【I Love NY】月刊紐育音楽通信 March 2018
放たれた弾丸は1100発 以上。
いくら憲法において身を守るための武器の所有が認められていると言っても、
こんな大量の射撃が可能な兵器を民間人が所有できるというのはどういうことなのでしょう。
そのラスヴェガスの大量射殺事件から約4ヵ月半 後の今年のバレンタイン・デー。
フロリダの高校で起こった大量射殺事件で使用された武器は、
ラスヴェガスの時に使用されたものの一つであ るAR-15というれっきとした“戦争兵器”であり、
それを所持して虐殺を行っ たのは19歳でしかも精神的に問題のある少年でした。
こんなことが起こる国・許される国が世界において偉大な国家になり得るわけがありません。
しかし、相変わらずほとんどの政治家達は沈黙を守るどころか、“改善”にさえ抵抗しています。
共和党も民 主党も政治家達は皆、自分の地位・保身と票・資金(献金)にばかり目を向け、
この国の子供達の未来を真剣に考えようともしません。しかし、今回はついに子供達自身が動き始めました。
惨劇の起きた高校の生徒達を中心に、今アメリカ全国の高校では銃規制実現のためのムーブメントが起き始めています。
もうこんな状況はたくさんだ。大人達の都合で犠牲になるのは自分たちじゃないか。大人達は銃よりも子供達を愛すべきだと。
果たしてそれを大人たちが支援していくことができるでしょうか…。
そしてアメリカ最大のタブーの一つである「銃」を規制することができでしょうか…。
多少の規制は可能でしょう。しかし、止まることのない射殺 事件を防ぐためには、
アメリカの“銃神話”・“銃宗教”を崩さなければなりませんし、
そのためには、はっきり言えば国民の銃所持の権利を保護している憲法を改正するしか道はありません。
よって、結論としては非常に難しいでしょう。しかし、トランプを始め今の政治家達の時代はもうすぐ終わりますし、
彼らには未来はありません。未来は彼らのためにあるのではなく、未来は若者達のためにあるのです。
その若者達の意識が変り、 改革を求めている。アメリカは益々激動の時代に突入していきそうです。
トピック1:AIに 支配されるチケット販売
先日、ある超大物アーティストのチケット購入を試みました。
チケット発売日当日、既に自分のアカウントのあるチケット・サイトにログインし、
発売開始と同時に購入可能チケットが表示されるという仕組みになっていました。
いよいよ時間は秒読みに入り、緊張感が高まりました。3、2、1、0!となってコンピュータのモニターに表示されたのは、
「申し訳ありませんが、ご希望のチケットはございません」
‥これは一体どうしたことでしょう。発売開始後0.1秒以内にチケット完売?
悔しさというか怒りさえ込み上げてきましたが(笑)、
残念 ながら、これが現在の大物メジャー・アーティストのコンサート・チケット販売状況と言えます。
何故このようなことが起きるのか。
それは以前にも本稿でお 話したこともある「チケット転売」というこれまで不法行為であったことが、
一部の業者には公認され、しかもそのサービスを一般の個人も利用できるようになったということがあります。
言葉は悪いですが、“公認ダフ屋”と言ってもよい業者・業界が勢力を広げ、
しかもプロモーター側との癒着により、チケットを独占するに至っているわけです。
プロモーターと言えば聞えは良いですが、“興行”という言葉に約しますと、
その響きが懐かしい世代には“いかがわしさ”も感じられると思いますが、
実際にアメリカにおいて(またはアメリカこそ) “興行”を牛耳ってきたのはマフィアであるわけです
(この他にも、実は今でもマフィアに仕切られている業界というのはいろいろとあります)
もちろん、大物メジャー・アーティストのコンサート・チケットを買うのが困難であったのは今も昔も変わりませんし、
私も若い頃はどうしても行きたいコンサートのチケットを“非公認ダフ屋”(つまりマフィア系の組織)から購入したこともありました。
しかし、今は闇の部分・影の部分であったことが表面化し、“カタギの”人間や企業・組織(または、“カタギの”人間や企業・組織を装ったマフィア)が大手を振って公然とチケット買占めや転売を行える状況となってしまっていることが、昔とは違う状況と言えます。
更に昔と全く異なるのはテクノロジーです。
最近何かと話題 に上がるAI(アーティフィシャル・インテリジェンス)ですが、
チケット販売業界 でも既にAIの導入は盛んに行われています。
AIと 言うとロボットなどを想像しがちですが、AIは進化したコンピュータ・プログラム またはソフトウェアと言い換えられますので、
別に人間型のロボットが導入されているわけではありません。
つまり、進化したコンピュータ・プログラムによって、発売後0.1秒以内に、
ほぼ全ての販売チケットを一斉に買い占めるシステムが可能になっており、その結果が先日の私の惨敗(?)にもなっているわけです。
私がまだ日本におりました中学生時代は、まだ「チケットぴあ」などもありませんでしたし、
チケット購入はコンサートの行われる会場か、プロモーターのオフィスか、
または東京ではヤマハや山野楽器といった一部のミュージック・ショップに限られていました。
チケットの前売り開始は基本的に週末でしたが時には平日で あることもあったので、
私は時には学校をさぼって、よく早朝や前の晩から徹夜でチケット購入者の列に並んでチケットを購入したものでしたが、
こんな前時代的な話は今や思い出話というよりも笑い話であると思います。
ですが、そういった“体力勝負”的なチケット購入であれば、まだ“勝ち目”もあったわけですが、
今やAIが相手となってしまっては、勝ち目など全く無くなってしまったと言えます。
さらにタチが悪いことに(?)、昔はチケット購入に失敗すれば、それは基本的には断念せざるを得なっかったのが、
現在は転売サイトが山ほどあるため、チケットが買えないということはないわけです。
但し、転売やオークションの場合は料金が通常よりも下がることはありませんから、
言ってみれば懐次第で常に“敗者復活“の機会が与えられていると言えます。
これは“ゲーム”としてはある意味おもしろいという部分もありますし実際に若者を中心に、
このシステムでの転売やオークション・チケットの購入を楽しんでいる層もいるようです。
つまり、転売やオークションの場合値段が上がりすぎると、買い手が敬遠することになります。
しかし売り手はできるだけ高い値段で売りたいわけですから、
最初はかなり高額の値を付けて転売することも多いのですが、 買い手の反応によっては途中で、
または公演日近くにはかなり料金を下げてくることも多いわけです。
この辺のネット上での売り手と買い手との“駆け引き”というのは正に一種のマネー・ゲームですので、これまでのチケット購入には無い“楽しさ”もあるというのは、ある意味で頷ける部分でもあります。
この転売サイトというのは、オフィスも従業員もいらない、ある意味で“ヴァーチャル・ワールド”と言えます。
当初は個人間の転売・オーク ションをメインにしていましたが、チケット自体は転売サイトが管理するのではなく、
最終的には売買される個人間で送受信されるシステムですので、
転売サイト側による支出というのは、コンピュータ・プログラム、つまりAIの 開発費・維持費がメインとなるわけです。
また、今やチケットはすっかりデータ送信によるプリントアウトのペラペラ・チケットとなっていますから
(もちろん、会場のボックスオフィスで購入したチケットは今も昔ながらのハード・コピー・チ ケットではありますが)、
転売サイトはチケットを所有しないどころか、単にデータのやりとりを中継しているというだけなわけです。
扱うチケットがデータとなるわけですから、どこの転売サイトに行っても同じチケットが転売されるという結果になりますし、
そのシステムは言ってみれば“物”としての商品の存在しないオークション・サイトのようなものです。
転売サイトの普及は、実際のコンサートにも大きな影響と言いますか、これまでにはなかったような変化や現象を引き起こしています。
まず、プロモーター・サイドによるチケット完売という公式アナウンスというのは、
チケットが全てファン達に購入されて売り切れたわけではなくなりました。
つまり、チケットが完売したとしても、それは単に転売サイトに買い占められている状態であるわけです。
その結果として、チケット販売サイトではチケットは売り切れているのに、実際にコンサートに行ったら空席が目立った、
という異常な現象も当初はよく起こっていました。最近は関係者への“バラ巻 き”や“叩き売り”などもあって、
チケット売り切れのコンサートに空席が目立つことは少なくなってきましたが、
それでも純粋なファンだけではない観衆が多く混じっていることは、別の異常な現象と言えます。
更に、異常な現象となっているのは、クレジット・カード会社による優先予約システムの導入です。
例えば通常のクレジット・カード所有者のための優先予約システムなどというのは対したアドバンテージもありませんが、
各クレジット・カードのゴ-ルド・カードやプラチナム・カード所有者を対象にした優先予約はかなり優遇・優先されたものと言えます。
今はどこもかしこも“VIP”や“優先・優遇”が決まり文句・売り文句のごとく横行していますが、
これも購買者の“足元”しか見ていない、儲けのみを追求したいびつなビジネス・スタイルであると言えます
(これもキャピタリズムと言えばそれまでですが…)。
高額所得者や企業を対象としたチケット販売戦略は、本当の ファン達にとってはほとんど意味が無く、
金持ちが喜ぶだけならまだしも、企業のエグゼクティヴ達や企業そのものによる“接待”に費やされるケースが圧倒的に増える結果となっているわけです。
以前は野球やフットボールなど、スポーツ観戦チケットにおいてはそうしたスタイルや現象・傾向が多く見られましたし、
特にここ数年、スタジアムなどが改装・改築される際には、
どこもこうした“VIP”や“優先・優遇”指向にしっかりと対応できる観客席の構造を取り入れる傾向にあります。
それが故に、フットボールを筆頭に、バスケットボールやアイス・ホッケー、
そして今では野球すらも庶民が観に行って楽しめるスポーツではなくなってしまっているという現状があるわけです。
そうした流れに続いて、音楽もここ最近は特に大物メジャー・アーティストのコンサートが、
そうした“社交的な”場として利用されており、ヴェニュー(会場)側でもVIP席はもちろんのこと、VIP専用の飲食販売スペースやラウンジ、クラブなどのスペースを取り入れるところが次々と増えています。
VIP席 自体は悪いことではないと思いますし、席にカテゴリーと料金差があるのは当然です。
また、出演アーティストと一緒に写真が撮れる、などと いった熱心なファン向けの特典付き高額VIPチケットは、
それを楽しみにするファンがいるわけですから、それはそれで良いとは思います。しかし、クレジット・カードでの差別化や、
企業向けの優遇販促など、本当に好きなファン達がチケットを買えないような、
ファンを軽視したチケット販売は益々エスカレートしていくことは、結果的にコンサートという娯楽、更には音楽文化をも壊しかねないと危惧されます。