【I Love NY】“月刊紐育音楽通信 June 2012”
(ここではSTEPのNYスタッフから届く、現地の最新音楽情報の一部をご紹介しています!)
アメリカは来週メモリアル・デイを迎え、いよいよ夏のシーズン到来を迎える準備に入ってきているようです。
ニューヨークも毎年恒例の野外コンサート・イベント(ほとんどが無料)である「サマー・ステージ」のラインナップも発表され、例年よりも数多くの公園で、様々な音楽が披露されることになっています。
また、テロ以降の再開発が顕著なハドソン川沿いでは、例年行われている「テイク・ミー・トゥ・ザ・リヴァー」という夏のイベントが定着し、今年は更にスケールアップして様々な音楽も演奏されます。
こうしたイベント以外にも各所で話題を呼ぶパフォーマンスが予定され、ざっと有名どころの名前を挙げると、ジャック・ホワイト、ビーチ・ボーイズ、マイ・モーニング・ジャケット、ジミー・クリフ、ラジオヘッド、ドレイク、再結成ジャクソンズ、デイヴ・マシューズ・バンド、リンゴ・スター・オールスターズ、チャーリー・パーカー・ジャズ・フェスティヴァル、エディ・パルミエリ、ロジャー・ウォーターズ、フィリップ・グラス・アンサンブル、ボン・ジョヴィ、マックスウェル、オールマン・ブラザーズ&サンタナ、Hot97サマー・ジャム(NYのヒップホップFM局Hot97が毎年行っているNYのヒップホップ最大のイベント)、等々、多種多様なアーティスト達が様々な場所でステージを繰り広げる予定です。
音楽からは話はそれますが、今年の夏はニューヨークでスペース・シャトルが展示されることも話題になっています。
ミッドタウンのハドソン川沿いにイントレピッドという空母のミュージアムがありますが、6月半ばからは、歴代の戦闘機やコンコルドなどと共に、スペース・シャトルもお目見えすることになっているのです。
実は先日、そのスペース・シャトルがNASAからニューヨークに運ばれてきたのですが、なんと驚くことにスペース・シャトルはジャンボ・ジェットの上に載せて、親ガメ子ガメのような状態で飛んできました(ジャンボはNASAの特別仕様機ではありますが)。
当然急な上昇下降ができないこともありますが、ゆっくりとマンハッタン上空を旋回したりして、ニューヨーカーは大喜びで、メディアも当日はそのニュース一色でした。
昨年は観光客の数が史上最高に達したましたが、今年は恐らくそれを更に上回ることは必至。これで経済や雇用がもう少し良くなってくれれば、ニューヨーク全体としての街の活気も戻ってくることでしょう。
トピック:2つのFM局消滅に見るアメリカの音楽動向の変化
私が高校生の時に初めてニューヨークにやって来た70年代後半、音楽ソースの中心となっていたのはFMラジオでした。もちろん音楽メディアとしてはアナログ・レコードが全盛期でしたが、身近な音楽ソースとして、常に最新の音楽をゲットできるのは、間違いなくFMラジオだったのです。
思えば当時、日本にいる友人にFMラジオを“ラジカセ”で何時間も録音してお土産として送ってあげたことも覚えています。当時のFM曲はまだ今ほどジャンル分けが細かくはされておらず、特にヒット曲中心のステーションでは、スティーヴィー・ワンダーの次にエアロスミス、その次はビージーズ、そしてピーター・フランプトン、次はマーヴィン・ゲイなどという、ジャンル的に言えば目茶苦茶なラインナップで音楽がオンエアされることがザラでした。
私自身は中学生の頃から、毎週土曜日にFEN(米軍の極東放送網、現AFN)とラジオ関東(現ラジオ日本)というAM局で全米トップ40というビルボード誌のシングル・チャートのヒット40曲をカウントダウン式に紹介する番組を欠かさず聴いていました。
ですからラジオ世代の少年であった私は、アメリカのFM音楽文化にすっかり魅了されてしまったわけです。
アメリカのラジオ文化は、やはりアメリカの車社会を背景・基盤として発展・維持されてきたと言えます。ですから、音楽メディアがレコードからカセット、CD、MP3などのデジタル・データへと移行しても、ラジオは消えることがないのだと思います。
私自身も車に乗る時間の多い人間ですが、車にiPodをつなげていても、やはりラジオは聴きたくなりますし、DJの語りと選曲のセンスが感じられるラジオというのは、やはりレコード、CD、MP3などとは違ったアメリカならではの趣や雰囲気が溢れていると言えます。
そうした中で、FMラジオも番組や局や形態は次々と変化していきました。テレビの場合は番組が次々と変わっていくわけですが、ラジオの場合は番組はもちろん、局の方向性(音楽性)も急転換することも珍しくありません。例えば、冒頭で紹介したニューヨークのヒップホップFM局Hot97は、80年代半ばは一時期カントリー音楽の局だったのです。
70年代末から80年代、そして90年代と音楽がどんどんと多様化していくにしたがって、FMラジオ局の音楽ジャンル細分化も進んでいきましたが、2000年以降はそうした状況に再編の変化が生じてきているとも言われています。例えばロックならば、クラシック・ロック、ポップ系ロック、オルタナティヴ系ロックと、枝分かれしたものが、まとまっていく傾向にある番組や局が現れ始め、“間口が広くなっていく”局も増える傾向にあると言えるようです。
去る4月末、R&B系ではニューヨーク最大のFM局KissFMが突然終了という発表がされました。70年代末からソフトなアダルト・コンテンポラリーを中心にした局となり、その後新旧を織り交ぜた“都会のR&B”局として人気を得ていたのですが、なんとスポーツ局のESPNが提携して、5月の半ばからはスポーツ番組の局に変わってしまいました。
しかし、KissFMの名前は消えても番組は消滅するのではなく、WBLSという別の局と合体して同時オンエアすることになったのです。このWBLSは、もともとはジャズ・ステーションだったのですが、90年代の半ばからはKissFM同様、“都会のR&B”局として、クラシック・ソウルと今日のR&Bの局として人気を得ていました。KissFMがアダルト・コンテンポラリー色の強いR&B、つまりブラコン色が強かったのに対し、WBLSの方はヒップホップなども織り交ぜた“今日性”が特色となっていましたが、その差違も音楽スタイルやムーヴィメントの変化によって徐々に曖昧になっていき、今回のKissFM終了によって2つの局の番組が合体することになったというわけです。例えば、日曜日の朝のゴスペル・アワーズとそれに続く黒人指導者アル・シャープトンのトーク番組はKissFMからの持ち込み番組ですが、ゴスペル・アワーズのDJはWBLSのDJ、と言った具合に組み合わさているわけです。しかし、今後は番組自体も時代の動きに合わせていろいろと再編していくことは間違いないと思われます。
もう一つ興味深い動きとしては、ちょっと前の話にはなりますが、ニューヨークの人気スムーズ・ジャズ局であったCD101.9が2008年に消滅したことです。
この101.9という局は、70年代にはトップ40形式のステーションであったのですが、70年代後半からはディスコ・ミュージックのオンエアが増え、80年代にはAOR系となり、その後“ソフトでアダルト・コンテンポラリーなジャズ”から“ハイブリッドでコンテンポラリーなジャズ”を取り込んでいき、90年代の初めには“スムーズ・ジャズ”の代表的ステーションとなりました。それが2008年に突如ロックのステーションとなり、それが昨年の8月にはFMニュース(天気予報や交通渋滞なども含む)専門局となってしまいました。では、このスムーズ・ジャズ番組はどこにいってしまったかというと、101.9のサブステーションとして、有料のHD(ハイブリッド・デジタル)ラジオ局、Smooth101.9 HD2として継続されているのです。しかし、自動車メーカーやオーディオ・メーカーのバックアップもあって普及して生きたサテライト・ラジオに対して、地上波ラジオの“新兵器”HDは、レシーバーがまだまだ高額なこともあって苦戦状態が続いているようです。さらにはポッドキャスティングの普及によって、インターネット・ラジオの展開も無視できない状態です。アメリカのラジオ状況は、番組内容と共に放送形態の動向も益々複雑化している状態にあると言えます。
今回は、ニューヨークのFMラジオ局の動向を中心に、アメリカのラジオ事情のほんの一端をご紹介しましたが、“アメリカのラジオ(特にFM)の歴史を知ればアメリカの音楽の動向もわかる”と言われるくらい、アメリカのラジオ・ヒストリーというのは奥深く興味深いものと言えます。
よって、今後も機会を見てこの件に関するトピックもご紹介していきたいと思います。