I Love NY

【I Love NY】月刊紐育音楽通信 October 2017

既に人生の半分 以上をニューヨークで過ごしている私ですが、
それでも日本で生まれ育った有色人種の移民である私にとって、
アメリカの国旗・国歌に対する理解と意識には、常に複雑な要素や
気持ちがあることは否めません。
 まず、アメリカというのは分権分立する州が集まった合州国であり
(”合衆国”というの誤訳です)、人種的にはネイティヴ・アメリカンを除く全ての
人間が移民または移民の子孫であり、同時に様々な人種・宗教・階層が共存する
国家ですので、そうした多種多様性をアメリカという一つの国家に結集させる上で、
国旗・国歌というのは連合(United)の根幹を成す不可侵で絶対的な象徴である、
というのは重要な点です。
 更に、実はこれはアメリカ人でもよくわかっていない人がいますが、
特にアメリカの国歌というのはその歌詞の内容からもわかるように、
アメリカという国家・国民を守る軍や軍人を称え、また軍や軍人に
敬意を示す意味があります(よって国歌斉唱時は軍人が国旗は運び、
掲げるのが通例です)。
 そのような背景があるため、NFL選手達による国家斉唱時に
膝を付くという行為は決して許されるべきものではない、というのが
一般的な正論と言えます。しかし、何故彼等は膝を付くのか、
何に対してプロテストしているのか、という点をしっかりと理解しなければ、
この問題は平行線のまま批判罵倒合戦に終わってしまいます。
 それは国歌に対 する冒涜やプロテストでもなく、軍に対する不敬でもなく、
それは人種問題に対するプロテスト以外の何物でもないのです。
つまり、この膝を突くという行為を一つのムーヴメントにした立役者である、
元サンフランシスト・フォーティーナイナーズの天才QB、コリン・キャパニック
(彼はまず国歌斉唱中にベンチに座ったまま立ち上がらなかったのですが、
その次に国歌に敬意を示しつつプロテストをする方法として膝を付くという行為を
行いました)の「黒人や有色人種への差別がまかり通る国に敬意は払えない」という
発言にあるように、人種差別を黙認または助長する国家やシステムに対するプロテストが、
この行為の理由・目的であるわけです。
 しかし、トランプは「(膝を付くという行為は)人種の問題ではなく、
国家・国歌に対する敬意の問題だ」と言って全く耳を貸しません。
彼のスローガン「アメリカを再び偉大な国に」のアメリカは
”白いアメリカ”に他ならないとの批判が益々高まる中、70%以上が黒人である
NFL選手達のプロテストは、本当にアメリカを偉大な国にするための
大きな”試金石”と言えるかもしれません。

トピック:ニューヨーク「この秋のベスト・コンサート10選」

 9月が新作アルバムのラッシュであることは先月の本稿でもお伝えしました。
その時は70歳を超える50年代・60年代・70年代の大物アーティスト達について
触れましたが、9〜11月にかけての新作で、いわゆるメイン・ストリームの大物系としては、
ピンク、マイリー・サイラス、シャナイア・トゥエイン、テイラー・スウィフト
といったところが再注目と言われています。
 そうした新作に続くのがコンサート/ツアーであることも、音楽界の変わらぬ
通例であると言えます。先月、新作発表についてご紹介した
大ベテランの大物アーティスト達も次々とツアーに出始めています。

 音楽メディアが次々と変遷し、若者の音楽離れさえ危惧されていた中でも、
ライヴ/コンサートという“興行”は、変わらぬ“売り上げ”を伸ばしています。
ダウンロードやストリーミングによって、音楽メディアの売り上げが
伸び悩んでいった中で、興業こそが今後の音楽界を支える求心力となる、
という論調も音楽関係はもちろん、一般のニュース・メディアにおいても
よく言われてきました。

 実際にそのことは間違いなく、以前本稿でもご紹介した“モンスター”プロモーター企業
「Live Nation」の躍進ぶりは、そのことを証明していると言えます。
 2005年に設立された「Live Nation」 は、レコード契約のような形でアーティストと
興業契約を交わすスタイルがこれまた斬新であったわけですが、アメリカ全土の
人気・名門クラ ブ(ライヴ・ハウス)や有名ホール/シアターを次々と買い取り、
スーパー・ボウルのハーフタイム・ショーや音楽以外の人気イベントの
興業権も手中にしたりと、その経営戦略はかつての“興業”を遙かに超えるものでした。
 なにしろ、2016年の純利が2015年に比べて倍以上というのは尋常ではありませんし、
これも一つのアメリカン・ドリームであると言えます。

 さて、そんなバブリーな興業ですが、サンクス・ギヴィング・デーから
クリスマスにかけてのホリデイ・シーズンに突入する前の11月中頃までにかけて、
今年も注目のライヴ/コンサートが目白押しとなっています。
 ヴェニュー(ホールやクラブ)も、かつての有名・名門ヴェニューが消えていく中で、
ここ数年は新たなヴェニューや改装復活したヴェニューなども次々と登場して
話題になっており、例えば大コンサート・ホールであれば
バークレイズ・センター(18000人収容)、 中規模スペースであればターミナル5(3000収 容)、
中規模ホールであればキングス・シアター(3000人収容)、クラブであれば
ブルックリン・スティール(1800人収容)やブルックリン・ボウル(600人収容)など、
音楽ヴェニューも今や圧倒的にブルックリンの比重が高まっています(ターミナル5はマンハッタン)。

そうした中、先日「この秋のベスト・コンサート10選」がニューヨークの地元紙で
発表されていました。「ベスト」と言うと人気と売り上げという側面重視になるのは仕方なく、
いろいろと異論もあるところです。ですが、それでも注目度という部分もそれなりに
加味されていますので、メジャー中心ではありますが、ニューヨークの音楽ムーヴメントの
動きや傾向を見るには大変興味深いベスト10であると言えますので、
以下に紹介してみたいと思います。

 まず、ベストのトップに君臨するのはエド・シーランです。
このまだ若いイギリスのシンガーがトップに来ることには誰も反論できないと
言えますが、それほど彼の人気は圧倒的です。正直、見た目は全然格好良くないし
(どちらかというと薄汚い?)、音楽的にも圧倒的なパワーを持っているとは
言えませんが、これほどまでの人気を得ている理由の一つには、“クルーナー”と呼ばれる
彼の唱法があると言われています。
 “クルーナー”というのは、“クルーニング唱法をする人” という意味ですが、
このクルーニングというのはささやくように優しく歌う唱法で、1920年代のマイクロフォンの
登場・発展によって生まれ、人気が高まったスタイルと言われています。
具体的にはナット・キング・コールやビング・ クロスビーなどが有名で、
もちろん人気は彼等の見事な歌声があってのものですが、マイクの発展が無ければ、
あの時代にあれほどの全国的人気と市場確保をあり得なかったという面も確かにあります。
 このクルーニングは、その後のロックンロールのブームと、黒人音楽への傾倒によって
メジャーな人気を失っていきましたが(もちろんジャズや一部のポピュラー音楽においては
その後もしっかりと根付いていますが)、それをメジャーなロックやR&Bのレベルにおいて
巧みに取り入れて復活させたのが、シーランの新しさ・注目点であると、
特に批評家達の間ではよく言われています。
 こうした分析はなるほどとは思いますが、日々ニューヨーカーの中でニューヨーカーとして
暮らす私としては、シーランがニューヨーカーに非常に親しまれている部分としては、
実は彼のパーソナリティという面も大きいように感じられます。彼はどちらかというと
物静かな青年ですし、派手な言動もありませんが、例えばアメリカで人気の
バラエティTV番組に出演している際の彼は、言葉は少ないながらも、政治的にも
社会的にもそのスタンス(反トランプ、反ブレグジット)ははっきりとしています。
しかもその態度や姿勢は穏やかでポジティヴである、というところに、多くの
一般的なニューヨーカーは、彼の音楽と共に、そのパーソナリティに対しても
好印象を持っているようです。

 さて、そんなシーランに続くのは、話題の女性アーティスト達です。
今回の10選に選ばれたのは、ケイティ・ペリーとケシャとホールジーの3人ですが、
この秋にコンサートを行わない人気女性アーティストも多数いるわけですので、
この3人が現在の音楽シーンにおける人気女性アーティストのトップ3というわけでは
ありません。しかし、それでもこの3人というのはそれぞれが実に個性的・対象的であり、
しかも全員ニューヨーク生まれでは無いながら、ニューヨークのファンや
メディアからは多大な人気と支持を集めているのは興味深い点です。

 3人 の中で最もメジャーな全国区的存在は、やはりケイティ・ペリーということに
なりますが、彼女は先日の大統領選挙ではヒラリー・クリントンの熱烈なサポーター
またはPR大使としても注目されていましたし、レディ・ガガ、 テイラー・スウィフト
(ペリーとの確執も、しばらく話題になっていました)との白人人気女性シンガー
御三家の中では、今やニューヨーク出身のガガよりも一般的な人気を得ていると
言えるかもしれません。
 正直言えば、この3人の中で最もカリスマ性に欠けるのもペリーと言えますが、
過激すぎるガガよりも、ある意味ニューヨーカーの女の子達には奇抜であっても
安心感があるようですし、可愛くても地方(田舎)的な雰囲気が強くて
ニューヨーカーには敬遠されがちなスウィフトに対して、
ペリーはカリフォルニアのお嬢さんではあっても、都会的な垢抜けた
感覚が支持・共感を得ていると言えます。

 ケシャは以前の“悪徳”レコード会社との訴訟問題が大きな話題となりました。
そうした苦境・困難に打ち勝って、再びシーンに復活してきた彼女へのエールは
ニューヨークでも極めて大きいといえます。
 彼女はロサンゼルス出身ですが、東欧系のシングル・マザーに育てられ、
貧困生活の中でウェイトレスなどで稼ぎながら自分の音楽を追究し続けて成功した
サクセス・ストーリーに対しては、元々ニューヨークでも大きな共感と評価を得ていました。
また、他のアーティスト(ブリットニー・スピーアズなど)に楽曲を提供したり、
他のアーティスト(ケイティ・ペリーなど)のバック・コーラスを務めたりなど、
単なるアイドル/アイコンではない点は誰もが認めていると言えます。
 プライベートでも仲がいいというペリーの奇抜さとは異なる、パンク的で
ダーティなイメージと、音楽的にはカントリーとヒップホップが共存しているような
不思議なスタイルもニューヨーク受けする 大きな魅力の一つであると思います。

 3人の中では最も若く(まだ23歳)、ニューヨーク育ちのホールジーは、
ある意味ペリーやケシャ以上にニューヨークで大きな支持を集める
アーティストであると言えます。
 ホールジーという名前は、彼女が育ったブルックリンにある
地下鉄の駅(ホールジー・ストリート)と本名(アシュリー)との
造語・言葉遊びによるものですが、特にニューヨークでは絶大な人気と
尊敬を集めるアラニス・モリセットとエイミー・ワインハウスの再来を
思わせる部分を持ちつつも、彼女は単にシンガ−・ソングライターのみならず、
エレクトリック・ポップのサウンド・クリエイターでもある点が特徴的です。
 そうした優れたミュージシャンシップも加わって、彼女は今後、ペリーやケシャ、
更にはガガをも超えるようなビッグな存在になっていく可能性を秘めていますし、
今回のブルックリンはバークレーズ・ センターでのヘッドライナーとしての出演は、
地元ということもあって熱狂的な歓迎を受けることは間違いありません。

 シーランに続く男性アーティストは、ご存じブルーノ・マーズと、
イギリス出身でまだ23歳のハリー・スタイルズです。
 マンハッタンのマジソン・スクエア・ガーデン、ブルックリンの
バークレイズ・センター、そして約2年間の改築・改装を終えて今年再オープンした
ロング・アイランドのスポーツ・アリーナ(以前はNBAやNHLチームの本拠地)という
ニューヨークを代表するドーム・スタジアムでの公演を立て続けに行い、
ニューヨークを“制覇”するマーズの躍進ぶりは今更説明する必要も無いかと思います。

 同じイギリス出身ということでエド・シーランとも仲が良く、
テイラー・スウィフトの元彼氏でもあったスタイルズは、イギリスの
オーディション番組「Xファクター」でサイモン・コーウェルに見いだされて
デビューしたボーイズ・グループのワン・ダイレクションのメンバーとして
人気を得たわけですが、去る5月に初のソロ・アルバムを出したばかりで、
9月にはニューヨークの音楽ヴェニューの殿堂とも言える
ラジオ・シティ・ミュージック・ ホールで単独コンサートを行うというのは
何とも驚きであると言えます。

 さて、残る4アーティストも中々強力です。
まずは80年代のロック・シーンを代表するガンズ・アンド・ローゼズ。
昨年アクセルとスラッシュとダフの3人が再び揃って以来快進撃を続けていますが、
今回はマジソン・スクエア・ガーデンでの4日間連続コンサートという、
まるで80年代当時のような勢いでニューヨークにやってきます。

 そして、こちらは90年代のビリー・ジョエルやエルトン・ジョンとも言われた
ベン・フォールズが、ブルックリン(キングス・シアター)で一晩のみ、
ピアノ弾き語りのショーを行います。
 自虐的で屈折した歌詞がユニークなフォールズですが、この人のピアノ・プレイには
実に卓抜したものがあり、最近はフル・オーケストラともツアーを行っていた彼が、
今回はピアノのみでステージに立つということで、ニューヨークでは
大きな注目を集めています。

 フォールズと同じくブルックリンのキングス・シアターの2日前に主演するのが、
地元ニューヨークはロング・アイランド出身のロック・バンド、ブランド・ニューです。
 バンドの結成は2000年 で、年齢的には40歳前後の中堅ロッカー達。
このバンドはエモーショナル・ハードコアとも呼ばれるエモの代表バンドとも
言われますが、オルタナ系やポップ・パンク系の要素も加わった幅広い音楽性には
熱狂的なファンも多く、既に彼等に影響を受けた更に若い世代のバンドも多く
登場してきているほどです。久々にニューヨーク出身の
大メジャー・バンドとなる期待も高まっています。

 そして最後はラッパー/シンガー/MCのT-ペインです。
エイコンやカニエ・ウェストなどとも共演し、グラミー賞も受賞し、
ソングライターとして、またプロデューサーとしても活躍し、既に絶大な人気と
支持を得ている彼ですが、オートチューンの使用で知られる彼が、
最近はアコースティックに傾倒したライヴを繰り広げており、
注目度は更に高まっています。

【I Love NY】月刊紐育音楽通信 September 2017

私の住むクイーンズ区のロング・アイランド・シティ(マンハッタン島東側のイースト・リヴァーを渡ってすぐの町)の北側にアストリアという町があります。

ここは1600年代半ばの入植後、1800年 代初頭から栄え始めた古い町ですが、

音楽面においては、スタインウェイがピアノ会社をこの地でスタートさせたことがよく知られており、 ミュージシャンでは何と言ってもトニー・ベネットとシンディ・ローパー(どちらもイタリア系)の出身地であることが有名です。

アストリア は元々南イタリアやシシリー島からの移民の多い町でもありますが、イタリア系以上に多いのがギリシア系移民で、こちらの代表的なミュージシャンはマリア・カラスであると言えます。

 現在のアストリアは、ギリシア系を中心にイタリア系、ブラ ジル系、中東系など様々な

コミュニティが混在する多様性に満ちた町ですが、

実はこのアストリアにはニューヨークでは数少ないギリシア系の ネオナチ・グループも存在するということはあまり知られていません。

 

 アストリアのあるクイーンズ区を東に進むとロング・アイラ ンドというエリアになりますが、

この東端にハンプトンというセレブや大富豪達の邸宅や別送・避暑地として知られるエリアがあります。

近辺 にはワイナリーもたくさんあり、私も時折足を伸ばしますが、

このエリアの中にハンプトン・ベイという町があり、

そこはニューヨークのKKKの本拠地でもあります。

少し前の話ですが、ハンプトン・ベイの駅のトイレでKKKの勧誘のチラシを見つけたり、

ショッピング・モールのトイレで黒人/ユダヤ人/アジ ア人/スパニッシュ排斥の

チラシを見た時は私も驚愕しました。

 

 このようにアメリカは、例えニューヨークであっても人種差別の“影”は

依然存在していますが、それがトランプが大統領になって以後、“影”が実体となり、

裏の世界から表舞台に公然と現れるように なりました。

それが先日のシャーロッツビルの暴動・惨事となり、更にトランプの対応の悪さで

白人至上主義者達は一層勢いづき、アメリカ (南部)連合国に関わる彫像などの

撤去問題や歴史評価も絡み、アメリカは今様々なレベルでの対立・分裂に

見舞われていると言えます。

 

 去る8月28日はキング牧師の有名な演説とワシントン大行進の54周年記念日でした。

あれから半世紀以上が過ぎましたが、キング牧師の“夢”はどこに向 かうのでしょうか。

 

 

トピック:70代 “ピース&ラヴ世代”の逆襲

 

 スーパー・ボウルのハーフ・タイム・ショーを手厳しく批判 したカルロス・サンタナが、

逆に若いファンや一部のメディアから批判中傷を受けてしまったことは以前本稿でも紹介しました。

問題となった のは昨年2016年のスーパー・ボウルで、

場所はサンフランシスコ・フォーティナ イナーズ(49ers)の本拠地である、

サンフランシスコの南東サンノゼの隣町サ ンタ・クラーラにあるリーヴァイス(Gパン・メーカー)・スタジアムでした。

 この時の出演者はコールドプレイ、ビヨンセ、ブルーノ・ マーズでしたが、

ビヨンセは3年前の2013年 に、ブルーノ・マーズは2年前の2014年 にヘッドライナーとして、ハーフタイム・ショーに出演しており、2016年のヘッ ドライナーはコールドプレイで、

ビヨンセとブルーノ・マーズはゲスト出演扱いであったとは言 え、

僅か2~3年後の再出 演はあまりに視聴率優先主義で、

いくらなんでも偏りすぎだろうという批判が方々から噴出しました。

 

 更にこの時のビヨンセはかつての過激派黒人運動ブラック・ パンサーを

意識した衣装と振り付けで、これも更に論議を呼び、

タカ派・保守派として知られるジュリアーニ元ニューヨーク市長からは

「けしからん」と批判されるオマケも付きました。     

 

 この時のサンタナはスーパー・ボウルの名プレイを編集した ビデオ・クリップにおいて

演奏シーンの映像での参加となりましたが、イベント後にフェイスブック上でNFLと

放映局のCBSに対し、

「世界中で人気のある地元を代表するバンド(例えばサンフランシスコであれば、ジャーニー、メガデス、スティーヴ・ミラー、ドゥービー・ ブラザースなど)をフィーチャーすべきだし、本物のライヴ・バンド、本物のライヴ・ボーカルで、聴衆にライヴの感動を与えるべきだ」と

きっぱりとクレームをつけたのです。

 

 この“ライヴ”(つまりアテレコ/アフレコではなく)とい うのは、

明らかにビヨンセを始めとする最近のリップシンク・パフォーマンスを痛烈に批判しており、

中高年層のミュージシャンや業界人、 ファンを中心に大きな支持を得たのですが、

逆に若者層からは「ダンスのできないサンタナにはリップシンクの重要性は理解できない」

などと 批判され、果ては「サンタナは自分が出演したいだけ」、

「サンタナの時代はもう終わった」、「サンタナって誰?」などと敬意のかけらも無 い批判を

若者達から浴びることになってしまいました。

 

 そんな経緯があったわけですが、ミュージシャンであれば、

その落とし前は音楽でつけるべく(?)、サンタナは去る7月末にファンクR&Bの元祖と

言うべきアイズレー・ブラザーズ(現在はロナルドとアーニーの2人のみ)とタッグを組み、

ビリー・ホリデイ、マディ・ウォータース(作曲はウィーリー・ ディクソン)、

カーティス・メイフィールド、マーヴィン・ゲイ、スティーヴィー・ワンダーを始めとする往年の

名曲をカヴァーした実に中身 の濃いアルバムを発表しました。

 

 タイトル名はずばり「パワー・オブ・ピース」

常に平和を 愛し、平和の力を信じるサンタナらしいタイトルですが、

この作品は彼がメキシコからアメリカに移住してきた10代の頃によく聴いていたという

アイズレー・ブラザーズとの共演ということで、彼自身の 作品というよりも、

アイズレー・ブラザーズ(特に看板ボーカルのロナルド)に捧げた作品という印象が強いと

言えます。よって、そこにはサ ンタナのアーティストとしての主張・表現というよりも、

ロナルドのボーカルをもっと今の世代の人達にも再認識してもらいたいという献身的 な

姿勢が色濃く表れています。

 

 この作品はレコーディングもオールド・スタイルで、一発録 りを基本にオーバーダブは

ボーカルなど最小限にとどめ、収録されなかった曲も含めて16曲 をたった4日間で

録り終えたそうです。よって、作品全体にはライヴ感が目一杯に溢 れており、

多少のズレや甘さよりも勢いや流れを重視するスタイルを取っていますし、

これこそが正にサンタナが前述のスーパー・ボウル騒動 で発言していた

“本物のライヴ・ミュージック”のエッセンスと言えますし、それをスタジオ・レコーディングにおいて体現したサンタナの “音楽の落とし前”

であるとも言えます。

 

 ロナルドは76歳、 サンタナは70歳ですが、

音楽に年齢など関係無いことは言うまでもありません。

もちろんボーカルは最も“フィジカルな楽器”ですから、

体の衰えはストレートに声に反映されますし、あの艶やかでパンチのあるロナルドの声 は

全盛期に比べれば落ちていることは事実ですが、深みと重厚なパワーは逆に全盛期に

比べて一層迫ってくるものがあります。

 

 

 この「パワ・オブ・ピース」という作品は、サンタナとロナ ルド・アイズレーの健在ぶりを

見せつけただけでなく、世界中で混沌と対立が激化する現代社会、

特にドラスティックな変化を迎えて葛藤・対 立・分裂するアメリカという国に、

もう一度ポジティブなスピリットを与えたいという思いが満ち溢れています。

それはロナルドの

「このアルバムが世界へ向けて愛と平和と希望のスピリットを届けてくれることを願っている」

という言葉からも明らかですし、トランプ大統領誕生後に渇望されていた音楽界からの

音楽によるメッセージが、いよいよ本格的に発信され始めた証とも言えると思います。

 

 この作品と時をほぼ同じくして、やはりドラスティックな変 化を迎えたイギリスからは、

何とミック・ジャガーが「Gotta Get A Grip / England Lost」という強烈なメッセージを

伝える2曲 を、しかもミック自身の誕生日(74歳)に合わせて発表したことは注目されます。

ミック・ジャガーという人は、どちらかというとこれまで政治的・社会的な言動を

表立って行うアーティストではありませんでしたが、

「England Lost」ではサッカーの試合のことを歌いつつもイギリスのEU脱退を皮肉り、

「Gotta Get A Grip」では現在の狂った混沌状態を批判しながらも、

「冷静さを保て」、「ぶっ叩け」と鼓舞する強烈なメッセージ・ ソングになっています。

 

 この米英を代表する70代 のスーパー・アーティスト達のリリースに続けとばかりに、

9月のアルバム・リリー スは、特に50年代・60年 代・70年代を代表する

大物アーティスト達の作品が目白押しとなっています。

そも そも9月というのは新作リリースが集中する時期でもありますが、

今回はそのライン ナップがこれまでとは明らかに異なります。

 

 ということで、まずは9月にニュー・アルバムを発売する主要な著名アーティスト達を

以下に紹介してみたいと思い ます。

 

スティーヴン・スティルス&ジュディ・コリンズ:スティルス は1945年生まれ。

72歳。 フォーク・ロックのバッファロー・スプリングフィールドの元メンバーで、

現在もフォーク・ロックのCS&N(ク ロスビー、スティルス&ナッシュ)のメンバーであり、

ソロ・アーティストでもある。前述の2バ ンドで2度ロックの殿堂入り。

 

コリンズは1939年 生まれ。

78歳。50~60年代のフォークの歌姫であり、女性シンガー・ソングライターの元祖的存在。

スティルスの元恋人であり、クリントン元大統領夫妻の娘チェルシーの名前は、

コリンズの歌った曲「チェルシーの朝」(ジョニ・ミッチェル作曲)から 取られている。

新作アルバム名は「Everybody Knows」

 

デヴィッド・クロスビー:1941年生まれ。76歳。

フォー ク・カントリー・ロック・バンドのザ・バースの元メンバーで、

フォーク・ロックのCS&Nそ してCSN&Y(クロスビー、スティルス、ナッシュ&ヤング)の

メンバー として知られる。ヒッピー・ムーブメントの代表的ミュージシャンでもある。

前述の2バ ンドで2度ロックの殿堂入り。

新作アルバム名は「Sky Trails」。

 

ニール・ヤング:1945年 生まれ。71歳。カナダ出身のシンガー・ソングライター。

フォーク・ロックのバッ ファロー・スプリングフィールドと

CSN&Y(クロスビー、スティルス、 ナッシュ&ヤング)の元メンバー。

ソロ活動では自身のバンド、クレイジー・ホースを率いて有名。

バッファロー・スプリングフィールドとソ ロ活動で2度ロックの殿堂入り。

新作アルバム名は「Hitchhiker」。

 

ヴァン・モリソン:1945年 生まれの72歳。

イギリス(北アイルランド)出身のロック/ブルース/ブルー・ア イド・ソウルの

代表的シンガー・ソング・ライター。ロックの殿堂入り。イギリスでは勲章も受章。

新作アルバム名は「Roll with the Punches」。

 

クリス・ヒルマン:1944年 生まれ。72歳。

フォーク・カントリー・ロック・バンドのザ・バースの元メンバー。

新作アルバム名は「Bidin’ My Time」。

 

リンゴ・スター:1940年 生まれ。77歳。ビートルズのドラマー。

1989年 からは自身のオールスター・バンドを率いて精力的に活動を続けている。

新作アルバム名は「Give More Love」。

 

キャット・スティーヴンス:1948年生まれ。69歳。ロンド ン出身のシンガー・ソングライター。

60年台後半から70年代にかけてフォーク・ポップスの分野で爆発的なヒットを続けた後、

イスラム教に改宗 して名前をユスフ・イスラムに改め

(ちなみに、キャット・スティーヴンスも芸名)、事前運動家として活動していたが、2006年に音楽界に復帰。

新作アルバム名は「The Laughing Apple」。

 

ラスティ・ヤング:1946年 生まれ。71歳。

バッファロー・スプリングスフィールドのマネージャーとして活動 した後、

フォーク・カントリー・ロックのバンド、ポコを結成。

マルチ・インストゥルメント奏者だが、特にスティール・ギターの名手。

新作アルバム名は「Waitin’ for the Sun」。

 

リオン・ラッセル:1942年 生まれ。2016年死去(享年74歳)。

アメリカン・ルーツ音楽を基盤としながらもジャンルを超越したアメリカを代表する

国民的シンガー・ソングライター&ミュージシャン。ロッ クの殿堂(サイドメン)入り。

新作は最後のスタジオ作品でアルバム名は「On A Distant Shore」。

 

ランディ・ニューマン:1943年生まれ。73歳。

数多く の映画音楽も手掛けてアカデミー賞も受賞しているシンガー・ソングライター。

独特のユーモアを持ったポップな曲風で知られる。ロックの殿堂入り。

新作アルバム名は「Dark Matter」(8月発売))

 

 9月は更に、上記アーティスト達よりも若い世代となるマイケル・マクドナルド、

ジョーン・オズボーン、ディキシー・チックス、リヴィング・カラー、フー・ファイターズなどの

新作リリースも加わるのですが、やはり70歳を超 える50年代・60年代・70年代の

大物アーティスト達の作品がこれほどずらりと並ぶのは異例のことと言えますし、

何とも圧巻です。

 

 上記アーティストの新作アルバムは、

サンタナ&アイズ レー・ブラザーズやミック・ジャガーの作品程、

現状に対するストレートな批判やメッセージをこめたものとは言えない部分がありますが、

そ れでもアーティストによってアルバム名や曲名、そして歌詞の中には現状に

対するそれぞれの思いやメッセージが込められていることは間違い ありません。

 

 また、上記新作の多くはトランプ大統領誕生後程無くして制作がスタートしていることも、

社会の動きに対する彼等の“音楽的な返答”という面も色濃くあります。

 

 そして何よりも、上記新作の巨匠アーティスト達をリアル・ タイムで知っている人で

あれば言わずもがなですが、彼等の基本姿勢は「ピース&ラヴ」であり、

彼等は「フラワー・チャイルド(武器ではな く花を)」なのです。

そこにあからさまな政権批判・現状批判が無くても、

あらゆる憎悪・対立・攻撃・衝突・抗争などといった要素や姿勢は一切受け入れない彼等の

スタンスは徹底しています。

しかも彼等はベトナム戦争という悪夢・狂気を潜り抜けて戦ってきた世代です。

そんな彼 等が今一度愛する母国アメリカのために、そして世界中の兄弟姉妹達のために、自分達の音楽をもって立ち上がった、と言うのは少々大袈裟で しょうか。

私はそうは思いませんし、そんな彼らに続くのは、これからの世界を動かしていく若者達であると思います。

 

 70代 の反戦・平和世代の“逆襲”に喜びつつ、続く若い世代の“返答”が楽しみな

2017年 の秋と言えます。

【I Love NY】 月刊紐育音楽通信 August 2017

 前回、ニューヨークの公共交通機関の劣悪な状況についてお話しましたが、
先日、改善のための暫定措置として、地下鉄のシートを全て外した
オール・スタンディング車両を試験的に導入するという案がアナウンスされて
話題になりました。ラッシュ時は満員で車両に乗り切れず、
ホームに人が溢れて危険という状況の緩和には少し役立つかもしれませんが、
妊婦や小さな子供を連れた人、老人やハンディキャップの人はどうすれば良いのか、
あまりにも稚拙なアイディアで苦笑・失笑が出る程です。
そもそも“乗れない”原因は、地下鉄全体のシステムが老朽化して
故障やトラブルが続出となっているために地下鉄がきちんと “来ない”ことにあるわけで、
市民はそのアイディアに呆れ顔といったところでしょう。
 前述の理由・批判に加えて、ナチ時代の収容所輸送の列車を思い起こすという
ユダヤ人からの批判もあったのはニューヨークらしいところでもありますが、
満員電車に関してはいつも日本とアメリカの違いを痛感します。何故なら、アメリカでは
日本のような“寿司詰め満員電車”というのは起こり得ず、人と体が触れ合わない、
最悪でも人と体がぴったりとくっつかないレベルでの満員電車ということになります。
よって、僅かな隙間に無理矢理乗り込んで来るような人は極めて少なく、
そういう人がいるとすぐに非難・怒りの目や、時には言葉が向けられます
(無理矢理乗り込んで来る人には日本人と中国人が多いのはちょっと困った点ですが)。
 日本ですと、車掌が乗客を車両内に押し込むという光景もあるようですが、
あれをアメリカでやったら暴行罪(男性の車掌が女性の乗客に対してであれば
性的暴行罪)などの重罪となること間違い無しです(笑)。
普段、お互いに知り合う仲では抱き合ったりキスしたりと体のコンタクトは
極めて頻繁で大らかなお国柄ですが、公共の場で見ず知らずの他人と体が接触することには
極めて神経質(自分の体や持ち物が相手にぶつかった場合はもちろん、触れただけでも
普通はまず謝ります)であるところは、日米の“体の触れあい”に対する意識の違いが
よく表れていて興味深いと言えます。

トピック:音楽界にも拡がる現代アメリカの病巣

(さらに…)

【I Love NY】 月刊紐育音楽通信 July 2017

先日、私の娘が乗っていた地下鉄が故障して真っ暗な地下内で約45分ほど立ち往生となり、
車内は冷房も効かず酸欠状態となって乗客がパニック状態になるという事故がありました。
その後この車両は動き出し、乗客も結果的には全員無事でしたが、
車内にはまともなアナウンスも無く、救援も遅かったことで、
パニック・アタックで一時呼吸困難に陥った娘はその後泣きながら私に連絡してきました。

 そもそもニューヨークは全米一、もしかすると世界でも屈指の公共交通機関が
最悪な都市と言えますが、現在その状況は更に悪化し、
市民の怒りは頂点に達しつつあります。

 そんな事件から約20日後、今度は私がいつも利用する地下鉄のラインで脱線事故が起き、
車内には煙が立ち込めるなどの被害が出て、39人もの人が負傷しました。
私は幸いこの日は別の地下鉄ラインを利用して動いていましたので
事件に遭遇することは避けられましたが、もしも同乗していたら、と思うとゾッとしました。

 一体こんなことがいつまで続くのか。
再開発だの新しい高層ビルだのと観光客や大資本ばかりに目を向けた投資・計画に熱心で、
市民の足や生活、また増え続けるホームレスのことなどにはまともに対応していない
今のニューヨーク市政は正直言って最悪の状況と言えますし、期待されていたデブラジオ市長は今や多くの市民達から能無しの裏切り者呼ばわれされています。

 毎日テロの不安を感じながら、更に公共交通機関もまともに動かず、煩わされ、
脅かされるという状況に、市民のストレスは一層高まるばかりです。

 先日、現状に耐えかねた反トランプ主義者が、
野球の練習をしていた上院議員達を銃で撃ちまくるという恐ろしい事件が
ワシントン郊外で起きましたが、国政においてもトランプ派と反トランプ派両者の
ストレスと対立は高まる一方で、今後更に過激な行動が両サイドから起きてくることも
懸念される今日この頃です。

トピック:21世紀新世代ジャズの到来

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【I Love NY】月刊紐育音楽通信 June 2017

 恐れていたことの一つがまた現実となってしまいました。大きな音楽イベントや
スポーツ・イベントなどの公共施設、つまり大型のコンサート・ホールやスタジアムなどが
今後の大規模なテロの標的となる確率は極めて高い、ということは前々から言われていました。
よって、マジソン・スクエア・ガーデンやラジオ・シティ・ホールなどでは入場に際して
かなり厳しいセキュリティ対応が行われていましたが、カーネギー・ホールなどの
クラシック系や、郊外のホールなどでは正直「この程度のセキュリティで大丈夫なのか」と
言えるような状況でした。
 2015年11月にパリで起きた同時多発テロの中で、イーグルス・オブ・デス・メタルという
ロック・バンドの演奏中にテロが勃発して89人もの犠牲者を出した事件はまだ記憶に
新しいですが、イギリスのマンチェスターにおけるアリアナ・グランデのコンサート
終了直後を狙ったテロは、犠牲者数はパリの時よりも少なく、公演終了後では
あったわけですが、やはりスーパー・アイドル級の大コンサートであったこともあり、
ニューヨークはもちろんこと、世界中の音楽イベンター達にとって戦慄すべき
大事件となりました。
 既にニュース報道でご存知かと思いますが、アリアナ・グランデはとりあえず
6月5日までのツアーをキャンセルとしましたし、イギリス、そしてヨーロッパ公演を
キャンセルするアーティストも
出始めています。更に、出演者よりも戦々恐々としているのはイベント会社や会場などの
イベンター側です。更に、ステージ設営会社やPA会社、マーチャンダイズ産業や
会場内で運営する飲食産業、そしてスポンサーとなる企業に至るまで大きな影響を
及ぼし始めています。
 もちろん、今回の大惨事によって興行産業が衰退するようなことはないと思いますが、
それでもセキュリティ面の見直しを始め、興行の形態やシステムに大きな変化を及ぼすことは
間違い無いでしょうし、なによりも観客側に大きな不安と影を与えることは
必至であると言えます。
 私が常日頃利用しているグランド・セントラル駅構内も次のテロ標的となる可能性の高い
最重要チェック・ポイントの一つとなっているため、ほとんど常にニューヨーク市警の警官と
機関銃を手にした州兵によって監視され、守られていますが、今後は銃を構えた警官や
州兵達に守られてコンサート鑑賞をするなどという事態を思い浮かべるのは
何ともゾッとします。

トピック:ユニバーサルの中国戦略とテンセントのアメリカ戦略

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【I Love NY】月刊紐育音楽通信 May 2017

 4月22日(土)はアース・デイでした。
ワシントンDCに集結して行われたマーチ(行進)を始めとして全米各地では、
我々にとって現在唯一の“宇宙船”である地球に対するケアとエコ・フレンドリーを
キー・ワードに、様々な環境保護、動物保護、食品保護などの団体・組織や個人が
様々なデモやマーチ、イベントを繰り広げ、更に今年は地球温暖化や環境破壊による危機を
訴える科学者達も加わっての大イベントとなりましたが、
予想通り、トランプ大統領と彼の政権は完全に無視・無関心の姿勢を貫いていました。

 そうした中で特に環境保護への関心と意識はアメリカでも
年々急速に高まってはいますが(特に大都市以外の地方自治体の中には、
かなり進歩的なエコ政策を進めているところもあります)
それでもアメリカという国は基本的には、また大多数で言えば、
省エネやエコとは完全に対局にある国であると言えます。
そもそも省エネなどという言葉すらもなく、
電気やガスなどのエネルギーは開発すればするほど、
消費すればするほど雇用や産業も促進されるので大歓迎という発想と言えます。
常に省エネを推進している日本の人達には申し訳ないですが、
アメリカ人にはそもそも“もったいない”といった発想はなく、
節約に対する意識や美徳などもなく、
むしろ開発・消費することにこそ美徳があるとでも言わんばかりです。

 よって、ある意味でトランプと現政権は、
そうしたアメリカの一般的な大多数を代表しているとも言えますし、
その自然破壊も厭わないエネルギー開発や反環境保護政策に関しては
実はかなりの支持を集めていると言っても過言では無いでしょう。
アメリカは人種、宗教、女性、LGBTQといった人権問題には
極めて敏感で意識も高いですが(つまり人権はアメリカの憲法の根幹を成すため)
環境問題に関しては、発展途上国よりも意識は低いと言わざるを得ません。
また、環境政策に関しては利権と支持が一層ストレートに絡むため、
連邦や州、地方自治体を問わずリーダー達には期待できず、
アース・デイのような草の根運動こそが重要であると感じます。
長い時間はかかるでしょうし、アメリカ人やアメリカ政府が本当に環境の大切さに
気付くまで地球が保つのかはわかりませんが、
この後の世界を担う子供達のために課せられた我々の責任・使命は大きいと言えます。

トピック:2017年「レコード店の日」に見るアナログ盤ブームの現状と今後

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【I Love NY】月刊紐育音楽通信 April 2017

 最近はどこにいても“どうでもいい話”や“たわいもない話”をする機会が
めっきり少なくなりました。それほど世の中では憂慮すべき様々な事柄が
進行していて、ニューヨークに限らずアメリカは日々そうした不安や危惧に
振り回されている感があります。
 個人的には、日曜日の礼拝におけるゴスペルのクワイアと演奏が
世間の雑音・騒音を忘れられる一時であるとも言えるのですが、それでも
牧師によってはストレートに政権に対するプロテストを語る人もいますし、
礼拝後は誰からともなくトランプ批判が繰り出され、礼拝後の和やかな語らいは
怒りに満ちた批判に様変わりしがちですし、様々なプロテストの拠点とも言える
ニューヨークの中でも、特にハーレムの黒人達の先行きに対する不安と政権への
怒りはかなりのレベルに来ていると感じます。そうした中、数日前のロンドンの
テロの余波を受けて、ニューヨークの交通機関やイギリス・国連関連などの
重要拠点は更に物々しい警戒態勢に入っています。
 そもそも都会の生活とは疲れるものではありますが、テロは神経をすり減らし、
プロテストは穏やかさが失われていく要因にもなってきます
(とは言え、プロテストは継続させなければなりませんが)。
時折日本に帰る方が安全かなと思うこともありますが、トランプ政権の下では、
日本と韓国はこの先何らかの大きな犠牲を払うであろうという認識が
アメリカでは一般化してきている中で、どこが安全という話ではないようにも思います。
 そうした中、やはり音楽というのはいつも人の心を和らげ、持ち上げ、慰め、
奮い立たせてくれます。
私自身はその時々の気分や心理状況に応じて、ゴスペル、カントリー、ジャズ、
ロック、ポップス、クラシックなど様々な音楽を“処方”していますが、
私の周りでも、例えばダンス系ばかり聴いていたような人が、何かもっと心に響く
音楽を求めて幅広い音楽に耳を傾け始めているように思います。
それは受け手だけでなく作り手に関しても同様で、時代は正に新たな音楽文化の
胎動期に入ってきているように感じます。

トピック:SXSWという巨大エンタメ&IT系カルチャー・イベント

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【I Love NY】月刊紐育音楽通信 March 2017

 個人的にはほとんど興味が無くなっているグラミー賞ではありますが、
賞の行方もさることながら、この授賞式のイベント自体が依然現在の音楽業界の動向や
方向性を示す一つのショーケースとなっていることは間違いありません。
 よって、ノミネートや受賞者のみならず、今年は誰が司会を務めるのか、
誰が、または誰と誰が共演パフォーマンスを行うのか、
誰がその過去の功績を表彰されたり追悼されたりするのか、
などといった点も興味深い点であると言えます。
 今回の授賞式後の報道では、
「今年は“政治”と“追悼”が一層前面に押し出された授賞式であった」
という論調が目立ちました。
なにしろ、私達はこの恐るべきトランプ時代を迎えたわけですから、
そのことは充分に予想されましたし、そもそもグラミーもアカデミーも、
“表向きは反体制”であると言えます。

 今回のグラミー賞授賞式での様々な発言は、
“音楽文化とその基盤となるフリーダムは決して国家権力には屈しない”という
力強さと逞しさが溢れていましたが、抗議・抵抗はもちろん必要なのですが、
その先のビジョンが見えてきませんし、
どこを向いても分裂・対立・抗争は一層激化するばかりです。
 なにしろ嘘を「代替的事実」などと称し、
目的遂行のためには侮辱・脅迫も厭わないエゴイスティックな政権ですので、
音楽業界、特にアーティスト達のプロテストは今後も一層激化していくことでしょう。
 いまや反トランプ・ムーヴメントを代表する娯楽TV番組と言える
「サタデイ・ナイト・ライヴ」の爆笑寸劇は、私も毎週楽しみにはしていますが、
それにしても権力サイドも反権力サイドも“更に過激に”“更に低レベルに”と
エスカレートしていく状況には、一層の不安と危機感も募らせてしまう今日頃と言えます。

トピック:2017年の音業界において最もパワーを持つ人物は?

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【I Love NY】月刊紐育音楽通信 February 2017

トピック:トランプと音楽界/音楽業界の2017年

 「これは悪夢に違いない」、「2017年が来てほしくない」。
どれだけ多くのニューヨーカー達がそう思ったことでしょう。
しかし、悪夢は現実となり2017年はやってきました。
前代未聞の言いたい放題・やりたい放題の大統領が誕生し、
アメリカは分裂と衝突の時代に入っていくことは間違いないでしょう。

 その証拠に、デモやプロテストは拡大・激化していく一方ですし、
ブルース・スプリングスティーンやマドンナ、 レディ・ガガやケイティ・ペリーなどを
筆頭に音楽界、特にスター達の行動は予想以上に過激になってきています。

 まだ音楽という手段での抗議は目立ってはいませんが、それほどミュージシャン、
アーティスト達も怒り心頭で危機感も頂点に達して切羽詰まってきており、
音楽表現などよりもストレートな行動に出ていると言えます。

 ですが、この2017年は音楽界も一層活発になっていく気配がします。
政治や社会が混乱し、不満や対立が激化していくと、音楽を始めとする文化は
パワーを増して、新たなムーヴメントをも生み出していくのは、
これまでのアメリカの歴史が証明しているからです。

 そこで今回は、トランプ批判ということではなく、トランプと音楽界/音楽業界、
そしてトランプ大統領&政権が音楽界/音楽業界に及ぼす影響について、
いくつか見ていこうと思います。

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