【I LOVE NY】月刊紐育音楽通信 December 2019

(本記事は弊社のニューヨーク支社のSam Kawaより本場の情報をお届けしています)

 Sam Kawa(サム・カワ) 1980年代より自分自身の音楽活動と共に、音楽教則ソフトの企画・制作、音楽アーティストのマネージメント、音楽&映像プロダクションの企画・制作並びにコーディネーション、音楽分野の連載コラムやインタビュー記事の執筆などに携わる。 2008年からはゴスペル教会のチャーチ・ミュージシャン(サックス)/音楽監督も務めると共に、メタル・ベーシストとしても活動中。 最も敬愛する音楽はJ.S.バッハ。ヴィーガンであり動物愛護運動活動家でもある   



 アメリカはホリデイ・シーズンを迎え、各地でコンサートや音楽イベントが盛大に繰り広げられていますが、この時期ニューヨークを代表する音楽系のショー/イベントとしては、やはりラジオ・シティ・ミュージック・ホールの「クリスマス・スペクタキュラー」(特に女性ダンサー「ロケッツ」によるラインダンス)とロックフェラー・センターの巨大クリスマス・ツリーの点灯式というのが観光客向けの2大イベントと言えるでしょう。

 ですが正直言いますと、私の周りのニューヨーカー達(アメリカ人)で、これらのイベントを観に行ったという人はほとんど皆無です(笑)。強いて言えば、子供の頃に連れて行ってもらった記憶がある、という程度で、特に音楽業界の人間で上記のショー/イベントに出向くというのは仕事目的のみと言っても過言ではありません。

 特にロックフェラー・センターのクリスマス・ツリー点灯式は零下の夜の野外イベントですから、集まるのはやはり観光客ばかりということになってきます。また、このイベントは出演者側にとっても厳しいパフォーマンス環境となるのは当然で、今年出演のジョン・レジェンドを始め、生のスタジオ・ライヴを巨大スクリーンに映し出すという方法を取るパターンが増えてきているようです。

 実は笑い話としてアーティスト/ミュージシャン内では話されることもあるのですが、アーティスト/ミュージシャンにとってアメリカにおける2大“拷問”音楽イベントと言えるのは、このロックフェラー・センターのクリスマス・ツリー点灯式でのパフォーマンスと、4年に一回、1月にワシントンDCのUSキャピトル(連邦議会議事堂)の前(野外)で行われる大統領就任式典におけるパフォーマンスであるという話があります。これは本当にその通りであると思いますし、極寒の中でのパフォーマンスというのは、パフォーマーにとっても、楽器(声も含め)にとっても実に過酷なものと言わざるを得ません。

 2009年、オバマ前大統領の1期目就任式典に出演したヨーヨー・マやイツァーク・パールマン達や、2013年の2期目の就任式典に出演したビヨンセが、リップシンクによるパフォーマンスを披露して、随分とメディアに叩かれましたが、パフォーマンスを行う側から言えば、彼等が取った方法はベストとは言えなくても、責めることはできません(その一方で、1期目就任式典において“生”で熱唱したアレサ・フランクリンには頭が下がる思いです)。

 そんなわけで聴き手の側でも、これらのイベントにおけるパフォーマンスは余程の理由(パフォーマーの支持者・大ファンなど)が無い限り、地元の人間にとってはテレビ観戦するのが一番と言われるのも頷けますが、そうは言ってもパフォーマンスはやはり“生”に接するのが一番であることは間違いありません。私自身、今年のホリデイ・シーズンも可能な限り足を運んで、“生”のパフォーマンスを楽しむようにしていますが、先日のサンクスギヴィング(感謝祭)の連休では、ヘヴィ・メタルのクラブでクラウド・サーフィンやモッシングも楽しんできました。ですが、大汗をかいてクラブを出た時の寒さはさすがに身に堪えました。冬のライヴはパフォーマンスだけでなく、パフォーマンスの後も考えなければいけないと、いい歳をして思い知らされた次第でした。

 

トピック:チケット販売の大変革(取り締まり)は実現するか

 アメリカにおける興行ビジネス、特にチケット販売ビジネスの問題については、これまで何度かご紹介してきました。これまで不法・違法とされてきたチケット転売というものが、ある一定の範囲内ではあっても適法・正当なものとなり、金さえ出せば買えないチケットはない、逆に言えば、転売業者による独占で正規チケットが中々手に入らない、という事態を招いていることは、今や誰もが認める状況であると言えます。

 そうした中で先日、アメリカの下院議会の一組織であるエネルギー・商業委員会が、Live Nation、AEG、StubHub、Vivid Seats、TicketNetwork、Tickets.comといったアメリカのコンサート・ライブ/イベント発券業界に対して新たな調査開始を通告しました。その理由は、同委員会が“現状における一次及び二次チケット市場で発生する可能性のある不公正な行為について懸念している”というもので、同委員会はそうしたチケット市場を牛耳っているとも言える上記の企業に対して、懸念事項に関する文書や情報・資料の提出、そして説明会などを要求することになったというわけです。

 今回の動きの目的はもちろん、イベント・チケット販売市場において消費者を保護するためのものですが、その伏線として、コンピュータ・ソフトウェアを使用してチケットを購入することを禁止した「オンライン・チケット販売改善法」というものがあります。これは原語(英語)では「Better On-line Ticket Sales Act of 2016」というもので、通称「ボッツ・アクト(BOTS Act)」と呼ばれており、約3年前の2016年12月に当時のオバマ大統領によって調印されて発動されました。これは、簡単に言うと「チケット・ボット(BOT)」と呼ばれるテクノロジーを使って、個人や組織がチケットをまとめて購入・転売することを阻止・禁止するための法案で、正規チケット発券・販売サイトのためのセキュリティ対策とも言えました。

 具体的に言いますと、チケット・ボットとは、Ticketmasterなどのチケット・ベンダーが販売する正規チケットを自動検索・購入できるソフトウェア・プログラムです。チケット・ブローカーと呼ばれる転売(業)者&組織は、このチケット・ボットを利用すると、自動的に且つ瞬時にチケット検索と購入が可能になり、同時に数百や数千もの取引(購入)が実行できるわけです。つまり、人間が手動で行う何百・何千倍も早く、超高速で瞬時に膨大な数のチケットを一括検索・購入でき、しかも通常はパスワードなどのセキュリティ機能があるものをもスルーできてしまうという、中々優れものでありながらも恐ろしいソフトなわけです。

 但し、問題はこのチケット・ボットを使って転売を行う個人や組織のみというわけでなく、そこにはチケット・ボットを利用した転売行為が生まれてきた背景というものもあります。

 上記の「ボッツ・アクト」と呼ばれる法案が通過する少し前のことでしたが、ニューヨークの司法長官がチケット販売の現状を調査した際に、市場で販売されるチケットの内、一般の人が購入可能となっているのは全体の46%のチケットのみで、残る54%が内部の者や会員、また特別のクレジット・カードなどをもった優遇者達の手に渡っているという驚くべき結果が発表されました。要するに、一般人が購入できるチケットというのは、全体のチケット販売数の半数にも満たないというわけで、この一般への供給量の半減(以上)という状況が、転売・再販チケットの高額化という結果をもたらしたとも言えるわけです。

 そのため、正規料金の1.5倍などというのは良い方で、2倍、3倍から10倍も高くなる状況が出てきてしまったわけですが、そうした事態の中で、転売・再販業者が、圧倒的な供給量の低さに対する需要の高さにフォーカスし、チケット・ボットというソフトを使って、できるだけ多くのチケットを即座に購入するという事態が生まれたと言われています。

 購買者から見れば、チケット・ボットを使った転売・再販チケットは、それまでのいわゆる“ダフ屋”による超高額な転売・再販チケットよりは圧倒的に安いわけですから歓迎すべきものとも言えるのですが、やはりこれは不正・不法行為であることには変わりなく、正規のチケット販売業者にとっては大きな打撃となったとされています。

 一例を挙げますと、現在もブロードウェイで一番人気の「ハミルトン」というミュージカルがあります。これは、アメリカ建国の父の一人であるアレクサンダー・ハミルトンの生涯をヒップホップの音楽で綴ったミュージカル作品で、ハミルトンを含めた歴史上の白人達を有色人種が演じるという、異色・斬新とも言える解釈と演出を施した、ブロードウェイのミュージカル史上に輝く最高傑作の一つとも言われています。興業成績もダントツに素晴らしく、批評家達の評価も絶大で、2016年にはトニー賞史上最多のノミネート記録を達成して、結局11部門も受賞した他、グラミー賞でもミュージカル・シアター・アルバム賞を受賞しました。

 そんな評価・評判もあって、このミュージカルはとにかくチケットが取れないことで有名で、しばらくの間、通常$200前後のチケットが$1000も$2000もするという、異常な事態となっていました。

 そうした中で、プレステージ社というイベント・コーディネーション会社が、アメリカ最大のチケット業者と言えるTicketmasterが販売するハミルトンのチケットの約40%をチケット・ボットを使用して買い占めて転売・再販したということで、Ticketmasterがプレステージ社に対して訴訟を起こしました。

 つまりこれは、「ボッツ・アクト」で定められたオンライン・チケット販売法に違反した行為とみなされ、そうした違反行為を受けた者は訴訟を行う権利が「ボッツ・アクト」によって国(合州国連邦)レベルで認められ、例えば違法行為を受けたチケット業者が複数となる場合は、州がチケット業者に変わって集団訴訟を起こす権利も与えられるようになったわけです。

 

 少々話がややこしくなってきましたが、要は現在、チケット・ボットというソフトウェア/テクノロジーを利用した転売・再販チケットというものが大きな問題となって、チケット・ブローカー(転売(業)者&組織)達がやり玉に挙がっているわけですが、その元凶は、正規チケット業者による富裕層や手堅い高収入を狙った特待・優遇措置が現在の問題を引き起こしているとも言えるわけです。

 よって、チケット転売・再販側だけを取り締まればそれで良いのか、という問題が大きく横たわっています。法によって守られてチケットの料と量をコントロールできる正規チケット業者と、違法ではあるが明らかに安価なチケットを購入可能にしている転売・再販チケット業者。どちらを取るかと言われれば、チケット購入者側の心情としては安い方になると思いますが、業界の統制やマーケットの維持、そして利潤の集中(または拡散の防止)を目指す側からすれば、チケット転売・再販というビジネスは、足元をすくわれる危険な存在と言えるわけです。

 実は「ボッツ・アクト」の推進・施行についてはGoogleも深く関わっていると言われています。また先日、オークション・サイトのeBayが、同社のチケット販売部門であるオンライン再販チケット・サイトStubHubを同業ライバル会社とも言えるViagogoに売却するというニュースも、エネルギー・商業委員会による調査開始通告の直後というタイミングでもあったため、中々興味深い(疑惑を呼ぶ?)動きであると言えます。

 昔から国を問わず、アルコール販売と興行というのはマフィアの領域とされてきましたし、今もその構図は表には見えないレベルで残っていると言えます(ニューヨークでは更にタクシー業界というのがマフィアの領域でした。これについては何故ニューヨークではUber(ウーバー)が他州よりも高額なのかという理由・背景の一つにもなっています)。

 現在の再販・転売チケット・システムが出来上がる以前は、私自身もよくイタリアン・マフィアが運営するブローカーからチケットを購入したりしていました。しかし、80年代以降チャイニーズ・マフィアの勢力に押され、更に現在トランプの顧問弁護士として逮捕・監獄行きも噂されるジュリアーニ元ニューヨーク市長が市長時代の90年代末にマフィアを事実上表舞台から一掃したことで、イタリアン・マフィアはビジネス的にも地理的にも益々ニューヨークの外に追いやられていったと言われます。

 しかし、マフィアというのはそもそも裏舞台から表舞台を操作する組織・集団ですから、彼らは場所や形態を変えて生き残り続けていますし、興行収益の大部分を担うチケット販売に関しても、様々な形態を取って関わり続けていると言えます。

 今回は、チケットの正規販売と転売・再販に関する少々複雑な話となりましたが、国の対応がどうあれ、企業の戦略がどうあれ、またマフィアの存在がどうあれ、購買者としては少しでも求めやすい料金で入手しやすいチケット購入が実現することが最重要ですので、それを願いながら、今回の行政レベルの介入と業者の対応を注視してみたいと思っています。

 この法案は、セキュリティ対策、アクセス制御システム、またはチケット発行者がイベントチケットの購入制限を実施するため、またはオンラインの整合性を維持するために使用するチケット販売者の別の制御手段を回避しようとしている当事者を罰するために設計されましたチケット購入注文ルール。誰かが上記の意図に違反してチケットを販売したことが判明した場合、その人は訴追することができます。

 この法律は、連邦取引委員会がBOTS行為の違反が発生したと信じる理由がある場合に行動する権限を与えます。州はまた、複数のチケット所有者に代わって集団訴訟を起こす権利を有します。

 

 BOTS法は米国の法律に署名された立法行為でしたが、オンラインチケット再販市場がチケットの調達を報告する方法にさまざまな変更を加えました。

 主な変更点は次のとおりです。

 Googleは、有料広告プラットフォームを使用するセカンダリチケット再販業者に、プライマリチケット販売者ではないことを開示することを要求しています。 StubHub、Viagogo、Seatwaveなどは、2018年2月現在、これに準拠していました。

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