【I Love NY】月刊紐育音楽通信 October 2017

既に人生の半分 以上をニューヨークで過ごしている私ですが、
それでも日本で生まれ育った有色人種の移民である私にとって、
アメリカの国旗・国歌に対する理解と意識には、常に複雑な要素や
気持ちがあることは否めません。
 まず、アメリカというのは分権分立する州が集まった合州国であり
(”合衆国”というの誤訳です)、人種的にはネイティヴ・アメリカンを除く全ての
人間が移民または移民の子孫であり、同時に様々な人種・宗教・階層が共存する
国家ですので、そうした多種多様性をアメリカという一つの国家に結集させる上で、
国旗・国歌というのは連合(United)の根幹を成す不可侵で絶対的な象徴である、
というのは重要な点です。
 更に、実はこれはアメリカ人でもよくわかっていない人がいますが、
特にアメリカの国歌というのはその歌詞の内容からもわかるように、
アメリカという国家・国民を守る軍や軍人を称え、また軍や軍人に
敬意を示す意味があります(よって国歌斉唱時は軍人が国旗は運び、
掲げるのが通例です)。
 そのような背景があるため、NFL選手達による国家斉唱時に
膝を付くという行為は決して許されるべきものではない、というのが
一般的な正論と言えます。しかし、何故彼等は膝を付くのか、
何に対してプロテストしているのか、という点をしっかりと理解しなければ、
この問題は平行線のまま批判罵倒合戦に終わってしまいます。
 それは国歌に対 する冒涜やプロテストでもなく、軍に対する不敬でもなく、
それは人種問題に対するプロテスト以外の何物でもないのです。
つまり、この膝を突くという行為を一つのムーヴメントにした立役者である、
元サンフランシスト・フォーティーナイナーズの天才QB、コリン・キャパニック
(彼はまず国歌斉唱中にベンチに座ったまま立ち上がらなかったのですが、
その次に国歌に敬意を示しつつプロテストをする方法として膝を付くという行為を
行いました)の「黒人や有色人種への差別がまかり通る国に敬意は払えない」という
発言にあるように、人種差別を黙認または助長する国家やシステムに対するプロテストが、
この行為の理由・目的であるわけです。
 しかし、トランプは「(膝を付くという行為は)人種の問題ではなく、
国家・国歌に対する敬意の問題だ」と言って全く耳を貸しません。
彼のスローガン「アメリカを再び偉大な国に」のアメリカは
”白いアメリカ”に他ならないとの批判が益々高まる中、70%以上が黒人である
NFL選手達のプロテストは、本当にアメリカを偉大な国にするための
大きな”試金石”と言えるかもしれません。

トピック:ニューヨーク「この秋のベスト・コンサート10選」

 9月が新作アルバムのラッシュであることは先月の本稿でもお伝えしました。
その時は70歳を超える50年代・60年代・70年代の大物アーティスト達について
触れましたが、9〜11月にかけての新作で、いわゆるメイン・ストリームの大物系としては、
ピンク、マイリー・サイラス、シャナイア・トゥエイン、テイラー・スウィフト
といったところが再注目と言われています。
 そうした新作に続くのがコンサート/ツアーであることも、音楽界の変わらぬ
通例であると言えます。先月、新作発表についてご紹介した
大ベテランの大物アーティスト達も次々とツアーに出始めています。

 音楽メディアが次々と変遷し、若者の音楽離れさえ危惧されていた中でも、
ライヴ/コンサートという“興行”は、変わらぬ“売り上げ”を伸ばしています。
ダウンロードやストリーミングによって、音楽メディアの売り上げが
伸び悩んでいった中で、興業こそが今後の音楽界を支える求心力となる、
という論調も音楽関係はもちろん、一般のニュース・メディアにおいても
よく言われてきました。

 実際にそのことは間違いなく、以前本稿でもご紹介した“モンスター”プロモーター企業
「Live Nation」の躍進ぶりは、そのことを証明していると言えます。
 2005年に設立された「Live Nation」 は、レコード契約のような形でアーティストと
興業契約を交わすスタイルがこれまた斬新であったわけですが、アメリカ全土の
人気・名門クラ ブ(ライヴ・ハウス)や有名ホール/シアターを次々と買い取り、
スーパー・ボウルのハーフタイム・ショーや音楽以外の人気イベントの
興業権も手中にしたりと、その経営戦略はかつての“興業”を遙かに超えるものでした。
 なにしろ、2016年の純利が2015年に比べて倍以上というのは尋常ではありませんし、
これも一つのアメリカン・ドリームであると言えます。

 さて、そんなバブリーな興業ですが、サンクス・ギヴィング・デーから
クリスマスにかけてのホリデイ・シーズンに突入する前の11月中頃までにかけて、
今年も注目のライヴ/コンサートが目白押しとなっています。
 ヴェニュー(ホールやクラブ)も、かつての有名・名門ヴェニューが消えていく中で、
ここ数年は新たなヴェニューや改装復活したヴェニューなども次々と登場して
話題になっており、例えば大コンサート・ホールであれば
バークレイズ・センター(18000人収容)、 中規模スペースであればターミナル5(3000収 容)、
中規模ホールであればキングス・シアター(3000人収容)、クラブであれば
ブルックリン・スティール(1800人収容)やブルックリン・ボウル(600人収容)など、
音楽ヴェニューも今や圧倒的にブルックリンの比重が高まっています(ターミナル5はマンハッタン)。

そうした中、先日「この秋のベスト・コンサート10選」がニューヨークの地元紙で
発表されていました。「ベスト」と言うと人気と売り上げという側面重視になるのは仕方なく、
いろいろと異論もあるところです。ですが、それでも注目度という部分もそれなりに
加味されていますので、メジャー中心ではありますが、ニューヨークの音楽ムーヴメントの
動きや傾向を見るには大変興味深いベスト10であると言えますので、
以下に紹介してみたいと思います。

 まず、ベストのトップに君臨するのはエド・シーランです。
このまだ若いイギリスのシンガーがトップに来ることには誰も反論できないと
言えますが、それほど彼の人気は圧倒的です。正直、見た目は全然格好良くないし
(どちらかというと薄汚い?)、音楽的にも圧倒的なパワーを持っているとは
言えませんが、これほどまでの人気を得ている理由の一つには、“クルーナー”と呼ばれる
彼の唱法があると言われています。
 “クルーナー”というのは、“クルーニング唱法をする人” という意味ですが、
このクルーニングというのはささやくように優しく歌う唱法で、1920年代のマイクロフォンの
登場・発展によって生まれ、人気が高まったスタイルと言われています。
具体的にはナット・キング・コールやビング・ クロスビーなどが有名で、
もちろん人気は彼等の見事な歌声があってのものですが、マイクの発展が無ければ、
あの時代にあれほどの全国的人気と市場確保をあり得なかったという面も確かにあります。
 このクルーニングは、その後のロックンロールのブームと、黒人音楽への傾倒によって
メジャーな人気を失っていきましたが(もちろんジャズや一部のポピュラー音楽においては
その後もしっかりと根付いていますが)、それをメジャーなロックやR&Bのレベルにおいて
巧みに取り入れて復活させたのが、シーランの新しさ・注目点であると、
特に批評家達の間ではよく言われています。
 こうした分析はなるほどとは思いますが、日々ニューヨーカーの中でニューヨーカーとして
暮らす私としては、シーランがニューヨーカーに非常に親しまれている部分としては、
実は彼のパーソナリティという面も大きいように感じられます。彼はどちらかというと
物静かな青年ですし、派手な言動もありませんが、例えばアメリカで人気の
バラエティTV番組に出演している際の彼は、言葉は少ないながらも、政治的にも
社会的にもそのスタンス(反トランプ、反ブレグジット)ははっきりとしています。
しかもその態度や姿勢は穏やかでポジティヴである、というところに、多くの
一般的なニューヨーカーは、彼の音楽と共に、そのパーソナリティに対しても
好印象を持っているようです。

 さて、そんなシーランに続くのは、話題の女性アーティスト達です。
今回の10選に選ばれたのは、ケイティ・ペリーとケシャとホールジーの3人ですが、
この秋にコンサートを行わない人気女性アーティストも多数いるわけですので、
この3人が現在の音楽シーンにおける人気女性アーティストのトップ3というわけでは
ありません。しかし、それでもこの3人というのはそれぞれが実に個性的・対象的であり、
しかも全員ニューヨーク生まれでは無いながら、ニューヨークのファンや
メディアからは多大な人気と支持を集めているのは興味深い点です。

 3人 の中で最もメジャーな全国区的存在は、やはりケイティ・ペリーということに
なりますが、彼女は先日の大統領選挙ではヒラリー・クリントンの熱烈なサポーター
またはPR大使としても注目されていましたし、レディ・ガガ、 テイラー・スウィフト
(ペリーとの確執も、しばらく話題になっていました)との白人人気女性シンガー
御三家の中では、今やニューヨーク出身のガガよりも一般的な人気を得ていると
言えるかもしれません。
 正直言えば、この3人の中で最もカリスマ性に欠けるのもペリーと言えますが、
過激すぎるガガよりも、ある意味ニューヨーカーの女の子達には奇抜であっても
安心感があるようですし、可愛くても地方(田舎)的な雰囲気が強くて
ニューヨーカーには敬遠されがちなスウィフトに対して、
ペリーはカリフォルニアのお嬢さんではあっても、都会的な垢抜けた
感覚が支持・共感を得ていると言えます。

 ケシャは以前の“悪徳”レコード会社との訴訟問題が大きな話題となりました。
そうした苦境・困難に打ち勝って、再びシーンに復活してきた彼女へのエールは
ニューヨークでも極めて大きいといえます。
 彼女はロサンゼルス出身ですが、東欧系のシングル・マザーに育てられ、
貧困生活の中でウェイトレスなどで稼ぎながら自分の音楽を追究し続けて成功した
サクセス・ストーリーに対しては、元々ニューヨークでも大きな共感と評価を得ていました。
また、他のアーティスト(ブリットニー・スピーアズなど)に楽曲を提供したり、
他のアーティスト(ケイティ・ペリーなど)のバック・コーラスを務めたりなど、
単なるアイドル/アイコンではない点は誰もが認めていると言えます。
 プライベートでも仲がいいというペリーの奇抜さとは異なる、パンク的で
ダーティなイメージと、音楽的にはカントリーとヒップホップが共存しているような
不思議なスタイルもニューヨーク受けする 大きな魅力の一つであると思います。

 3人の中では最も若く(まだ23歳)、ニューヨーク育ちのホールジーは、
ある意味ペリーやケシャ以上にニューヨークで大きな支持を集める
アーティストであると言えます。
 ホールジーという名前は、彼女が育ったブルックリンにある
地下鉄の駅(ホールジー・ストリート)と本名(アシュリー)との
造語・言葉遊びによるものですが、特にニューヨークでは絶大な人気と
尊敬を集めるアラニス・モリセットとエイミー・ワインハウスの再来を
思わせる部分を持ちつつも、彼女は単にシンガ−・ソングライターのみならず、
エレクトリック・ポップのサウンド・クリエイターでもある点が特徴的です。
 そうした優れたミュージシャンシップも加わって、彼女は今後、ペリーやケシャ、
更にはガガをも超えるようなビッグな存在になっていく可能性を秘めていますし、
今回のブルックリンはバークレーズ・ センターでのヘッドライナーとしての出演は、
地元ということもあって熱狂的な歓迎を受けることは間違いありません。

 シーランに続く男性アーティストは、ご存じブルーノ・マーズと、
イギリス出身でまだ23歳のハリー・スタイルズです。
 マンハッタンのマジソン・スクエア・ガーデン、ブルックリンの
バークレイズ・センター、そして約2年間の改築・改装を終えて今年再オープンした
ロング・アイランドのスポーツ・アリーナ(以前はNBAやNHLチームの本拠地)という
ニューヨークを代表するドーム・スタジアムでの公演を立て続けに行い、
ニューヨークを“制覇”するマーズの躍進ぶりは今更説明する必要も無いかと思います。

 同じイギリス出身ということでエド・シーランとも仲が良く、
テイラー・スウィフトの元彼氏でもあったスタイルズは、イギリスの
オーディション番組「Xファクター」でサイモン・コーウェルに見いだされて
デビューしたボーイズ・グループのワン・ダイレクションのメンバーとして
人気を得たわけですが、去る5月に初のソロ・アルバムを出したばかりで、
9月にはニューヨークの音楽ヴェニューの殿堂とも言える
ラジオ・シティ・ミュージック・ ホールで単独コンサートを行うというのは
何とも驚きであると言えます。

 さて、残る4アーティストも中々強力です。
まずは80年代のロック・シーンを代表するガンズ・アンド・ローゼズ。
昨年アクセルとスラッシュとダフの3人が再び揃って以来快進撃を続けていますが、
今回はマジソン・スクエア・ガーデンでの4日間連続コンサートという、
まるで80年代当時のような勢いでニューヨークにやってきます。

 そして、こちらは90年代のビリー・ジョエルやエルトン・ジョンとも言われた
ベン・フォールズが、ブルックリン(キングス・シアター)で一晩のみ、
ピアノ弾き語りのショーを行います。
 自虐的で屈折した歌詞がユニークなフォールズですが、この人のピアノ・プレイには
実に卓抜したものがあり、最近はフル・オーケストラともツアーを行っていた彼が、
今回はピアノのみでステージに立つということで、ニューヨークでは
大きな注目を集めています。

 フォールズと同じくブルックリンのキングス・シアターの2日前に主演するのが、
地元ニューヨークはロング・アイランド出身のロック・バンド、ブランド・ニューです。
 バンドの結成は2000年 で、年齢的には40歳前後の中堅ロッカー達。
このバンドはエモーショナル・ハードコアとも呼ばれるエモの代表バンドとも
言われますが、オルタナ系やポップ・パンク系の要素も加わった幅広い音楽性には
熱狂的なファンも多く、既に彼等に影響を受けた更に若い世代のバンドも多く
登場してきているほどです。久々にニューヨーク出身の
大メジャー・バンドとなる期待も高まっています。

 そして最後はラッパー/シンガー/MCのT-ペインです。
エイコンやカニエ・ウェストなどとも共演し、グラミー賞も受賞し、
ソングライターとして、またプロデューサーとしても活躍し、既に絶大な人気と
支持を得ている彼ですが、オートチューンの使用で知られる彼が、
最近はアコースティックに傾倒したライヴを繰り広げており、
注目度は更に高まっています。

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