焦土と化してしまったエリアもあります。それ以外でも、今も家も電気も水もないエリアはまだまだたくさんありますし、私のようにマンハッタン周辺に住んでいて、ほとんど復旧状態にあるというのはラッキーであると言えるでしょう。


もちろんマンハッタンも都市機能がほとんど停止するほどの被害を受けましたが、今回も2001年のテロの時と同様、マンハッタンの中心地の復旧は予想したよりもかなり早かったと言えます。今回も本当にたくさんの人々が復旧に向けて夜を徹してがんばっていましたし(もちろん今も)、アクシデントや災害に遭遇した時のこの街の底力、住んでいる人々の心持ちや心意気と協力ぶりいうのは本当に力強いと改めて感じます。

トピック:ニューヨークの年末トピック・イベント

 先月はジェイZとブルックリンの躍進ぶりをお伝えしましたが、本当に今、この二つはニューヨークの旬とでも言うほどの勢いを持っているように感じます。ジェイZは9〜10月の8日間公演に続いて、年末の12月30・31日に“自分のアリーナ”、バークレイズ・センターでニュー・イヤーズ・イヴ・コンサートをコールド・プレイと共に行います。
なにしろ、自分のプロ・スポーツ・チームと共に自分のアリーナを持つラッパーというかミュージシャンなどというのは前代未聞な訳ですし、もうそうなればスケジュールなどは自分のやりたい放題と言えるでしょう。今年のメジャーな音楽界は、ジェイZに始まり、ジェイZに終わったという感があります。
 
 ここ最近のブルックリンのホットなエリアと言えば、ウィリアムズバーグ、ダンボ、ボコカ、バークレイズ・センターのあるアトランティック・ターミナル周辺、そしてハリケーンの被害を大きく受けたレッドフックなどがありますが、これらのエリアの再開発、特に新しいビルや店舗の建設には本当に目覚ましいものがあります。
 中でもその筆頭はやはりウィリアムズバーグです。元々はユダヤ人街に隣接した、倉庫エリアであったわけですが、今や“ブルックリンのソーホー”としてアーティストから企業のヤング・エグゼクティヴ達に至るまで、若者を中心とした文化の発信地となり、家賃は所によってはマンハッタンの最高級地域アッパー・イーストをしのぐと言われています。この地区の巨大倉庫を使って11月から12月の週末5週間にかけての夜(深夜12時まで)行われるブルックリン・ナイト・バザールというのが、今や年末の名物イベントになってきており、地元や新進のミュージシャンやDJ、美術系アーティストから、食の屋台や仮店舗などが集まり、大規模な総合カルチャー・イベントとなっています。

 ジェイZのバークレイズ・センターにはその後も次々と新たなラインナップが発表されています。中でも12月8日に急遽行われることになったローリング・ストーンズのコンサートは一番の話題でしょう。しかし、最低で95ドル、最高で750ドルというチケット価格は一体何なのでしょう!ストーンズは、もはや本物のロックンロール・バンドなどではなく、金持ち老年層相手の懐メロ・バンドでしかない、という酷評は多くの業界人やファン達からも聞かれますが、それにしてもこの価格は異常であり、あまりにバカバカしいと言わざるを得ません。

 ストーンズとは対極にあるかのようなブロードウェイ。今年はこのタイムズ・スクエアのブロードウェイ界隈にあるセント・ジェイムズ・シアターで、これも懐かしきバリー・マニロウが約2週間の限定ショーを行います。こちらの価格も最低で50ドル、最高で350ドル。まあ、これに関してはラスヴェガスのショーと同じ趣旨であり、しかもこぢんまりとしたブロードウェイの劇場ですから、高額なのはわかりますが…。

 金額的に考えれば、「あんたらはエライ!」と言えるのが、同じバークレイズ・センターでの“復活”スマッシング・パンプキンズのコンサートでしょう。これだけの超大物スーパー・バンドが、50ドルか75ドルのチケットというのは、今のご時世においては本当に良心的であると思います。もともとは10月31日に行われる予定であったのが、ハリケーン・サンディの災害(都市交通の麻痺)によって12月10日に延期となりました。往年のパワー炸裂となるか、大変楽しみなところです。

 もう一つ、話題のバークレイズ・センター・コンサートが、ニール・ヤングとパティ・スミスのジョイント・コンサートでしょう。こちらはまず11月にマジソン・スクエア・ガーデンで行われ、12月3日バークレイズ・センターに上陸というわけです。なにしろ、それぞれの時代において反体制の騎手となり、当時の若者達から圧倒的な支持を集めた、時代・ジャンルの異なる二人がジョイントするのですから、これは単に懐メロなどとは言えない気合いが感じられます。こういったところに、ニューヨークの反骨精神とでも言うものがしっかりと息づいているとも感じます。

 ちょっと硬派な話題に傾きましたので、少し軟派?な季節イベントもご紹介しましょう。この時期になると毎年恒例のライヴを行い、名物イベントとなっているのが、BBキングとデヴィッド・サンボーンです。BBはもちろん彼のクラブ、BBキングスにて。
サンボーンはお馴染みブルーノートです。もうシーンの最前線にいるとは言えない、殿堂&レジェンド入りしてしまっている両者ですし、彼等のライヴ自体が“季節もの”となってしまっていますが、クリスマス・シーズンに入った冬のニューヨークで、泣きのブルース・ギターとメロウなサックスに浸るというのは、雰囲気タップリで、なかなかオツなものと言えるでしょう。

 クラシック系のコンサートもこの時期見逃せません。日本では年末と言えばベートーヴェンの第九ということになるのでしょうが、こちらでは年末(というかクリスマス時期)は何と言ってもヘンデルのメサイアです。「ハーレルヤ、ハレルヤ、ハレルヤ、ハレールア…」というお馴染みの合唱を耳にすると、「ああ、今年もいよいよ終わりだなあ…」という実感を持ちます。各地で大小様々なメサイア・コンサートが行われますが、やはり何と言ってもダントツなのは、ニューヨーク・フィルのコンサートと、同じリンカーン・センターの中ホール、アリス・タリー・ホールで行われる、トリニティ・バロック・オーケストラによるものでしょう。一般的に有名なのはやはり前者で、昨年はペーター・シュライアーの指揮で、今年はなんとフランス出身の美人チェンバロ奏者&指揮者エマニュエル・エイムの指揮で話題性もたっぷりです。これに比べると後者はちょっと地味なのですが、古楽派の私としては、ウォール街の向かいにあるニューヨーク最古の教会(1600年代末)トリニティ教会のバロック・オーケストラと合唱団によるメサイアに惹かれます。トリニティ教会自体は現在改装中ですが、改装が終わっ
て再び大聖堂内でコンサートが行われるようになれば、大感動は間違いなしと言えるでしょう。

 ニューヨークは今、日の出は大体朝7時頃、日の入りは大体夕方4時半頃で、サマータイムが終わって、急速に日が短くなっています。これから更に短くなっていくわけですが、そのピークであり、そこから日が長くなり始めるのがウィンター・ソルスティス、つまり冬至です。このウィンター・ソルスティスと言えば、忘れてはならないニューヨークの名物コンサートがあります。音楽界における環境保護運動の先駆者とも言えるポール・ウィンターのウィンター・ソルスティス・セレブレーションがそれです。
今年でもう33回目。場所はニューヨークのサグラダ・ファミリアとも言われるセント・ジョン・ザ・ディヴァイン(セント・ジョン大聖堂とか、ニューヨーク大聖堂とも言われます)において。この大聖堂は1800年代末から建設が始まり、なんと現在も建設続行中なのですが、完成すれば世界で最大のゴシック様式教会となるそうです。コロンビア大学のすぐ南にあり、私も時折足を運ぶのですが、この大聖堂の中のひんやりとした落ち着いた雰囲気というのは、ニューヨークの数ある他の名物教会とは異なる格別のものと言えます。そして更に素晴らしいのが音響効果。これらの魅力をフルに活用したポール・ウインターの名物コンサートは、是非一度は味わっていただきたい素晴らしいイベントです。

 ニューヨークのクラシック系ホールと言えば、幾多のクラシックの名演を残し、先月取り上げたグレン・キャンベルのグッドバイ・コンサートも行われたカーネギー・ホールを忘れるわけにはいきません。しかし、現在のカーネギー・ホールはいわゆる貸ホールとして、クラシック専用ホールとは言えなくなっています。ただし、残響の特性があり、エレクトリック・サウンドが入ると正直言って音響は厳しいものがあります。このカーネギー・ホールには、外貸し以外のコンサート、つまり自前のプログラムをプランニング&オーガナイズする組織があり、ここのプログラムは毎回、なかなかの聴き応えとクオリティを誇っています。その中でも今回、11月から12月にかけて行われている「Voices from Latin America」は実に素晴らしいラインナップで、興味深いパフォーマンスを送り届けています。中でも、今年8月に93歳で亡くなったメキシコの偉大な女性シンガー、チャベラ・バルガスの追悼イベントでは、タニア・リベルタ、エウヘニア・レオン、エリー・グエラという現在のメキシコを代表する女性シンガー(タニアはペルー出身)が集い、アフロ・キューバン・ジャズのピアノ・コンサートでは、チューチョ・バルデス(キューバ)、エグベルト・ジスモンチ(ブラジル)、ゴンザロ・ルバルカバ(キューバ)、ダニーロ・ペレス(パナマ)という4人の巨匠ピアニスト(ジスモンチはギタリストとしても有名)が集い、これらは本当に聴き応えと意義のある、興味深いイベントとなりそうです。

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