【I Love NY】「月刊紐育音楽通信 July 2021」

※本記事は弊社のニューヨーク支社のSam Kawaより本場の情報をお届けしています
Sam Kawa(サム・カワ) 1980年代より自分自身の音楽活動と共に、音楽教則ソフトの企画・制作、音楽アーティストのマネージメント、音楽&映像プロダクションの企画・制作並びにコーディネーション、音楽分野の連載コラムやインタビュー記事の執筆などに携わる。 2008年からはゴスペル教会のチャーチ・ミュージシャン(サックス)/音楽監督も務めると共に、メタル・ベーシストとしても活動中。 最も敬愛する音楽はJ.S.バッハ。ヴィーガンであり動物愛護運動活動家でもある。

 

先日、今回のパンデミック以降初めて、ニューヨーク市内で外食をしました。なんと、約1年3ヶ月ぶりの外食です。

 え?そんなに?と驚かれるかもしれませんが、元々自炊が基本の私には、外食というのはビジネス・ミーティングか友人や仕事仲間との会食(主に「飲み会」や音楽イベント前後の飲食など)に限られていましたし、パンデミックによってビジネスもプライベートも長らくリモートが基本となりましたから、アウトドア・ダイニングが可能になったり、店内の規制が少し緩んでも、敢えて外食をしようとは思いませんでした。

 「ニューヨーク市内」と言いましたが、市外のアウト

ドア・ダイニングでは昨年も何度か外食をしました。やはり市内と市外では感染者・死者の数が驚異的に異なりましたし、今回のウイルスによって身の周りで6人の命が失われた自分としては、恐怖感・危機感がトラウマのように残り、密でなかったとしても室内で他人と飲食を共にすることには躊躇がありました。

 先日の久々の会食は長年の仕事仲間とのビジネス・ミーティングでしたが、店内ではなく広々としたパティオ(つまりアウトドア・ダイニング)のあるメキシコ料理店でした。最初に口にしたフローズン・マルガリータの美味しさは、本当に久々の開放感を伴い、そして自分がここまで生き延びてこられたことへの安堵と感謝で一杯で、何とも格別でした。

 そんな喜びの中で、このパンデミックを通して、飲食店の対

 

応も大きく変わったことも改めて実感しました。テーブルの配置や人の距離感ということもありますが、やはり最も印象的であったのは、QRコードを利用してメニューの確認とオンライン・オーダー、そして会計支払いまでを全て自分の携帯で行うという方法です。

 既にパンデミック以前からこうした方法を採用する店もありましたが、印刷または手書きされたメニューを他人と手で触れあって共有する必要が無く、注文も人(ウェイター/ウェイトレス)を介さないという点で、これはウイルス対策にはうってつけであると言えます。

 もちろん料理や飲み物はウェイター/ウェイレスが運んできますし、彼らから「料理の味はどう?」と離れた距離から尋ねられもしますが、彼らとのコミュニケーションは圧倒的に減ります。それを安心と感じるか、寂しいと感じるかは人それぞれですが、この先のウイルスの変異・感染具合と、AIテクノロジーの発展・普及具合によっては、それらが更にエスカレートしていく可能性は非常に高いと言えます。

 注文から支払いまで全て携帯で対応・処理するだけでなく、料理は回転寿司のようなシステムか、AIロボットが運んでくる。こんなSF小説のような光景が現実となる日は、私が生きている間にもやってくるのかもしれません。

 戦後まだ十数年。東京の下町的な商店街で生まれ、商店・出店(でみせ)・屋台に囲まれた人情溢れるコミュニティで育った自分の記憶が、まるで200年くらい昔のことのように思えてしまいました。

 

トピック:アメリカにおけるライヴ音楽“再開”の進み具合を見る

 7月4日の独立記念日には、成人人口の7割のワクチン接種を達成し、“ウイルスからの独立”を目指す、というバイデン大統領の目標は、残念ながら達成することはできませんでした。

 “自由の国”アメリカには、ワクチンを接種しない自由があるだけでなく、政治的・党派的な思惑が絡み、ニューヨークを始めとする限られた州・地域以外ではワクチン接種は完全に停滞状況に陥っています。

 そのため、ワクチン接種よりも変異株ウイルスが

 

拡散・拡大するスピードの方が早まり始めており、このままでは今年の冬には再び感染が爆発的に増えてロックダウンとなる可能性も方々で指摘されています。

 本来はこのような有事においては、大統領が先導し、国と州が個人の自由を超えたレベルで対応・解決に乗り出さなければならないわけですが、トランプによって分断されたアメリカは、ウイルス対策でも完全に分断されてしまっていると言えます。

但し、表面的にはアメリカは全体的に「再オープン」気分になってきていると言えます。ニューヨーク州でもマスク着用の要求は基本的には取り下げられたので、先月もお話したように、ニューヨークも気分的には“コロナはほぼ収束”という感じになってきています。

 そうした中で、遂に大型コンサートは6月後半にフー・ファイターズがマジソン・スクエア・ガーデンで100%集客のショーを敢行してくれましたし、ブロードウェイもまずは「ボス」ことブルース・スプリングスティーンが、パンデミック前に大人気であったソロ・ショーを先陣切って再開し、9月14日からはいよいよ全てのミュージカルが全面再開予定です。

規模は圧倒的に下がりますが、私の娘(ドラマー)も今月半ばからツアー再開とのことですし、各地のローカル音楽シーンも動き始めているのは間違い無いと言えます。

 よって、超メジャーからローカル・レベルに至るまでの再開の動きによって、いよいよ音楽界も”リベンジ・マッチ”という感じになってきましたし、再スタート・新スタートの準備に取りかかっているところではあります。

 ですが、こうした盛り上がり(というか、ある意味では“浮かれ気分”)の裏では、まだまだ悪戦苦闘が続く状況が大きく横たわっていると言えます。

 一般的に、“超メジャーからローカルまで”と言うと、全てが網羅されているように思えますが、決してそうではなく、正確に言えば、“超メジャーとローカル”と言うべきなのかもしれません。つまり、超メジャーとローカルの間が“中抜け”しているとも言える訳です。

超メジャー系アーティストや大型会場が再開できる理由は、まずその収支・予算・資金といった金銭面にあると言えます。

 そのため、音楽もイベントが大型であるほど、ウイルスの感染防止のための安全対策やセキュリティー対応をしっかりと講じることができます。

 つまり、アーティスト側のワクチン接種は当然として、ワクチン接種者のみイベント全スタッフ雇用、人の密度を緩和する会場セッティング、会場内の通気・換気システムの向上・改善、などといった対応・対策が、充分でゆとりのある予算・資金によって可能になるというわけです。

 

また、大型コンサートでは、基本的に観客・入場者はワクチン接種がマストとなり、チケット購入や会場入場の際に確認する方法が取られていますが、それらはしっかりとしたチケット購入決済システムや、入場時の厳しいセキュリティ対応によって可能になっていると言えます。

 基本的にワクチン接種は各州が行っていますので、簡単なものであってもワクチン接種後は証明となるカードやデータが存在します。

 よって、観客側もそれらを提示・証明することは可能なわけですし、購入決済システムやセキュリティの強化によって、カードやデータの偽造・不正にも対応できます。

 更に、ワクチンをまだ接種していない人・接種したくない人に対しては、隔離したエリア/スペースを設けることによって入場を可能にすることもできます。

 したがって現在、そして今後しばらくの大型コンサートは、こうした2段階方式または区分け・隔離方式でのウイルス対応で続いていくようです。

 しかし、超メジャーには至らないアーティストや、金銭的にも物理的にも上記のような対応が不可能な小~中規模の会場(音楽ベニュー)では、引き続き対応に苦慮する状況が続いています。

 特に人の密度が半端なく、接触以上の接触(体当たりや抱擁、絶叫や激しい呼吸など)が常に起こるメタル系やダンス系など、激しい音楽が中心となる音楽ベニューでは、人の密度を考慮した会場セッティングや、会場内の通気・換気システムの改善など、会場自体での充分なウイルス対応・対策が中々繰り出せません。

 また、ジャズ系は体の接触的にはリスクはかなり少ないですが、スペース的に更に小さくなるところが多いので、密度と換気の部分では対応が非常に難しくなります。

 更に事前のワクチン接種確認に関しても、そのための対応には人も時間も予算も必要になってきますので、日々のショーでそこまでの対応が中々できません。

 一方、ローカル・シーンが再開可能になっているのは、少々事情が異なります。

 例えば、上記私の娘が今回のツアー再開で回るのは南部です。共和党地盤の所謂レッド・ステートと呼ばれる州が中心となる南部や中西部では、相変わらずウイルスに対する意識が低く、危機感も弱く、ワクチンにも懐疑的なところが多いため、ウイルス対応・対策は、ニューヨーク州など民主党地盤のブルー・ステートとは全く異なります。

 簡単に言えば、再開に積極的と言っても、しっかりとした対応・対策に取り組んだ上での再開と言うよりも、何の疑いやためらいもなく、これまで通りに稼働しているとろが多いと言えます。

 よって、ローカル・シーンの再開というのも、まだまだ全国レベルではなく、南部・中西部の所謂レッド・ステートや、ブルー・ステートでも郊外・地方エリアが中心となっていますし、そうした州やエリアでは、会場側がしっかりとしたウイルス対応・対策を取ることはあまり期待できません。

 逆にアーティスト側には事前のウイルス・テストが求められたりもしますので、アーティスト側で、アーティスト自身で、しっかりとした対応・対策を取らなければならないわけことも多々あります。

 「ウチは安全だし、ウイルスなんて気にしていない。でもウチに来るなら、変なウイルスを持ってこないように注意・対応してほしい」と言わんばかりの姿勢とも言えますし、引き続きウイルス感染のリスクのある中でのアーティスト側の判断と対応次第、ということになってきます。

 ただ、主に南部や中西部、また東部でも郊外・地方レベルになりますと、会場自体が広く、屋外セッティングもあったり、ニューヨーク市内のような密な状況とは圧倒的に異なることは確かです。

 例えば今回娘が参加するツアーは、音楽的にはサザン・ロック/カントリー系で、メインのシンガーも元々は南部の出身です。会場もレストラン&バー・スタイルや屋外セッティングがあったり、完全に野外セッティングなど、密やカオス的な状態となる危険性は非常に少ないと言えます。

 よって、そうした地理的・立地的、そして音楽的な状況・背景も大きく関わってくるというのも、広く多様なアメリカならではの特徴と言えるかもしれません。

 そのようなわけで、ローカル・シーンでも大都市部や東部・西部の市街地の動きはまだまだであると言えますし、積極的に再開している州・エリアでも、ツアーで回るとなると、アーティスト側の判断・対応が大きく問われてくると言えます。

 そして、中規模のコンサート/ライヴ会場と、それらを拠点とするアーティスト達が今後どのように再開していくのかは、まだまだはっきりとは見えにくいところでもあります。

 したがって、今は取りあえず9・10月以降のショーを告知・チケット販売し、この夏の動きに注視する、というのがライヴ再開に関する音楽業界全体の大方の見方・動きであり、そうした秋から年明けのライヴ活動を見据え、今はそのタイミングを合わせた新作のレコーディングに取り組むというのが多くのアーティスト達の動きであるとも言えます。

 

 冒頭でも述べたように、“今年の冬には再び感染が爆発的に増えてロックダウン”というワースト・シナリオも否定できないどころか、一層耳にするようになってきていますので、このまま右肩上がりで進んで、秋以降には一気に完全再開する、というベスト・シナリオを鵜呑みにすることはまだできないと言えます(もちろん、ベスト・シナリオを切に願い、祈っていますが)。

前回のパンク・ロック系の話題の勢いからは、一転してテンションが下がっているように感じられるかもしれませんが、決してネガティヴになっているわけではなく、あくまでもポジティヴに、でも“賢明に”、という姿勢が益々問われてきているように強く感じます。

 

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