【I Love NY】“月刊紐育音楽通信 October 2012”

(ここではSTEPのNYスタッフから届く、現地の最新音楽情報の一部をご紹介しています!)

 前回、「大統領選に見るアメリカ音楽界の動向」の中で、エンタメ界の中での共和党
ロムニー候補支持者についてもお話ししましたが、実は大事な側面を一つ忘れていました。
それはロムニーがモルモン教徒であって、米エンタメ界のモルモン教信者達(実は意外と数は多いのです)も当然のことながらロムニーを支持しているということです。
モルモン教徒のミュージシャンで最も有名なのは、古くなりますがやはりオズモンド・ブラザーズでしょう。
今回の大統領選でもダニーとマリーの姉弟はロムニー支持を表明しています。
 


 その後、97年にモルモン教に改宗して話題になり、今や音楽界で最も有名なモルモン教徒であるのが、“ソウルの女帝”(Empress Of Soul)の異名を持つグラディス・ナイトです。
ところが数ヶ月前、グラディスは「モルモン教徒であるという理由でロムニーに投票はしない」と発言し、以前からファンであるというオバマを支持することを暗に表明しました。
やはり、人種は政党や宗教をも越えてしまう強さがあると言えるのではないでしょうか。

 そのロムニーですが、先日あるパーティでの大失言が隠し撮りされて暴露され、窮地に立たされています。「社会の被害者だと思って政府に依存している47%の人々はオバマに投票するだろうが、私はそうした連中を相手にはしない。彼等は自分の人生に責任を取れないような人々だから」ここまで言ってしまったら、ロムニーももう終わりでしょう。
民主党からは差別発言として糾弾され、共和党内でも中道派や中・低所得者層からの反発・離反が相次いでいます。やはり、年収が約14ミリオン(約10億円)に対して税金を約14%しか支払ってない億万長者には、一般市民感覚というものが欠如しがちなのかもしれません。
 とは言え、旗頭がダメでも共和党がこのまま黙っているわけはありません。後一ヶ月強の間に捨て身のネガティヴ・キャンペーンを仕掛けてくることは間違いないと思われますが、こんな形の大統領選になってしまうことに、益々失望と不安を感じる今日この頃です。

トピック:ブルックリンのバークレイ・センター完成とジェイZの野望

 ニューヨーカーのオバマ支持率は極めて高いと言えますが、それでも度重なるオバマ大統領のためのファンドレイジング(資金集め)・パーティによる大統領ニューヨーク訪問によって起こる交通規制と大渋滞には、ニューヨークのドライバー達は辟易として頭を抱えています。
 実は先日も、オバマ大統領は米人気テレビ番組である「デヴィッド・レターマン・ショー」への出演と二つのファンドレイジング・パーティへの参加のためにニューヨークを訪れ、街の一部は麻痺状態となりました。しかも、その内の一つのパーティはジェイZとビヨンセ夫妻の主催によるもので、彼等が経営する40/40というチェルシー地区にあるバーで行われたので、野次馬の数もかなりのものとなりました。

 このファンドレイジング・パーティはエンタメ界でも様々な人々が主催・参加しており、前回は人気テレビ番組「セックス&ザ・シティ」で有名なサラ・ジェシカ・パーカー主催のパーティが話題になりました。何でも今回のジェイZとビヨンセ夫妻主催のパーティは、参加費が一人4万ドルで、1本800ドルのゴールド・ボトルのシャンペンが塔のように積み上げられたそうです。
こんなバカバカしい成金趣味のパーティに興奮するニューヨーカーもいますが、今日の食事や明日の仕事もない人々に対してオバマは本当に応えてくれるのかと、疑問を投げかけるニューヨーカーも数多いと言えます。
 
 ファンドレイジング・パーティというのは、単に支持する候補者に対する資金集めだけでなく、政界とのパイプ作りや政界進出という目的や意味合いも含まれてくると言われています。先日のサラ・ジェシカ・パーカーや今回のジェイZなどは政界進出を狙っていると言われていますし、ジェイZに至っては大統領、ビヨンセはファースト・レディの座を狙っているとも言われています。その資質や中身に関しては別問題としても、確かに最近の彼等のパワーや影響力に関しては、冗談とは言いきれないものがあります。

 実は上記パーティの数日後、ブルックリンに建設中の多目的アリーナ、バークレイ・センターの完成を祝うテープカットの式典が行われました。お祝いの言葉を述べたニューヨークのブルームバーグ市長の横にはジェイZの姿が。そう、ジェイZはこのアリーナのオーナーの一人でもあるのです。このアリーナを本拠地とするのが、お隣の州ニュージャージーから移転してきたNBA(プロ・バスケ)のネッツですが、なんとジェイZはこのチームの共同オーナーでもあります。
 「移転してきた」と言いましたが、正確にはこのネッツはニューヨークに戻ってきたとも言えます。もともとは67年に発足したABAというプロ・バスケ・リーグのチームの一つとして、ニュージャージーでチームが立ち上げられたのですが、その翌年にはニューヨークのロングアイランドに移転して、ニューヨーク・ネッツとなり、大リーグのメッツ、フットボールのジェッツ(この3チームの名称は”ets”という韻を踏んでいるわけです)と共に70年代はニューヨーカーに大変親しまれました。特に73年にはドクターJの愛称で知られたジュリアス・アービングの大活躍でリーグ初優勝を飾ったことは長年のバスケ・ファンには良く知られているところです。
 しかしABAは経営不振のために76年には解散となり、ネッツは他のチームと共にNBAに加わり、ニュージャージーに戻ってニュージャージー・ネッツとして今に至っているわけです。という歴史もあって、ニューヨークの古いバスケ・ファンはネッツがニューヨークに戻ってきたことを喜びましたが、オーナーの一人であるジェイZは、チーム名にニューヨークは使わず、自分の地元であるブルックリンを付けてブルックリン・ネッツとしたのです。しかも、チームのロゴまで自らデザインし(この商標印税だけでも莫大な収入でしょう)、ジェイZ色を色濃く打ちだしたというわけです。

 このバークレイ・センターの収容人数は約1万8千人。2万人収容のマジソン・スクエア・ガーデンには届かないものの、ニューヨークを代表する多目的大アリーナとなることは間違い無しです。9月28日にはジェイZのコンサートによってこけら落とし(計8日間公演。全てソールドアウト)となりますが、それ以降も10月にはバーバラ・ストライザンドやラッシュ、スマッシング・パンプキンズ、ゴスペル4巨匠によるザ・キングス・メン、ジャーニー、ジョン・レジェンドなど、11月にはジャスティン・ビーバー、ザ・フー、ボブ・ディラン&マーク・ノップラーなど、12月にはニール・ヤング、アンドレア・ボチェッリ、レナード・コーエンなどの公演、そして来年1月にはグリーン・デイ、3月にはレディ・ガガ、5月にはリアナといった大物アーティスト達の公演が既に決まっています。
 バークレイ・センターの地下は、以前から地下鉄とロングアイランド鉄道のアトランティック・アヴェニュー駅として、ブルックリンの中心となってきましたが、今回アトランティック・アヴェニュー/バークレイ・センター駅と名称も変わり、再開発にも一層の拍車が掛かっています。実際に、以前はなんとなく危険な香りの残るエリアだったのが、新しい店舗も次々と出来上がり、通りも整備され、マンハッタンの人気エリアと並ぶ観光名所になることも間違いないと言えます。
 そして、このブルックリンを代表するセレブがご存じジェイZとなるわけです。自ら築き、育て上げたレコード会社とアパレル・ブランドは既に売却し、新たなレコード会社やマネージメントを設立したり、大手コンサート・プロモーターと史上最高額で契約したりと、ビジネスマンとしてもピカイチのセンスを誇っているジェイZが、この先どのような戦略に出て、どのように政界進出してくるのか。ラッパーとしては初のプロ・スポーツ・チームのオーナーとなった彼が、将来初のラッパー(ミュージシャン)出身の大統領となるのか、興味は尽きないところと言えるでしょう。

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