【I Love NY】01.若いパンク世代を狙うブロードウェイ02.

(ここではSTEPのNYスタッフから届く、現地の最新音楽情報の一部をご紹介しています!)

01:若いパンク世代を狙うブロードウェイ
ここ数年はイギリスからの輸入物やリバイバル物、そしてディズニー物やセレブなアクター&アクトレスを起用したスペシャル・プログラムばかりであったニューヨークのブロードウェイですが、先日4月20日からセント・ジェームズ・シアターで、なんとパンク系ロック・バンドのグリーン・デイを題材にした「アメリカン・イディオット」という作品がスタートしました。


ご存知のように、「アメリカン・イディオット」は同バンドが2004年に発表して大ヒットしたアルバム。翌年にはグラミー賞のロック部門最優秀を受賞し、翌々年には同賞の最高峰である最優秀レコード賞を受賞しました。
グリーンデイとミュージカルというのは何とも不思議な組み合わせと思う方もいらっしゃるでしょうが、そもそも「アメリカン・イディオット」というアルバムは、“パンク・オペラ”とも呼ばれるストーリー仕立てのコンセプト・アルバムで、テーマもずばり“反戦(特にイラク戦争に対する)”でした。ですから、同作品のミュージカル化は当然の結果というか、ミュージカル化されるべきというか、出るべくして出てきた、とも言えると思います。

同アルバムには二つの組曲もあり、自分の夢を実現しようと故郷を後にした主人公が自分自身の相反する二つの人格の狭間で葛藤する、というストーリーは、まさに舞台にうってつけで、現代のロック・オペラとしては最高傑作ともいえる出来であると評判も高く、早くも今年のトニー賞での最多ノミネートの呼び声も高まっています。
今回のミュージカル版は、まずトライアルとして昨年の9月から約二ヵ月半、カリフォルニア州バークリーの劇場で限定公開されていました。
なんでもディレクターのマイケル・メイヤーは、「アメリカン・イディオット」の主人公を、「ウエストサイド物語」のリフや「屋根の上のバイオリン弾き」の
テヴィエと同等の魅力溢れるキャラクターとしてとらえているそうです。実際にグリーンデイのリーダー、ビリー・ジョー・アームストロングが中心となって作り上げたこのキャラクターと曲構成は、アルバムの段階から実に見事な出来であったため、今回のミュージカル版は、単なる人気ロックバンドを題材にしたミュージカルとは一味も二味も異なる作品に仕上がっているようです。

もともとポップなパンク・ロック・サウンドが売りのグリーンデイは、幅広い若者層から圧倒的な人気を集めてきましたが、その一方でセックス・ピストルズやクラッシュ、ラモーンズなどのオリジナル・パンク世代には“パンク精神に欠ける”とあまり好意的には受け入れられませんでした。しかし、特にリーダーのビリー・ジョーのパンクとポップのバランス感覚というのは、誰にもなし得なかった見事で優れたものと言えますし、彼等の最高傑作の一つである「アメリカン・イディオット」がミュージカル化されて再び新たな旋風を巻き起こすのは必至であると言えます。

何はともあれ、最近のブロードウェイが音楽系作品で元気になってきたのは嬉しいことです。以前にもご紹介したアフロ・ビートの元祖フェラ・クティを題材にした「フェラ!」、ボン・ジョビのデヴィッド・ブライアンが音楽を担当している「メンフィス」、エルヴィス・プレスリー、ジョニー・キャッシュ、ジェリー・リー・ルイス、カール・パーキンスという世紀の大スター4人のたった一度のセッションをミュージカル化した「ミリオン・ダラー・クアルテット」など、最近のニューヨークのブロードウェイと今年のトニー賞は、にわかに音楽系作でにぎやかになってきました。

02:カントリー界のモンスター・デュオが解散
クリスチャン・ミュージックとカントリー・ミュージックは、日本からは今ひとつ見えにくく捉えにくいアメリカの巨大な音楽産業であると言えます。私自身は普段、前者の中のゴスペルという分野で演奏しているので、機会があったら様々な意味で黒人音楽の基盤と言えるその機構についてもご紹介したいと思っていますが、今回は、これまた巨大な機構と市場を持つカントリー界の話題を一つご紹介したいと思います。

カントリーにご興味がある方ならば既にご存知でしょうが、今年、長いカントリー
界の歴史において最大のヒットを飛ばし続けてきたブルックス&ダンという“モンスター”デュオが4月23日から最後のツアーを開始しており、8月10日に解散することになりました。このブルックス&ダンは、これまでのアルバム・セールスは三千万枚以上、ナンバー1ヒットは23曲。アワードの受賞は80以上という、デュオとしてはアメリカ音楽市場トップのグループでした。
彼等の凄いところは、そういった単なる数字や記録だけでなく、その絶大な“影響力”であるとも言えました。デュオの片割れブルックスは、「アメリカン・カントリー・カウントダウン」という全米ネットのラジオ番組のホストを務めていて、その知名度は絶大でした。また、彼等は2002年ソルト・レイク・シティでの冬季オリンピック開会式で演奏したり、2005年のローリング・ストーンズの全米ツアーではオープニング・アクトを務めるなど、カントリー以外でも大きな支持を得ていました。

政治的にはやはり共和党支持で(カントリー系の民主党支持者というのは非常に少ないと言えます)、ブッシュ前大統領の就任式で演奏した他、ブッシュの2000年と2004年の大統領選のキャンペーン時には、彼等の曲が公式のキャンペーン・ソングとして採用されました。実はこれは共和党だけに限ったことではなく、2004年の大統領選でブッシュに敗れた民主党のジョン・ケリー候補も選挙前の民主党大会で彼等の曲を使用していましたし、現オバマ大統領でさえも、バイデン副大統領指名発表の式場で彼等の曲を使用していました。更に、彼等はイラク戦争の兵士慰問のため、イラクにまで出かけて演奏していますし、国民的な大スターまたはヒーローとして圧倒的な人気と支持を得ていると言えるわけです。

そんな彼等の最後のツアー「ザ・ラスト・ロデオ」が来る8月10日のナッシュビル公演で幕を閉じますが、別れた彼等はその後もそれぞれの活動でアメリカのカントリー界をリードし続けていくことは間違いないと思われます。

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