【I Love NY】月刊紐育音楽通信 April

(ここではSTEPのNYスタッフから届く、現地の最新音楽情報の一部をご紹介しています!)

ようやく長い冬から抜け出した感のあるニューヨークですが、相変わらず話題はいろいろと豊富です。ここ最近の暗い話題だと、イースト・ハーレムのガス爆発事件、明るい(?)話題だと新ワールド・トレード・センター(略して、ワートレ)の屋上からカメラを頭に付けてパラグライダーで飛び降りた映像、というところでしょうか。

イースト・ハーレムのガス爆発は、本当に悲惨で気の毒な事件でした。そして、ニューヨーカーにとっては誰も人事では無いと言えます。なにしろ100年以上のビルがごろごろあって、老朽化したインフラの問題は日頃から問題視されていたわけです。
中でもガスの配管というのは最も恐ろしく深刻な問題の一つなのですが、先日はついにそれが最悪のケースとなって起きてしまったわけです。ガスの臭いがして通報したのにもかかわらず、間に合わず爆発。もうこれでは、逃げようも防ぎようもありません。しかも、古ければ古いだけ危険であるとは一概には言えず、昔のほうがしっかりと工事に取り組んでいたのが、特に戦後は安易な建築が増えていき、かなり手抜き工事でできたビルも多数あると言われ、築50年以下のビルでも(の方が?)安心とは言えないようです。


一方、新しいワートレからの飛び降り映像は、行為自体は犯罪であり問題ですが、ニューヨーカー(だけではありませんが)を楽しませてくれたことは間違いありません。
即YouTubeで公開されていますので、日本でも既にご覧になった方は多いと思いますが、
最近のSFX系映画などは、ほとんど全てがコンピュータ上のデジタル処理で作り上げられて、ロケというものが必要なくなってしまっているのに比べ、今回は正真正銘のリアルな映像ですから、久々に臨場感を味わった(?)とも言えます。とにかく、100階以上のビルの側面を地上に向かってスルスルと落ちていく映像には、久々に鳥肌が立ちましたし、いくらSFXが凄いからと言っても、$15も払ってくだらない内容の映画を観るより数倍マシだ、という声も方々で聞かれているようです(同感…)。

トピック:皆さんにとって使用頻度の高いスマホのアプリは何でしょうか?

電話、メール、インターネットといった三種の神器(アメリカではこれにテキストが加わります)や、時計やカレンダー、また、マップ、天気予報、交通情報などといった生活に必要な情報を除けば、使用頻度の高いアプリは、人それぞれに違ってくるとは思います。
私にとって、YouTubeと並んで使用頻度の高いアプリにShazam(シャザム)というものがあります。これは、ミュージック・アイデンティフィケーション・サービスと呼ばれる、音声による楽曲検索アプリで、アプリを起動させ、流れている音楽(スピーカー)に向かってスマホをマイクのように向けると、曲名を聴き取ってくれるわけです。特に昔の曲を「あ、この曲なんだっけ」と思い出せなかったり、最近の曲で「この曲よく聴くけど誰?」などというように記憶力が悪くて、時代の流れに遅れ気味である私のような人間には最適な音楽アプリと言えます。
これは実はあまりやってはいけない行為なのですが、車を運転中にラジオから流れてくる音楽で気になる曲があると、すかさずスマホを取りだしてShazamを起動・検索することは、今や日常的な習慣になってきています。

このShazam、1999年に4人の若者達がロンドンで旗揚げしたベンチャー企業で、スマホ内蔵のマイクロフォン機能を使って、アコースティック・フィンガープリントのテクノロジー(音響指紋技術)を最大限に駆使して、瞬く間に超人気注目アプリにのし上がりました。
アコースティック・フィンガープリントは、デジタル音楽の波形から、1分あたりの拍数や音程や音域の分布や量など、それぞれの曲に固有の音響特性を解析・識別する技術ですが、その解析・識別能力が非常に高く、ファイル形式の違いやデジタル信号の歪みなどもモノともしないことから信頼度が極めて高く、何と著作権の違反・侵害を判断するシステムにも利用されるという利用価値の高い技術でもあります。

アコースティック・フィンガープリントというのは、いわゆるMIR(Music Information Retrieval)と呼ばれる「音楽情報検索」という分野のテクノロージーになるわけですが、この分野は特に2000年以降、学会や業界において、その研究が一層注目を集めるようになってきました。
その最も初期の研究は、1990年代に注目を集めたQbH(Query by Humming)と呼ばれる
「ハミング検索」であり、実はこれは日本人の研究・技術が大きな貢献を果たしました。この技術が初めて実用化されたのが、2004年にスタートした「Midomi」であり、それが2009年に「HoundSound」と名前を変え、今やアンドロイド端末(Google Music)を中心に、iOS(アップルのApp Store)やWindows Phone Storeでも大々的に利用されて、MIRを代表するテクノロジーとされてきたわけです。

しかし、QbHはハミングやメロディの歌唱によって検索するため、音程やキー(調)、テンポなどのズレや差違が誤認の原因ともなることが課題となってきました。
これに対して、楽曲の“断片”で検索ができてしまうアコースティック・フィンガープリントは、QbHよりも高精度かつ信頼度の高いテクノロジーとして、今やMIRの最先端をリードすると言っても良いようです。
HoundSoundも後にアコースティック・フィンガープリントを採用していくわけですが、Shazamの方は設立当初からこのテクノロジーに注目し、技術開発を行っていたわけです。
中でも、今や4人の創設メンバー唯一の生き残りであり、創設当時はまだスタンフォード大学の学生であった天才的頭脳を持つエイヴリー・ワンの存在がとてつもなく大きく、やはりこのアコースティック・フィンガープリントという分野ではライバルのHoundSoundを?リードしているのは間違いないと言えるようです。

とは言え、HoundSoundとShazamがMIRにおけるアップルとグーグル、またはiOSとアンドロイドのような火花を散らす(?)ライバル関係であることは間違いありません。
Midomiそしてその後のHoundSoundは、商業ベースQbHの先駆としての歴史を持っていますし、実際にこのテクノロジーに関してはほぼ独占状態にあると言っても過言ではありません。なによりも口ずさんだり鼻歌程度でも曲が検索できるというのが、娯楽性も高く、人気の理由であるとも言えます。
これに対してShazamは最新鋭・最先端のアコースティック・フィンガープリント・テクノロジーを駆使しているという点で、このテクノロジーのトップを切っているとも言えますし、ラジオや街中の音楽など、より生活に根ざした音楽との共存と発展性を可能にしていることで、一つのライフ・スタイルやサブ・カルチャーまでを生み出すポテンシャルをも有していると言えます。

前者がハミングや歌唱、後者が楽曲のプレイバックを検索ソースとしていますから、結果的には対象やニーズも変わってくると思いますが、両者の比較・攻防、そして人気・評価は当事者はもちろんのこと、業界内でも大きく注目されていると言えます。
実際に、様々なメディアにおけるランキングにおいては、この二社は絶えず競い合っていますし、2013年のデータでは、HoundSoundが1億7千万人、Shazamaが2億5千万人というユーザー数を公表しています。
また、今年に入ってHoundSoundは韓国系自動車メーカーのヒュンダイとキアと提携して、音楽検索システムを同社の車に搭載し始め、また今年のグラミー賞では同イベントとリンクしたサービスも展開し、体外的にはかなり活発なマーケッティングを行っているようです。
一方のShazamは、2011年には以前このニュースレターでもご紹介したSpotifyとのパートナーシップを発表したことも話題を呼びましたし、フェイスブックやトゥイッターといったSNS(ソーシャル・ネットワーキング・サービス)展開にも非常に積極的です。
テクノロジーではShazam、マーケッティングではHoundSoundの方に軍配が上がるという感もありますが、Shazamの方もHoundSoundほど一般的に目立ってはいませんが、エイズ撲滅の寄付のために有料アプリをスタートさせたり、膨大な人口と音楽マーケットを有し、今後のポテンシャルが注目されるインドでのサービス(インドのオンライン音楽ストリーミング・サービスとの提携)をスタートさせたりと、独自の興味深い視点やコンセプトを持ちながら、サービスを展開させています。

Shazamは、コンテンツ的にはどちらかというとHoundSoundよりもシンプルではありますが、検索した楽曲を購入したり、仲間とシェアしたりしやすいような様々なリンクや情報を加えたタグが魅力で(それはイコール、iTunes StoreやSpotify、Rdioといったオンライン音楽サービスなどのスポンサー・サイドにとっても非常に魅力であるわけです)、常に最新の音楽リリースを提供していくニュースやヒット・リストを紹介し、GPSと組み合わせて各地域ごとに最新の人気音楽動向が探れる情報など、常にローカル性を重視しながら最新のポピュラー・ミュージックを探っていこうという姿勢が、結果的にHoundSoundを上回るユーザー数を獲得していると言えるかもしれません。

そんなShazamはつい先日、昨年度は日本円にして約3億4千万円ほどの損失を出し、前年度比42%の収益にまで落ち込んだとのニュースが公表されました。日本円にして約55億円ほどの収益があるといわれるShazamですが、状況はそれほど楽観的ではないようです。それでも、その後立て続けに出資があり、個人投資家が約20億円、メキシコの億万長者が40億円の出資を行ったというニュースが入っていますので、今後の動向が益々気になるところでもあります。

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