【I LOVE NY】月刊紐育音楽通信 July 2019

(本記事は弊社のニューヨーク支社のSam Kawaより本場の情報をお届けしています)

 Sam Kawa(サム・カワ) 1980年代より自分自身の音楽活動と共に、音楽教則ソフトの企画・制作、音楽アーティストのマネージメント、音楽&映像プロダクションの企画・制作並びにコーディネーション、音楽分野の連載コラムやインタビュー記事の執筆などに携わる。 2008年からはゴスペル教会のチャーチ・ミュージシャン(サックス)/音楽監督も務めると共に、メタル・ベーシストとしても活動中。 最も敬愛する音楽はJ.S.バッハ。ヴィーガンであり動物愛護運動活動家でもある。

 

今年の日本の梅雨は長雨と聞いていますが、ニューヨークは一足お先に本格的な夏到来です…というのも変な話で、これまで梅雨というもののなかったニューヨークは、5月末のメモリアル・デーの後に海開きとなって夏に入っていくのが通常のパターンでした。それがここ数年、5~6月は雨が多く、突発的な豪雨や雷など、天候が安定せず、ずるずると7月になってようやく夏という感じになっています。

 7月4日の独立記念日に大雨とはならなかったのは良かったですが、これから先、天候は更に変わっていくでしょうか、どうなるかはわかりません。

 カリフォルニア南部の地震も心配ですが、アラスカで摂氏30度以上の異常な暑さというのも驚きです。先日はグリーンランドで氷の上を走る犬ぞりが、氷の溶けた海の上を走る画像と、インドでは熱波による死者が100人を超え、このままでは人間が生存できる限界気温を超える、というニュースにも驚愕しましたが、アメリカもどこもかしこも、“前例のない”、“観測史上最高(または初)の”異常な気候ばかりです。

 温暖化による水位の上昇で、マイアミのビーチは沈み(5~15年以内と諸説あり)、それに続いてマンハッタンのダウンタウンも2012年のハリケーン・サンディの時のように海に沈む(15~30年と諸説あり)とも言われておりますが、先日はある科学者が「地球温暖化はこのまま止まることなく進むわけではなく、温暖化による異常気象で地球の地磁気が逆転(ポール・シフト)して氷河期を迎える」という恐ろしい説を述べていました。実はこれはかなり前から言われていた説であり、実際に地球は過去360万年の間に11回も地磁気逆転している(最後の逆転や約77万年前)ということで、そのことを発見した一人は京都大学の教授ですから、日本でも知られている説であると思います(最近の各国の宇宙開発は、実は軍事目的よりも地球脱出・他惑星移住計画がメインであるという説も…?)。

 それにしても、熱波・水没と氷河期とどちらが良いか(ましか)などという恐ろしい二者択一はしたくありませんが、各国が環境問題に対してまじめに取り組み気がない以上、これからの人類をふくめた生物は、更なる暑さ・寒さにももっと強くならなければ生き残れないことは確かのようです。

 

トピック:“ウッドストック”のスピリットを伝えるニューヨーク最大の音楽&キャンピング・イベント「マウンテン・ジャム」

 

 先月お伝えした騒動の後、予定開催地からも拒否されて変更を余儀なくされ、いまだチケットも発売されないゴールデン・アニバーサリーの「ウッドストック50」ですが、実は先日、オリジナル・ウッドストックの開催地であったベセルで行われたニューヨーク最大の音楽&キャンピング・イベントである「マウンテン・ジャム」に行ってきましたので、今回はそちらのイベントについて紹介したいと思います。

 

 このマウンテン・ジャムは、2005年からスタートし、今年で14年目を迎えます。マンハッタンから車で3時間ほどのハンター・マウンテンというニューヨーカーには人気のスキー場があり、ここに特設ステージを作り、キャンピングと音楽フェスティバルで3日間を過ごすということで、多分にウッドストックのコンセプトや伝統が受け継がれているとも言えます(スキー場なので周辺にはホテル施設もあり、キャンピングをしない人たちも大勢います)。

 

 そもそもマウンテン・ジャムは、ウッドストックのラジオ局の25周年イベントとして開催されたのですが、運営組織としても非常によくオーガナイズされ、これまでオールマン・ブラザーズ・バンド、グレイトフル・デッドのメンバー達、トム・ペティ、スティーヴ・ウインウッド、ロバート・プラント、レボン・ヘルム、スティーヴ・ミラー、ザ・ルーツ、メイヴィス・ステイプル、リッチー・ヘイヴンス、プライマスなどといったバラエティ豊かな多岐にわたる大物達が出演してきました。同時にこのフェスティバルの特徴は、地元ミュージシャンや新進・若手ミュージシャンの起用にも積極的である点で、敷地内に大中小3つのステージを設けて演奏を繰り広げ、観客が自由に楽しめるプログラムになっています。

 

 このフェスティバルの最多出演アーティストは、「ガバーメント・ミュール」のウォーレン・ヘインズです。ヘインズは90年からオールマン・ブラザーズ・バンドに参加したことで知られていますが、彼自身のバンドもアメリカでは非常に根強い人気を誇っています。

 実はこのヘインズは、マウンテン・ジャムの看板アーティストであるのみならず、このフェスティバルの共同創始者/オーガナイザー/プロデュ-サーでもあります。

 オールマン・ブラザーズ・バンドのファンの方であればすぐにおわかりでしょうが、実は「マウンテン・ジャム」の名前は、“山でのジャム演奏”に加えて、前述のウォーレン・ヘインズが在籍したオールマン・ブラザーズ・バンドの曲目にも由来しており、その二つを掛け合わせているわけです。

 

 マウンテン・ジャムというと、ヘインズとオールマン・ブラザーズ・バンド、そしてヘインズが長年交流を続けてきたグレイトフル・デッドの元メンバー達の音楽といったジャム・バンド的なカラーまたはイメージが強いとも言え、集まる客層もヒッピー系/アウトドア系が多いと言えますが、それでも上記のようにジャンル的には全く偏っていませんし、ファミリーや他州からやってくる観客も多く、世代を超えた実にピースフルなイベントと言えます。

 ヘインズ自身はノース・キャロライナ州アッシュヴィルの出身ですが、マウンテン・ジャムの前(1998年)から地元でクリスマス・ジャムというミュージック・マラソンを開催しており、組織・運営といったオーガナイザーとしての才能にも長けた珍しいミュージシャンであるとも言えます。

 

 そんなマウンテン・ジャムですが、これまで天候にはあまり恵まれてきたというわけではありませんでした。3日間のフェスティバルで雨が降り続いた年もありましたし、出演者も観客も、マウンテン・ジャムに行くには天候に対してある程度“覚悟”して臨まなければならないという状況でもありました。

 そうした中でマウンテン・ジャムは今年2019年から場所を移して開催することになったのですが、何とその移転先が前回のニュースレターのトピックとしてお話した、オリジナル・ウッドストックの開催場所ベセルとなったのです。

 「オリジナル・ウッドストックの開催場所」と言っても、ベセルは当時とはすっかり変わっています。約3.2キロ平方メートルという広大な敷地内には、「Bethel Woods Center for the Arts」という1万5千人収容の一部屋根付き大野外コンサート・ホールが2006年にオープンし(オープニングを飾るこけら落としは、ニューヨーク・フィルと、クロスビー、スティルス、ナッシュ&ヤングの2本立て)、オリジナル・ウッドストックの歴史を伝えるミュージアムも2008年にオープンしています。

 

 そのため、マウンテン・ジャムのベセル移転開催には賛否両論がわき起こりました。賛成派の意見としては、オリジナル・ウッドストックが開催された“聖地”こそマウンテン・ジャムの開催地にふさわしい、というものが主流で、逆に反対派の意見としては、ベセルの地は既に巨大ホールとミュージアムという“商業施設”や観光地となり、山(マウンテン)の中のスキー場で演奏(ジャム)が行われてきたマウンテン・ジャムにはふさわしくない、ということが多く言われました。

 確かに、マウンテン派と言いますかキャンピング派には現在のベセルはあまりにきれいで人工的で、スキー場でのキャンピング&野外ミュージック・フェスからは離れたイメージとなることはもっともであると言えます。

 ですが、これまで何度もあった悪天候による困難な状況(演奏と鑑賞という点だけでなく、上水・下水の水回りや食料品の管理・販売といった衛生上の問題もありました)から大きく抜け出すことができたのは大きな前進であると言えますし、特に女性や子供にとっては衛生環境的な悩みの種が解消されたことは大切であると思います。また、キャンピング派以外にも足を伸ばしやすい状況となったことは、フェスティバルの今後にとって決して悪いことではないと言えるでしょう、

 

 人工的と言えばその通りですが、一大アート・センター・エリアとなったベセルには、パビリオンと呼ばれる前述の大野外コンサート・ホールとミュージアムの他に、1000人程度収容可能な小さな野外ステージと、ミュージアムの中に450人程度収容可能なイベント・スペースや小劇場などもあり、施設としては大変充実しています。

 更に今回は野外に中規模の特設ステージも作り、これまでと同様、大中小の3ステージにおいてパフォーマンスが行われ、規模としてはこれまでの数倍アップグレードしたと言えます。

 また、各ステージ間の通路にはマーチャンダイズ販売コーナーの他に、このイベントらしい出店、例えば手作りのアクセサリーや楽器、動物愛護運動の広報宣伝、マリファナ関連グッズなどの出店が建ち並び、普通この手のフェスティバルだとバーガーやホットドッグ、フレンチ・フライやチップス程度しかない飲食に関しても、ヴィーガン・カフェ、移動式のブリック・オーブンを持ち込んだ本格的なピッツア、タイ/ベトナム系のアジア料理、オーガニックのジュースやスムージーなど、実にバラエティ豊かなラインナップでした。

 

 それでもハードコアなキャンパー達の中には施設のきれいさと商業的な面に不満を述べる人達もいるようですが、やはりこれだけの会場施設の充実ぶりにはほとんどの来場者が大満足でポジティヴなフィードバックが圧倒的で、セールス的にも好調であったようです。

 実は今回は私の娘のバンドも同イベントに出演していたので娘に招待してもらい、娘のバンドが親しくしているウィリー・ネルソンと息子のルーカス・ネルソンにも紹介してもらうという大きなおまけまでついたのですが、都会の喧噪を離れた大自然と充実した施設を兼ね備える同フェスティバルは、何か心を洗われるような3日間になったとも言えました。

 

 このマウンテン・ジャムは来年も同地ベセルで行われる予定のようですが、ニューヨーク最大の音楽&キャンピング・イベントから、音楽イベントのみとしてもニューヨーク最大のイベントとなり、更に全米最大規模の音楽イベントの一つに成長していくことは間違いないように思われます。 

 マウンテン・ジャム自体には政治色はありませんが、それでもヒッピー思想やピース&ラブのコンセプトを継承し、ウッドストックとも繋がる部分の多いフェスティバルですので(出演アーティストの多くが、オリジナル・ウッドストックで演奏された曲のカバーも取り上げていたのが印象的でしたし、観客も一層の声援を送っていました)、会場に集まった観客・参加者の中には現状に対してかなりアグレッシヴで力強いメッセージとプロテストを表明している人達も多く見られました。

 中でも面白かったのは、トランプの掲げる「Make America Great Again」(アメリカを再び偉大な国に)というスローガンを逆手に取って、「Make America Not Embarrassing Again」(アメリカを再び恥ずかしくない国に)というTシャツや帽子を付けたり、キャンピング・カーに掲げているのを良く目にしたことです。

 観客もオリジナル・ウッドストック世代のおじいちゃん・おばあちゃんから小さな子供まで。3世代で音楽フェスを楽しんでいる姿は実に微笑ましいと言えましたし、これこそがアメリカの“グレート”なところであると改めて感じました。

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