【I Love NY】1:夏のフリー・コンサート&フェスティバル・シーズンがいよいよ開幕 2:クラシック界もNY対LA対決?

(ここではSTEPのNYスタッフから届く、現地の最新音楽情報の一部をご紹介しています!)

1:夏のフリー・コンサート&フェスティバル・シーズンがいよいよ開幕
毎年この時期になるとこの話題になりますが、夏のフリー・コンサートやフェスティバルのスケジュールが発表されて、いよいよシーズンの到来となります。
最大規模のセントラル・パークの「サマーステージ」は、今では“シティ・パーク”の「サマーステージ」と拡大され、今年はなんと、マンハッタン、ブロンクス、クイーンズ、ブルックリン、スタテン・アイランドというニューヨーク市の5つの区の合計17箇所で同時多発的(この言葉はあまり良い雰囲気を与えませんが…)に行われます。


今年は「サマーステージ」も25周年を迎えたということで、合計300以上のアーティ
スト達が100以上のパフォーマンスを行うことになっています。「サマーステージ」は毎年エスニック色豊かで、出演アーティストや音楽も実にバラエティに富んでいますが、今年は規模が拡大したこともあって、ローカルなミュージシャン達の出演も増えているようです。「サマーステージ」は基本的にフリー・コンサートが主体ですし、市の財政が危機的状況の今、規模が拡大したからと言って有名アーティストが増えるわけではありません。
ですが、ローカル・ミュージシャンの演奏の場が増えること自体は良いことと言えますし、ニューヨーカーのほとんどは、大物アーティスト目当てにフリー・コンサートに来るわけではありませんし、自ら目一杯楽しむことに関しては天才的なアメリカ人ですから、今年は例年以上の盛り上がりを見せてくれるはずで
す。

「サマーステージ」に続く夏のフリー・コンサート系フェスティバルと言えば、マ
ンハッタンの湾岸を中心に各地で行われる「リバー・トゥ・リバー・フェスティバル」です。今年はバッテリー・パークやサウス・ストリート・シーポートなど計9箇所で行われ、こちらもバラエティに富んだエスニック色豊かなパフォーマンスを繰り広げてくれるようです。

これに続いて、今年大規模に行われるフリー・フェスティバルが、ハドソン・リバー・パークで行われる「テイク・ミー・トゥ・ザ・リバー・フェスティバル」です。こちらは映画の上映がコンサートとカップリングになっていたり、ダンスやウォーキングなどがあったりで、よりファミリー志向の強いイベントと言えそうです。

もう一つ、これは無料ではありませんが、リンカーン・センターで行われる「ミッ
ドサマー・ナイト・スウィング」という夏の夜の野外ダンス・イベントも人気です。これはスウィング・ジャズ、サルサ、メレンゲ、アフロ・ビート、バングラ、タンゴ、ディスコなど、様々なエスニック・カルチャーを含めたニューヨークのダンス・カルチャーの豊かさを見せ付ける、子供からお年寄りまでのダンス・イベントです。日本のように、ダンス・イベントと言うと若者のためだけではないというところがニューヨークの素晴らしいところでもあります。

フリー系のサマー・フェスティバルはまだまだありますが、ここ最近の傾向として
は、以前のような大企業が冠となって大物アーティストを引っかき集めていたようなイベント&フェスティバルが力を弱めていることではないでしょうか。バブリーな時代に多く見られたような、大物アーティストをネタに企業宣伝と金儲け主義のフェスティバルが少なくなってきたのは大変良いことだと言えますし、サマー・フェスティバルが”市民の手”に戻ってきたという実感もわいてきているとも言えるでしょう。

それにしても、9・11のテロの後もそうでしたが、ニューヨークという街は本当に逆
境に強いと感じます。今のニューヨークの経済と雇用は壊滅的に近いとも言える深刻な状況ですが、それに反比例してイベントやフェスティバルの数や規模は拡大していると言えます。辛い時だからこそ、明るく楽しく助け合って頑張らなくては!本当にいつもこの街からは元気をもらいます。

2:クラシック界もNY対LA対決?
話を少し変えてクラシック界の話題です。新しくニューヨーク・フィルの指揮者&音楽監督に就任した日系アメリカ人アラン・ギルバートに関しては、これまでにも何度かご紹介しました。彼は現在33歳。昨年秋の就任後、一年目となる今年から来年にかけての新シーズンは、魅力溢れるプログラムが目白押しで、今後の活躍・躍進が既に保証されたような勢いがあります。

ところが先日、ギルバートよりもさらに若い29歳でベネズエラ人の天才指揮者がロサンゼルス・フィルハーモニックを引き連れてLAからやってきて、ギルバートへの注目度を浴びやかすかのような話題をさらいました。
彼の名はグスターボ・ドゥダメル。既に日本でも一部で大きな話題になっているか
と思います。サルサ・バンドのミュージシャンであった父の元で育ち、ベネズエラの英才クラシック教育を受け、サイモン・ラトルやクラウディオ・アッバードなどに絶賛されてめきめきと頭角を現してきたクラシック界のニュー・スターです。
なにしろ彼の場合は見た目のインパクトが圧巻。天然パーマのアフロヘアを振り乱して、豪快で熱いエネルギッシュなパフォーマンス(指揮)を行う姿はまるでロック・スターのよう。ニューヨークのメディアでは、ドゥダメルのことを「クラシック界のスティーヴン・タイラー」などと言われたりもしています。

コンサートは5月20日と22日の二日間、リンカーン・センター内のエイブリー・フィッシャー・ホールで行われましたが、この両日ばかりは、ニューヨーク・フィルの本拠地もLA軍団に占拠されたような感じでした。特に圧巻は二日目のプログラム最後のマーラーの交響曲第一番「巨人」。なにしろ、第一回マーラー・コンクールで優勝した彼ですし、そのスタイルはマーラーのエモーショナルなドラマティックさと見事に合っているので、コンサート後のメディアの論評でも大絶賛でした。
ベネズエラと言えば、アメリカでは”独裁者”と呼ばれているチャベス大統領に率いられた”コミュニスト国家”とされ、常にアメリカと緊張・敵対関係にあるわけですが、文化と政治は別というアメリカ人、特にニューヨーカーの寛容なリベラルさがドゥダメルとLAフィルへの熱狂的な歓迎振りに表れているように思いました。

これで、昨年の9月から、ニューヨークとロサンゼルスという東西のライバル都市の
オーケストラに、話題性満点の若手指揮者が就任したことになりますが、これはクラシック界のみならず大変喜ばしい話ですし、両者共に現代作品や他ジャンルとの共演などにも強い関心を持っていることからも、アメリカの音楽界全体にも新たな息吹やムーブメントを与えてくれることは間違いないのではないかと期待できます

記事一覧