【I Love NY】月刊紐育音楽通信 May
(ここではSTEPのNYスタッフから届く、現地の最新音楽情報の一部をご紹介しています!)
「月刊紐育音楽通信 May 2015」
地震のニュースを聞くたびに、自分がニューヨークに住んでいることが
申し訳なく思えてくることがあります。
ご存知のように、ニューヨークというのは地震の無い都市と言われています。
“無い”というのはちょっと語弊があると思いますが、この都市は岩盤の上にできている
ので、地震の影響をほとんど受けないとも言われています。
実際に私自身、70年代後半以降に体感できる地震があったと記憶しているのは2009年2月のマグニチュード3(日本で言えば微震から弱震の間くらいでしょうか)だけですが、
実はこの時は結構大変な騒ぎがあちこちで起きました。
その時私は車を運転していたので、後から「そういえば何か変な揺れだったような…」
という程度だったのですが、高層階にいる人達はかなりパニックしたようですし、実際にタイムズ・スクエアなどでも人々がビルから飛び出してくる光景に出くわしました。
なにしろ地震というものを経験したことの無い人達がほとんどですので、“地面が揺れる”などということに対する心の準備がありません。
“揺れ”に恐怖を感じた人の多くは、「テロがまた起きたのでは?」と思ったというのは何ともニューヨークらしいとも言えますが、我々日本人が思う以上に彼等の動揺はかなりのものであったと言えるでしょう。
とにかく、ニューヨークは地震が無いというのは正しくはなく、実際に1737年1787年、
1884年にはマグニチュード5以上の地震が起きているそうです。
その後、ニューヨークは高層化していったわけですが、
“耐震設計”などという発想が全く無いので、万が一マグニチュード5以上の地震が起きたら、街はあっと言う間に壊滅するでしょう。
しかし、考えても見れば、マグマを抱える星であるこの地球上で、“地震が無い”など
ということはあり得ないことだとも言えますね。
ニューヨークの話はともかく、ネパールの人達の苦難を思い、救済と復興を祈り、
私もささやかな寄付運動に取り組み始めているところです。
トピック:消えゆくFM、次世代のDABについて
“北欧のノルウェー政府当局は26日までに、今後2年内にFMラジオの放送を完全に停
止する計画を発表した。
実現すれば、世界の国家で初の試みとなる。
FMラジオに代え、デジタル・オーディオ放送(DAB)への完全移行を進める。
同国の総人口は約500万人だが、トーリル・ビドバイ文化相によると、国民の約半数が
既にデジタル放送を聴取しているという。
デジタル放送は音質が一段と良く、新たな機能の開拓も見込めるとしている。関係
当局はFMラジオと比べて約2500万米ドル(約30億円)の経費節約も可能で、それだけ新
たな技術革新も期待出来るとしている。
FMラジオの放送局は現在5つだが、デジタル・オーディオの放送局の数は4倍の水準
となっている。
デジタル・オーディオ放送への切り替えは2017年1月から地方ごとに実施し、同
年12月に完全終了する見通し。”(CNNニュースより)
いよいよ、こういう時代になったのだなァ、という感じですね…。FM放送のエア・チェッ
ク世代の私としては、何とも感慨深いものがあります。
70年代当時、音楽鑑賞メディアの主流はアナログ・レコードであったわけですが、
親からもらえる限られた小遣いのみでは、レコード(特にLP)というのは頻繁に買える
ものではありませんでした。
そこで当時、音楽コピー・メディアの主流であったカセットを使い、FM放送の音楽
番組をチェックしては、カセットに録音コピーしたものですが、これは当時全国的に
かなり流行っていたことでもありました。
当時は、「FMファン」や「FMレコパル」といったFM音楽雑誌も人気で、そうした雑
誌を買っては番組をチェックしたり、新譜などの情報もゲットしていたわけです。
更に、マニアの場合はカセットに直接録音コピーするのではなく、オープン・リー
ルのテープ・レコーダー(俗に言う「6ミリ」や「1/4(シブイチ)」)を使って番組を丸
ごと録音し、編集してカセットにダビングする方法も取っていました。
私は幸いにも母親がバレエ教師で、当時舞台での録音物再生には必ずオープン・リー
ルが使用されていたため、自宅にはプロ用のオープン・リールがあり、当時同居して
いた叔父からその使い方を教わって、子供ながらにオープン・リールでのFMエア・チェッ
クを楽しんでいました。
さすがに今では、日本の実家にあったオープン・リールは無くなりましたが、当時FMで
オンエアされ、オープン・リールで録音してダビングしたカセット・テープ(当時の有名
アーティストの来日公演など)はまだ何本か手元にあります。
オープン・リールと言えば、古い話ついでにもう一つ思い出話をしますと、当時人気の
あったテレビ番組「スパイ大作戦」の冒頭で、主人公のリーダーが毎回任務の依頼を受ける場面で、小型のオープン・リールが使われていました。
録音されたテープは「おはようフェルプスくん」で始まり、「尚、 このテープは
自動的に消滅する」で終わり、テープ・レコーダーが煙を上げて焼却されるわけで
す(笑)。
ちなみに「スパイ大作戦」と言えばトム・クルーズの映画しかご存じない方も多い
かもしれませんが、オリジナルのテレビ版で育った私には、あの映画は全く別物と言
えました。
今回のテーマはオープン・リールではないので、話をFMに戻します(笑)。
まず、FMは周波数変調(Frequency Modulation)の略で、
振幅変調(Amplitude Modulation)による中波を使用したAMに対し、
FMは超短波(30MHz超)を使用した放送というわけです。
70年代当時、音楽プログラムを放送するFM局は日本には2つしかありませんでした。
つまりNHKと民放(FM東京)です。
周波数は前者が(東京では)82.5、後者は80.0ですが、
私は高校生の時にアメリカに渡って、87.5から108.0までというアメリカのFM局の
周波数の広さ、そして局の多さに驚愕したものです。
当時私は、アメリカは戦勝国で日本は敗戦国だからFM局の数が違うんだ、と思って
ましたが(爆笑)、これにはきちんとした理由がありました。
それは、日本ではFM放送の実験段階から90.0MHz以上はテレビ放送に割り当てられていたこと、また、
ある周波数は軍用の航空無線に割り当てられていたことなどが挙げられます。
FM放送は超短波を使用しますが、70年代当時、“超”の付かない短波放送(Shortwave
Radio)というものも非常に人気がありました。この短波放送は、3MHzから30MHzまでの
周波数を使用した放送というわけで、BCL(Broadcasting Listening)とか、
SWL(Shortwave Listening)などとも呼んでいます。
短波放送の楽しさは、世界中から飛んでくる電波をキャッチしてワールドワイドな
コネクションを持つという、インターネットの先駆けみたいなものであったとも言えます。
また、電波を受信して、その報告を放送局に送ると、放送局からベリカード(Verification Card)なる証明書をもらえる、というのもマニアックな楽しみでもありました。
私自身は子供の頃から英語が大好きだったので、とにかくこの短波放送を
利用してVOA(ボイス・オブ・アメリカ)やBBC(英国放送協会)といった英語放送をキャッチしては英語を勉強したものでした。
また、海外の日本語放送に思わず出くわして、
その内容から海外事情を知るなどというのも意外な楽しみであったのです。
また話が脱線してしまいましたが(笑)、この短波というのは大気上層部の電離
層において反射するという特性を持つため、それによって世界中の放送を受信することが可能になるなわけです。
13または14種類に割り当てられた周波数帯(バンド)の中でも特に25MB(メーターバンド。メガバイトではありませんよ!)の波長では前述のVOAやBBCなどの国際放送が受信できました。
ところが、一方のFMは周波数の特性から電波の到達範囲が狭く、受信は一部の地域
に限られてしまいます。よって、例えば長時間ドライヴしていますと、受信してい
るFM局の電波が悪くなってきますが、アメリカではこれが逆に面白さにもなります。
つまり、長時間ドライヴしていますと、受信できるFM局がどんどんと切り替わってい
くので、ローカル色というのも様々に味わえるわけです。
アメリカの場合、どこの地方でもFM局は大体周波数によってジャンルが共通してい
るケースが多く、例えば100MHz辺りはスムーズ・ジャズ系、105MHz辺りはクラシック
系、107MHz辺りはR&B系といったような棲み分けも多いのがおもしろいところです。た
だし、ローカル色と言ってもアメリカの場合は田舎に行くに連れてジャンルのバリエー
ションが無くなっていき、最後はほとんどカントリー一色となってしまいがちなので
すが(笑)。
そう言っても、もうこれらは古い世代の話です。
やはり現代においては、受信可能範囲が広いことは受信可能者数が多いことになり、
リスナー数・売り上げ面といった経済性においても大変重要となります。
更にDABですと、受信エリアから外れた場合に自動的に補正されるところも優れたと
ころです。
おまけに、送信コストもFMラジオの約8分の1というのも非常に経済的であると言えます。
さて、このDABというのはデジタル変調によるデジタル・ラジオ放送規格の一つなわ
けですが、実は日本とアメリカでは採用されていません。元々、EUのために開発された規格で、イギリスから始まっており、現在実用化されて放送されているのは、イギリス、フランス、スペイン、ポルトガル、ベルギー、スイス、デンマーク、ノルウェー、フィンランド、スウェーデン、ギリシャ、カナダ。
試験的に放送されているのは、
イタリア、オーストリア、ポーランド、オーストラリアということです。
よって、日本とアメリカはそれぞれに独自の道を歩んでいるわけですが、日本で
はISDB(Integrated Services Digital Broadcasting)と呼ばれる方式を採用し、VHF帯、
UHF帯、衛星、ケーブルテレビを通じて放送を配信しています。
これに対してアメリカでは、IBOC(In-Band On-Channel)という規格を使用し、アナ
ログ放送の同周波数帯と同じ内容のデジタル放送を送信する方式を採用して、全米の
ほとんどのFM局で実施しています。
しかし、アメリカに関して言えば、ラジオ放送の潮流は衛星波によるデジタル音声
放送となってきていると言えます。
以前にもご紹介したと思いますが、カーラジオは最近衛星ラジオが基本ですし、店
舗や家庭、そしてスマートフォンでも衛星ラジオの普及はかなり進んできていると言
われています。
しかし、アメリカの衛星ラジオ事情というのは少々いびつと言いますか、いかにも
アメリカ的な独占志向の強いものと言えます。
そもそも、アメリカにおける衛星ラジオは、シリウスとXMという2社が競合していま
した。
先行していたのはXMで、1988年に「American Mobile Satellite Corporation)」と
して設立し、その一部門が「American Mobile Radio Corporation」 として別会社と
して切り離され、その後1999年に「XMサテライト・ラジオ」と名前を変え、2001年9月
に放送を開始しました。
一方のシリウスは、XMより2年遅れの1990年に「Satellite CD Radio, Inc.」として
設立し、
1999年に「シリウス・サテライト・ラジオ」と名前を変え、2002年7月に放送を開始し、
2006年には「シリウス・インターネット・ラジオ」という会員制の有料サービスを開
始しました。
ところが、それがいつしか(実際には2008年)この巨大競合2社は合併し、「シリウ
スXMラジオ」となってしまったのです。
独占を許さず、自由競争が基本というのがアメリカの建前ですが、実際にはどの分
野どの業界を見ても、アメリカほど独占の強い国は無いということも言えます。
このシリウスとXMの合併も、当時はかなりのインパクトがあり、いろいろと批判も
浴びていましたが、巨大マネーの動きは誰にも止められないというのは、資本主義の
一面または宿命でもあります。
さらに、この合併の裏には“衛星”という、もっと大きな独占が存在します。
現在、「シリウスXM」の衛星は3機が運用中であると言われていますが、実際には停
止中のバックアップ用を含めれば、全部で5機の衛星が飛んでいると言われています。
この5機全てを製造して飛ばしているのが、空の世界をほぼ独占しているボーイング社
です。
アメリカの衛星ラジオ放送は、現在約150チャンネルで放送され、会員数は約2,500
万人と言われています。
膨大な数のバラエティ豊かなプログラム(番組)が存在し、今やFMと比較すると内容
的にはどれもかなり魅力的であると言えます。
しかし、プラットフォームもコンテンツも、ある意味で独占状況の中で出来上がっ
ているというのも事実です。
それに比べると、今回のヨーロッパのDABは”健全”で、今後音楽ムーヴメントとも密
接に関わってくる可能性も大きいように思えます。
現状、この分野においては、日本は少々遅れを取っているようにも見えますが、今
後のDAB戦略・展開によっては、日本の音楽ムーヴメントを活性化させる潜在的な可能
性・発展性が充分潜んでいるようにも感じます。